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大学入試改革授業案 共通点・相違点を整理して発表

21面記事

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英語
布村 奈緒子 東京都立両国高校・附属中学校指導教諭
思考力を問う問題の増加

 現行の学習指導要領にも新学習指導要領にも「思考力・判断力・表現力」を育むことが記されているが、今回の共通テストには、その「思考力」と「判断力」を必要とする出題が増えたことが一つの特徴として挙げられる。
 では「思考力」とは、どのような力なのだろうか。「比較対照」「因果関係」「分類分け」「関連付け」といったものが「思考力」だと私は考える。中でも今回のプレテストには「共通点と相違点」を見つける問いの多さが目立ったように思える(第2問B問4、第4問問2・問5、第5問B問2)。実際の授業で「比較」というと「相違点」を見つけ出させてしまうことが多いが、「共通点」にも焦点を当てる必要がある。ベン図等を用いて、読んだ内容の「共通点」と「相違点」を整理させることを行っていきたい。
 「分類分け」も、もう一つの特徴だ。第2問A問4では選択肢をFact(事実)とOpinion(意見)に分類分けさせた。この問題は、答えの数が限定されておらず、問題の種類として受験生が慣れていないことも相まって低い正答率となっている。
 第5問Bのように読んだ内容のアウトラインを書き、Tチャートで比較してまとめたり、第6問のように物語を「アウトライン」「主人公」といったカテゴリーに整理したりする場面を想定した問題も出題されている。
 また、従来のセンター試験は、本文中のある一文をパラフレーズして選択肢にしていることが多かったが、今回の共通テストは第2問B問4や第5問A問1のように複数段落の異なった要素をまとめて一つの選択肢にする例が見受けられた。複数の要素を一つにまとめたり、文章の概要をつかみ、それぞれの要点を簡潔に1語でまとめたりする活動をすることで、整理する力を身に付けさせることが必要になるだろう。
 授業の中でライティングとリーディングの統合も視野に入れる必要が出てくるだろう。第5問B問1、第6問問1(a)(b)では、読んだ内容のアウトラインを選ぶという出題が出ている。アウトラインを書いて、エッセーライティングができるようになれば、おのずとつながりを意識して書いたり、読んだりすることができるようになる。パラグラフやパラグラフ間の構造を意識し、つながりを意識して書いたり読んだりできるようになれば、第5問A問3のような一貫性を意識して読めているかを確認する問いにも対応できるようになるだろう。
 「判断力」は推論発問や書き手の意図を問う問題で測られていた。第6問問4では読んだ物語がどんな人に受けるかを判断させ、第5問A問2では、書き手が折り紙の効果についてお年寄りと若者に対する効果の両者を書いたその意図を選ばせることで判断力を見た。これらの問題に対応するには、なぜそう読み取れるのか、理由や根拠を言わせることで「判断」させる、日々の訓練が大切になる。
 以上のように今回の共通テストには「思考力」や「判断力」を用いた問題が増えたことから、授業の中にもそのような発問や活動を取り入れる必要が一層増したのではないかと私は考える。

他教科とも連携、図を活用して

 思考力を育成するためには、常に“Why”を考える習慣が必要になるため、ウオームアップとしてWhy?Gameを使う。“I went to Kamakuralast weekend.”“Why?”“It’s because it was sunny.”“Why did you choose Kamakura?”と“Why?”だけで永遠に会話を続けることができ、また思考を働かせる訓練にもなる。

 思考をまとめるのに有効なのはグラフィックオーガナイザーの利用だ。共通点と相違点を考えさせるのであればベン図を、比較するのならTチャート、物語の分析ならシーケンスタイムライン等用途に応じて変えていきたい。あらかじめ書いてある図に付箋紙を貼って思考を整理していく方法も有効だろう。
 「英語」の授業なので、思考を整理したものを英語で発信しなければいけない。出来上がった図を見ながら、ラウンドロビン(時計回りに一人ずつ発言をしていく方法)で一言ずつ言っていく方法は、即興で話す練習になる。生徒のレベルに応じて、スライドに“A and B are similar,because……”等センテンスフレームを示しておくと、必要になったときの助けになるだろう。
 グループで発表をさせるときは、「10歳の子どもが理解できるように説明をする」という条件を付けた。高校の教科書は扱っているトピックが大変難しく、何も指示をしないと専門用語のオンパレードで、発表している本人も実はあまりよく分からずに発表しているということも多い。そのような難度の高いトピックを扱うときの発表には「10歳の子どもが理解できるように」という条件を付けると、簡単な言葉で説明しようとする。例えばfertilized egg「受精卵」のような語に出くわしたときは発表で“Male egg and female egg get together.This is a fertilized egg.”という説明を行う。教師が「英英辞典を使って調べなさい」と指示をしなくても、おのずと英英辞典を引き、その英語をさらに自分が分かる英語でパラフレーズする、という行動を生徒は行うのである。
 発表後は、聴衆のグループの代表者一人ずつから質問もしくはコメントをもらう。コメントの場合は、必ず理由を言う、という条件を付けておくと、聴衆も生徒の発表をしっかり聞くし、客観的に発表の良い点とはどんなところなのかを考えることにもなる。
 後で聞いた話だが、この発表を行うに当たって生徒たちは生物の教員に「簡単に教えて」とお願いをしたそうだ。その教員は全クラスでiPS細胞について生物の授業でレクチャーしてくれて、生徒は必死に聞いていたという。授業の枠組みを変えなくとも、他教科の先生と話をしておけば、教科間連携を取ることは可能なのだと思う。特に英語は扱うトピックが多岐にわたるので、他教科の先生との情報共有は大切だ。
 生物資料集と和英辞典と英英辞典を必死に見ながらグループでベン図を作った生徒たちは、教科書本文を読む頃には、教科書に出てくる重要語は既に調べてインプットされていたため、ほとんど辞書を引かずにすっと読めたことは言うまでもない。

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