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教員のキャリアステージを高める「通信教育」

14面記事

企画特集

大学通信教育特集

 グローバル化時代を生き抜く人材育成に向けて、これからの教員には幅広い知識や高い専門性を備えた指導力がより一層必要になっている。こうしたなか、教員自らのスキルアップを実現する場として期待されているのが、多様な教科・校種の免許を働きながら取得できる「大学通信教育」や「通信制大学院」だ。そこで、現在の教員免許制度が抱える課題を紐解きつつ、大学通信教育が教員養成・研修等に果たす役割について紹介する。

教育の質の確保と教員不足を背景に

 教員のスキルアップとして複数免許や資格の取得が望まれるのは、時代のニーズに対応した教育の在り方が模索され、それを実践できる教員が必要になっているからだ。つまり、これからの社会に求められる資質・能力を育成するためには、各教科等を学ぶ意義と教科等横断的な視点をもった、幅広い指導力を身につけることが重要になっているからにほかならない。
 さらに、今後は英語や道徳、ICTなど新しい教科等の指導に関する専門知識を備えた教えの専門家としての側面や、教科等を越えたカリキュラム・マネジメントのために必要な力、アクティブ・ラーニングの視点から学習・指導方法を改善していくために必要な力、学習評価の改善に必要な力などを備えた学びの専門家としての側面も備えることが求められている。
 一方、もう1つの要因としては、小学校教員採用試験の倍率が低迷していることや、ベテラン教員の大量退職、少人数指導の導入、特別支援学級の増加や産休・育休取得者の増加、技術科・情報科のような特定教科の免許状を持つ教員の人材不足が年々進んでいることがある。しかも、今後は少子化に伴って、在籍する教員だけでは全教科をカバーしきれない小規模校が増えることが予想されているからだ。
 こうした教員不足を招いた背景には、地方公務員の定員削減により、正規雇用の枠が非正規雇用に置き換えられ、非正規雇用教員(臨時教員、非常勤講師、再任用教員)への依存率が高くなったことが挙げられる。しかし、雇用形態の不安定さもあって、多くの自治体では「需要が増えているにもかかわらず埋まらない」ことが課題になっている。
 たとえば富山市では、今年度の始業式を迎えても担任が埋まらないなど、小学校9校で13人、中学校10校で14人、合計27人の教員が不足しているというニュースが流れたが、NHKの2017年4月時点の調査によれば、全国で約700人の教員が足りていないことが分かっている。

免許取得の弾力化など見直しが進む

 文部科学省では、こうした指導体制の質・量両面にわたる充実・強化を図る観点から、複数の校種・教科の免許取得を弾力化することや、経験年数や専門分野などに応じて特定教科の免許を弾力的に取得できるようにするなど、免許制度の在り方を見直すことを示唆している。
 免許状の弾力化については、これまでも、中学・高校教員が免許状をもっている教科を小学校で指導することや、社会的経験が豊富で有能な人材を学校現場に招致する「特別非常勤講師制度」といった例外措置が図られている。これらに加え、複数教科の免許状の取得を促進することで、多くの学校で表面化している教員の定員不足を補うとともに、より専門性の高い授業を提供することが可能になるとしている。
 まして、学校には教員の働き方改革という難題も控えており、勤務時間の平準化による教員不足は避けられない。加えて、増加する外国人児童生徒に対する指導体制の確保といった新たな課題も生まれている。だからこそ、文部科学省としては、こうした免許取得のために現職の教員が受講しやすい環境の整備として、通信制大学による講座の開設や養成・研修機能の強化に期待をしているのだ。

仕事と両立させながら複数免許などの取得を

「大学通信教育」は、昭和22年に学校教育法によって制度化され、昭和25年には正規の大学教育課程として認可。いつでも、どこでも、だれでも学べる教育機関として、現在、44大学、27大学院、11短期大学が門戸を開放しており、全国でおよそ24万人がそれぞれの学習動機に合わせて学んでいる。
 大学通信教育が開設された当初は、大学への進学の機会のなかった社会人の受講が中心だったが、現在では大学等を卒業した社会人が編入学するケースが7割以上を占めている。その中で、現職教員が免許状の上進や異なる校種・教科の免許状を取得するニーズが、年々高まっているという。
 教員免許状の種類には、普通、特別、臨時の3種類があるが、通信教育課程で取得できる教員免許は普通免許状になる。小、中、高、特別支援学校、幼稚園教諭、養護教諭、栄養教諭の免許状があり、それぞれ専修、1種、2種に分かれている。免許状取得の代表的なものとしては、

 (1) 新たに教員免許状を取得する場合
 (2) 現在持っている免許状を上位の免許状に上進させる場合
 (3) 現在持っている免許状を基にして同校種の他の教科の免許状を取得する場合
 (4) 教職経験を有する者が隣接校種免許状を取得する場合

 ―の4通りのケースがある。
 学習方法は、印刷教材による授業が中心になる。大学から送付されたテキストなどを学習し、与えられた課題に沿って学習成果をリポートして添削指導と評価を受ける。また、足りない部分を面接授業(スクーリング)や放送授業、インターネットなどの授業で補うとともに、学習指導(教育・学習上の指導)が行われるのが特色だ。これらの学びを通して科目ごとの試験に合格することで、単位を取得できる。そのため、地理的・時間的な制約がある教員でも、複数免許や上位免許の取得など自身をスキルアップできる場として活用できる。

教員のスキルアップを担う場として

 「Society 5・0」に向けた人材育成には、その学びを支える教員自体の変革が不可欠だ。そのためには教員が自律的に学ぶ姿勢を持ち、時代の変化や自らのキャリアステージに応じて求められる資質・能力を生涯にわたって高めていくことが必要になる。そして、こうした教員のスキルアップを応援する環境整備の1つとして大事な役割を担うのが、通信制大学になる。
 したがって、大学通信教育には学校教育の置かれる実態を見据えながら、今後もさらなる研修機会の充実や支援体制の強化に取り組んでもらうことを期待する。

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