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大学入学共通テストに挑む 要約活動を視野に意見伝え合う

10面記事

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英語・筆記
渡邉 裕子 千葉県立千葉南高校教諭

平成30年度プレテストについて
 平成30年度に実施されたプレテストにおける第2問Bの問2、3では、概要を理解した上で相反する立場の事実と意見を見極め、それぞれの意見を選択させる問題が出題されている。また、第6問Aの問3では本文中に書かれた例の果たす役割を推論させる問題が出題された。前者では異なる二つの意見を比較したり関連付けたりしながら読む「思考力」が求められ、後者では必ずしも本文に記載はないが、根拠となる部分を見つけ出し推論した結果や答えを導き出す「判断力」が求められている。
 要約活動に慣れている、またはディベートやディスカッションを日頃から行い、多量の資料を読み込んで概要を理解したり、その中から必要な情報を取り出したりする訓練を積んでいる生徒、そしてそういった活動を通してトピックに対する自分の考えを深める訓練を積んでいる生徒にとっては比較的容易に解ける問題なのかもしれない。
 しかし、これから授業を多技能統合型に変えていくことを考えた場合、要約、ディベート、ディスカッションをそのまま授業に取り入れるのは難しいと思われる。そこで、思考力、判断力を付けさせる授業のために今からできることは何か。私のこれまでの試みを紹介させていただきたい。

提案授業
 要約活動は、聞いたり読んだりして得た情報の概要を話したり書いたりして伝えるという、4技能が統合される活動であることから、授業に取り入れたいと考えていた。私の授業では教科書のLessonの各Partの終わりに要約を書いて発表させる活動を行っていた。何もヒントがないと難しいのでQ&A形式にし、答えをうまくつないでいくと要約になるように仕掛けたり、設定した幾つかの語彙を用いれば要約が完成するようにしたりするなどの工夫をした。改良を加えるごとに生徒の反応は良くなっていると思っていた。しかし、ある研修会で私の授業を見た先生からこんなアドバイスを受けた。「生徒はやらされている感じがした」と。
 確かにその通りだった。活動中の生徒をよく見ると、使うように指示された語彙を本文から探し、その周辺の英文を適当につなげて書いているようであった。思考しているのではなく、ただ探している。これでは要約活動が思考力を育てる活動になっていない。同じ題材を読んで、同じような要約を完成させるわけであるから、そもそもインフォメーション・ギャップも存在しない。指導をしやすくするため、正解がバラつかないように誘導していたようなものである。要約を完成させることが活動の目的になってしまっていて、その情報を持たない第三者に伝えるという本来の目的を見失っていたことに気付いた瞬間であった。
 検討を重ね、それ以降、要約活動は一度ストップすることにした。その代わりに始めたのが、読後に本文の中から自分が気に入った箇所や印象に残った箇所に線を引き、どうしてそこに線を引いたのか、その理由をグループで伝え合う活動であった。「主人公が好きか嫌いか」を本文からその根拠となる箇所を引っ張って自分の意見と共に伝えさせる活動にしたこともあった。
 この活動の良い点は、生徒が本文を読み直し、自分の意見を支える根拠となる箇所を探す活動を通して、思考力、判断力を鍛えることができること、また必ずしも正解があるわけではないので、英語の得意不得意に関係なく、生徒は間違えることに対する恐怖心を抱かずに取り組むことができるということ、そして全員が同じ意見になったり同じ箇所を根拠にしたりしてくることがほとんどないため、意見交換に値するインフォメーション・ギャップを生むことができることである。表は思考力・判断力を育てる授業展開案である。
 私がこの活動を取り入れたもう一つの理由は、生徒に日本語で書かれた小説やエッセーを読むかのように英文に向き合い、自由な発想で意見交換をし、クラスメートの自分とは違った意見を聞くことを楽しんでほしいと思ったからである。また、そもそも当該パートを読んで自分の言葉で概要を表現する際に、必ずしも皆同じ完成形ではなく、人によって偏りがあってもいいのではないかという思いもあった。
 こうなると要約活動とはいえなくなる。しかし実際、この意見交換を通じて、友達の意見を聞き新たな知識を得たことで、扱うテーマに対する理解が深まり、さらに追究してみたいと思う生徒も出てくる。これは主体的で深い学びにつながるのではないかと考える。生徒がこの活動に慣れ、「さらに追究してみたい」というレベルまで達した時には要約活動を再開したい。本文のテーマに関連する文章を四つ用意し、グループのメンバーがそれぞれ違うものを読み、要約して残りの3人に伝えて共有し、また意見交換をするという活動ができるし、ディスカッション、ディベートに取り組むこともできるであろう。
 最後に、生徒の英語による発話の機会を増やすために私が心掛けていることを紹介させていただきたい。それは生徒と信頼関係を築くことであり、「ここ(教室)でなら間違ってもいいから英語で話してみよう」と生徒に思ってもらうことである。本文の内容確認のような正解が一つになりがちなQ&Aのやり取りを英語で行う場合と違い、生徒に自分の考えを英語で話してもらうためには、正確さよりも内容を重んじていることが生徒に伝わる必要がある。さらに、前回の学習指導要領改訂により「即興で表現する力の育成」が加えられたことから、これまでのように「書いてから話す」指導では即興的表現力は付かず、これまでと全く逆のアプローチ(「話してから書く」)をしなければならなくなった。
 簡単なメモだけで自分の意見を述べたり、準備のない状態でもある程度、自分の考えを相手に伝えたりする力を育成するよう求められたといえる。英語で発表することに対する生徒の不安が増してしまうかもしれないが、これは教える側のわれわれに求められている課題であると感じる。それは、即興的表現力を高めるための、間違いを許し合える教室の雰囲気づくりができるかということ、そして、生徒の一番身近なロールモデルとして、時に間違いながらも、教師自身がインタラクションを楽しんでいる姿を生徒に見せることができるかということである。主体的で深い学びとは、生徒と教師が信頼し合い、間違いを恐れる心を共に克服していく過程でつくられるのだと私は考える。

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