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急がれる学校施設の安全対策と環境整備

10面記事

施設特集

「学校施設・施設整備の課題に関する調査」
本社調査

 ブロック塀は「構造上問題のあるものだけを撤去する」と考え、新学習指導要領への対応ではICT環境の整備に力を入れ、インクルーシブ教育システムの構築に向けてはトイレ整備・段差解消・エレベーター設置などに努める市区町村が多い―。日本教育新聞社が実施した「学校施設・施設整備の課題に関する調査」からは、そんな様子が浮かび上がった。本年度の調査結果を詳しく紹介する。

ブロック塀が使われる施設と今後の対策

ブロック塀が使われている学校 ブロック塀の今後の対応

 本年6月に発生した大阪北部地震では、小学校のブロック塀が倒れて児童が亡くなる事故が発生。その教訓として、安全対策についての課題が浮かび上がった。
 管理する市区町村立学校でブロック塀が使われている施設があるかどうかを聞いたところ、「ある」と答えたのが390自治体で、全体の71・3%を占めた。「ない」と答えたのは143自治体(全体の26・1%)だった。
 「ある」と答えた自治体に、今後どんな対応を取る予定かを選択肢を設けて聞いたところ、221自治体が「構造上問題のあるブロック塀だけを撤去する」と回答。「全てのブロック塀を撤去する」は61自治体にとどまり、適法のブロック塀は残すと考えている自治体が多くを占めることが分かった。
 回答した対応を取る理由についても、自由記述で聞いた。残すと考えている自治体は「全てのブロック塀の構造が適法で、安全性が確認できている」(秋田県・市など)という内容が多く、「危険のないブロック塀まで撤去するのは財政的に厳しい」(高知県・市)という記述もあった。

新学習指導要領対応のための施設・備品整備

新学習指導要領対応のための整備実施予定

施設・備品整備の実施予定がない理由 具体的な施設・備品整備の予定内容

 小・中学校は本年度から移行措置期間に入った、新しい学習指導要領。そうした中、新学習指導要領に対応するための施設・備品整備を実施する予定があるかを聞いたところ、281自治体(全体の51・3%)が「ある」と回答。「ない」と答えた171自治体(全体の31・3%)を上回った。
 「ある」と答えた自治体に具体的な施設・備品整備の内容を複数回答で聞くと、「新配備・増設などタブレットPCの充実」が224自治体で最多となり、「教室への無線LAN環境の整備」が162自治体で続いた。こうしたICT環境を整備する自治体が、圧倒的多数を占めた。
 「ない」と答えた自治体にもその理由を聞いたところ、「教室への無線LAN環境の整備が完了した」が68自治体、「タブレットPCの配備が完了した」が52自治体あった。
 その一方で、「財政的に厳しく、対応した整備を進めることが難しい」は58自治体、「他に優先して取り組むことが求められる施設整備がある」は54自治体、「現状の設備・備品で対応できる」は52自治体が回答した。

インクルーシブ教育システムの構築に向けた施設整備

合理的な配慮、バリアフリー化推進 具体的な取り組み内容

 インクルーシブ教育システムの構築に向けた、学校施設の整備も求められている。障害者差別解消法が求める合理的な配慮への対応やバリアフリー化のさらなる推進を行っているかどうかについて聞いたところ、336自治体(全体の61・4%)が「行っている」と回答。「行っていない」は128自治体(全体の23・4%)だった。
 「行っている」と答えた自治体に具体的な取り組みを複数回答で聞くと、「トイレ洋式化と車いす対応トイレの設置」が301自治体で最多。「施設内外の段差解消」が217自治体、「校舎内へのエレベーター設置」が129自治体で続いた。
 「その他」とした自治体の中には、「階段昇降機の設置」(長崎県・市など)、「手すりの設置」(福岡県・町など)、「難聴FMマイク配置」(山口県・市)などの回答があった。

その他

 その他、学校施設整備について感じている課題について、自由に記入してもらった。
 最も多かった内容は、財源の厳しさ。「施設の老朽化対策とエアコンなどの快適性の確保を進めるための財源措置が難しい」(神奈川県・町)、「老朽化が進んでおり、工事費が増大している。維持補修工事にも優先順位をつけて対応しなければならない」(愛知県・市)、「安全確保及び維持保全に関する慢性的予算不足」(北海道・市)など、各自治体の切実な声が聞かれた。
 国の財政措置の充実を求める意見も多く、「これらの施設、設備、備品の整備については、文部科学省の法改正を行うなど、しっかりとした国費の財源確保を行うべき。地財措置では、地方は対応しきれない」(北海道・市)、「国からの財政措置を上げてもらいたい」(千葉県・市)などの記述があった。
 「学校施設の老朽化が進み、対応が追いつかない」(愛知県・町)など、学校施設の老朽化についての対応に悩む意見が今年も多くの自治体から出された。

導入事例
天井材の落下防止対策として、町内2校の武道場を「膜天井」に改修
栃木県・益子町
リフォジュールの膜天井システム

 屋内運動場の吊り天井は、地震などで落下すれば致命的な事故になりかねない。こうした天井の落下防止対策として全国の学校で採用されているのが、樹脂シートによる軽量・柔軟な素材で安全性を高めるリフォジュール(株)の「膜天井システム」だ。そこで、今年の夏に2校の武道場の天井を改修した栃木県・益子町の事例を紹介する。

髙橋和志設計本部長
髙橋和志設計本部長

優れた安全性に加え、素早い施工性に着目
 東日本大震災では、屋内運動場の天井材が落下する事故が150箇所以上も発生したことから、文部科学省は全国の学校設置者に対して、天井撤去を中心とした対策の一層の加速化を要請している。しかし、児童生徒が1日の大半を過ごす校舎の耐震化を優先的に進めてきたこともあり、体育館や武道場、室内プールなどの天井や照明器具といった「非構造部材」の耐震対策では地域格差も生まれている。
 こうしたなか、益子町教育委員会では今年度、田野中学校と七井中学校の武道場の天井改修に取り組んだ。「町内の校舎はすでに耐震化が済んでおり、体育館は吊り天井でなかったため、いわゆる天井材の落下防止対策としては、これら2校の武道場が残っているだけでした」と説明するのは、学校教育課の布瀬賢一係長だ。
 栃木県は全国的にも天井材の落下防止対策が進んでおり、今回の改修によって残り1箇所になったという。
 そんな武道場の天井改修に、リフォジュールの「膜天井システム」を提案した(株)フケタ設計(本社=栃木県宇都宮市)の高橋和志設計本部長は「以前に道の駅で使ったことがあり、柔軟で地震時の安全性が高いことや、附帯施設の天井を簡易的に素早く施工することができることから、武道場の改修にも適していると考えました」と話す。
 もともと同社は約20年前に、この2つの武道場の設計を担当しており、吊り天井を撤去するだけだと見映えが悪くなることは理解していた。「特に、武道場は剣道のかけ声などが響きやすいため、吸音効果も併せ持つ膜天井の特長が生かされると思いました」と続けた。

田野中学校
田野中学校

軽量で短工期の強みを生かし、夏休み期間中に改修
 その上で、「膜天井」の最大の長所として、特殊な樹脂シートを素材としているため、一般的な石膏ボードの天井に比べると重さが約30分の1と軽量であることを挙げる。「耐震化の一番簡単な方法は、建物自体を軽くすることが原則。天井を補強する耐震天井という工法もありますが、それだと費用も嵩みます。すなわち、無理やり落ちないようにするよりも、万が一落下しても命の危険がない膜天井には、他の天井材にはない魅力があります」と指摘。コストと性能を踏まえて選択したことを明かす。
 さらに、もう1つの特長が工期を短縮できることだ。学校施設のこうした改修は、なるべく学校活動への影響が少ない夏休み期間に完了することが求められる。その点、膜天井は下地を組む必要がなく、余計な廃材も出さないため、短期間で素早く施工できるのが長所。
 今回の2つの武道場の改修も同時期に行われたが、夏休みの終わりには完了。「予定通りの工期でしっかり終わらせてくれたのでありがたく思っています」と布瀬係長。また仕上がった印象についても、「以前より天井が明るくなったほか、反響防止も効いていると学校の教員から聞いています」と満足している様子だ。

七井中学校
七井中学校

意匠性に富み、安心して使える素材として評価
 一方、高橋本部長も「既存の照明器具を一度取り外して再設置するなどの課題もありましたが、豊富な経験の中できれいに収めてくれました」と話すとともに、「下地の造り方もよく考えられているし、かえって在来の天井材を使うよりも見映えもいいのではないでしょうか。今後も機会があれば、安心して使っていきたいですね」と評価。たとえば劇場のエントランスなどの天井にも使っていく意向を示してくれた。
 学校の屋内運動場は、子どもたちが日々のスポーツや行事で活用するだけでなく、災害時には地域の避難場所としての役割を担う。それだけに、未だ天井落下防止対策が済んでいない自治体には、一刻も早くこうした膜天井への改修のような対策を期待したい。

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