日本最大の教育専門全国紙・日本教育新聞がお届けする教育ニュースサイトです。

プログラミング教育が2020年度から必修化へ、導入の狙いはどこに?

トレンド

特集 教員の知恵袋

 全国の小学校でプログラミング教育が2020年度から必修化されます。生活のデジタル化が急速に進み、新しい技術が次々に登場するなか、文科省は論理的な思考を幼いころから身に付けさせ、コンピューターを積極的に活用できる人材を育てるとしています。具体的にどのような授業が行われるのか、プログラミング教育の目的や課題も含めて紹介します。

国際競争力確保へIT人材の確保が必要

 実社会のあらゆる事業や情報がデータ化され、ネットワークを通じて自由にやり取りが可能になるほか、大量のデータから新たな価値を創造したり、機械自身が人間を超えた高度な判断ができたりする時代になりました。
 いずれも実現不可能と考えられてきたことだけに、これからの社会や産業構造は劇的に変わるとみられています。動力の獲得、動力の革新、自動化に続く大きな変化となる「第4次産業革命」です。
 しかし、その担い手となるIT人材は不足しています。経済産業省が2016年にまとめた報告書によると、IT産業への入職者は2019年をピークに減少へと向かっており、2015年の段階で17万人程度と推計されていた人材不足の人数が2030年で41~79万人に拡大するとのこと。
 日本経済はバブル崩壊後、国際的な地位を急速に低下させてきました。これを技術力で立て直すためにも、IT人材の確保が欠かせないのです。

実際の授業でパソコンやタブレットを積極的に活用

 文科省がまとめたプログラミング教育の手引きでは、児童がコンピューターに対して意図した処理を行わせることを体験しながら、プログラミング的な思考力を身に付けることを狙いにあげています。
 プログラミング教育を通じて児童がプログラミング言語や技能を習得する可能性は十分にありますが、それ自体を狙いとしているわけではありません。プログラミング的思考能力やコンピューターの働きによって今後の人生や社会づくりに活かし「人間力を育む」ことが目的です。
 プログラミングという新しい教科や科目が追加されるわけではなく、従来の教科内でそれぞれプログラミング教育が行われます。
 具体的な授業例は以下のとおりです。

 ・5年生における算数の授業でプログラミングを通して正多角形を描く
 ・総合学習の時間で情報化の進展や生活、社会の変化を学ぶ
 ・4年生における音楽の授業でプログラミングを通してさまざまなリズムやパターンを組み合わせて音楽をつくる

 つまり、パソコンやタブレットを授業に取り入れ、タイピングといった基本スキルとコンピューターを動かすにはどうすればよいか考える力を身に付けさせようとしています。
 また、令和元年5月17日に行われた教育実行再生会議では、
 ・新学習指導要領において充実されたプログラミングやデータサイエンスに関する教育、統計教育については、全ての児童生徒に基盤的学力を習得させる、高度専門人材を育成する、との2つの観点から、その着実な実施を図る。
 ・国は、プログラミングなど、民間団体等が学校外において行う特に優れた取組等について、民間団体や企業等と連携した地域の取組を推進するための仕組みづくりを実施する。
 と提言しています。

論理的な思考力の育成が文科省の狙い

 文科省はプログラミング的思考とは、情報を整理、分析して結論への筋道を立てて考える力だと定義しています。論理的な思考力と言い換えることもできるでしょう。
 第4次産業革命の最中、子どもたちが身に付けるべき能力については、文科省の有識者会議で議論されてきました。
 そのなかでは情報を読み解く力、情報技術を使いこなして課題を発見、解決する力、感性を働かせて学んだことを生かそうとする力が重要だと位置付けられています。

利用する教材はさまざま、文科省のソフトも

 実際に使用する教材は大きく分けて3通りあります。

 1つ目はカードやパズルです。小学校低学年や幼児に向けた教材が多数あります。
 2つ目は市販の学習用ソフトやアプリで、「スクラッチ」といったブロックをつなぎ合わせるだけでプログラミングできるものから、本格的にテキスト入力するものまでさまざま。文科省は親子が遊びながら学べる「プログラミン」というソフトを提供しています。
 3つ目はロボットなどのハードで、タブレットやコンピューターを使って制御し学習する教材です。
 どの教材を採用するかは各学校現場の判断に委ねられています。

プログラミング教育の可能性を広げる学習活動の分類

 文科省が作成している「小学校プログラミング教育の手引(第三版)」では、プログラミング教育の学習活動が4つに分類されています。学習のねらいは、プログラミング的思考や技能、学びに向かう力の育成。さらに、各教科で学んだことを確実に理解することも含められています。

 ・学習指導要領に例示されている単元等で実施するもの
算数や理科、総合的な学習の時間が対象です。具体的な授業では、プログラミングを通して正多角形の意味を理解し、図形の性質や正多角形を書くといったことを学びます。

 ・学習指導要領に例示されてはいないが、学習指導要領に示される各教科等の内容を指導する中で実施するもの
音楽や社会、家庭、総合的な学習の時間が対象です。音楽の教科では、さまざまなリズムとパターンを組み合わせ、プログラミングを用いてまとまりのある音楽や曲を作成します。

 ・教育課程内で各教科等とは別に実施するもの
 言語や技能などの基礎学習、プログラミング的思考・表現する力を身につける学習、体験を通して楽しさや面白さに気づく学習が求められます。例えば、ビジュアル型プログラミングを用いて、自分のキャラクターを動かしてみたり、ほかのキャラクターに捕まらないように細かい操作をしたり、子どもが遊びながらプログラミングが学べる授業です。

 ・クラブ活動など、特定の児童を対象として、教育課程内で実施するもの
 クラブ活動で、プログラミングに興味関心のある児童同士が協力しながら作品を作ったり、知識や技能を深めたりすることが期待されます。クラブ活動内では、ただただ漠然とプログラミングを楽しむだけではなく、発表会やコンテストなどに参加させる狙いもあります。

 これら4つの分類によってプログラミング教育は成り立っており、知識や技能、思考力や判断力といった能力を育み、各教科の学びをより確実にする狙いがあります。

小学校内のICT環境整備が急務

 プログラミング教育の必修化にあたって、課題も残っています。文科省によると、2016年3月時点でコンピューター1台当たりの児童数は全国平均6・2人と、プログラミング教育に使用する機器は大幅に不足。
 ほかにも普通教室内の校内LAN、無線LAN整備率は、それぞれ87・7%、26・1%、普通教室での電子黒板整備率は21・9%にとどまっています。学校内の設備はいまだ整っていないのが現状です。
 さらには、教員が情報科学や情報技術について十分な知識を持っておく必要もあります。また、プログラミング教育の時間が組み込まれることで、算数や理科など既存教科の授業に必要な学習時間が不足することも課題のひとつです。そのため、小学生への指導方法の研究や教員研修のプログラム構築が求められています。

海外ではひと足早く多くの国が導入

 海外では日本よりひと足早く、プログラミング教育に乗り出した国がたくさんあります。
 英国では2013年、国の教育基準で5~16歳の義務教育機関にプログラミング教育を必修化が決定。フィンランドは「インターネットに接続する権利」を国が保証しており、2016年から小学校でプログラミング教育が必修化されています。
 さらに、エストニアは2012年にプログラミング教育推進プロジェクトがスタートし、米マイクロソフトの支援を受けつつ、小学校1年生からプログラミングを学んでいます。
 そのほか、韓国やインド、香港といったアジア諸国もプログラミング教育を精力的に取り組んでいるようです。

家庭での取り組みからプログラミング教育への関心を高める

 小学校でのプログラミング教育の必修化に向けて、家庭でできる取り組みも注目されています。
 何もわからない状態から始まっても興味が持てなければ、学ぶ意欲は続きません。興味関心を高めるためには、絵や図を用いてゲーム感覚で学習できる「ビジュアルプログラミング」を取り入れたり、目的に合ったプログラミング教室に通ったり、「子どもが楽しい」と思える環境を作り出すことが効果的です。
 また、家庭内にパソコンやタブレットなどのテクノロジーに多く触れる環境を整えることで、学習したことを日常生活で活かそうとする行動にもつながります。
 学校でもプログラミング教育に十分な設備や教員の知識が不足しているため、それを補う役目として家庭での学習や取り組みが必要です。

変化する時代を生き抜く力はプログラミング教育から

 テクノロジーの急激な進化により、現代社会はめまぐるしい変化を続けています。
 この時代を乗り切るために求められるのが、論理的に物事を考え、問題解決する力です。
 小学校のプログラミング教育はその第一歩といえるでしょう。2020年度の必修化を前に親子で遊びながら学んでみるのもよさそうです。

特集 教員の知恵袋

連載