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後世畏るべし

関東版

論説・コラム

片山 哲也 群馬医療福祉大学講師

 義務教育校の教員を退職し、後進の育成ということで、教職(養護教諭)を目指す学生と現役時代とは違う学びの時間を過ごしてきた。その間感じてきたことは、まさに「後世畏るべし」つまり若い人には様々な可能性がある。きっと社会を支える人になる、と度々確信を得たことである。
 群馬医療福祉大学看護学部で「教育社会学」の講座を受け持ち7年が過ぎた。この講座の目標は教育の現代的課題の現状を分析し、教育の未来予想図を各人が描くこととしている。現代的課題には、不登校、非行、いじめ、持続可能な教育、格差社会、学力問題、虐待など様々な課題がある。義務教育とは違い学問の自由が保障されている大学では、何を、どう教えるかは教員に任されている。そのことはまさに教師の本懐ともいうべきものであり、それゆえ毎時間が真剣勝負と感ずる緊張がある。この教育社会学では、子どもたちの安全教育や地域社会の状況はどうなのか、教育の地域連携の在り方はどうあるべきなのか、については必須課題でもある。
 この2点のうち、安全教育については、子どもを取りまく危険な社会要因について解明することも課題だが、昨今の自然災害という危機についても、より具体的な学びの時間を作ってきた。令和元年の講義の中でも、南相馬市で被災し、着の身着のまま避難してきた親子からいただいた現場で撮影した津波の動画を見て様々な討議をし、釜石の奇跡、大川小学校の悲劇等事例を学びながら、意見交換をした。
 授業後には必ずコメントカードに質問、意見等を記述してもらう。この中で、今回福島出身で原発事故の影響で非難を余儀なくされた学生がコメントしてくれた。
 姉が群馬県の大学に通い1人暮らしをしているところに家族5人で夜どおし車を走らせてたどり着き、姉の作った暖かい味噌汁で迎えられて安堵した朝を忘れられない。その後、小学校の卒業式もできなかったので、姉が卒業式をしてくれ、その後、福島に帰っても5人で仮住まいをして生活した。家具も家電も服も食べ物も中学校の制服も支援物資として全国から届けていただいて、助けられた。その後も当時できなかったことをみんなに助けられて様々な経験ができたという。
 災害の困難さより、全国の支援で今の私があることに心から感謝しているとまとめられていた。
 災害はない方がよいことに決まってはいる。しかし、災害に負けず乗り越えてたくましく成長し、明確な目標をもって社会に羽ばたこうとしてる若者がいる。困難は人を育てるというが、まさに「後世畏るべし」、体験や学び、人間愛が人を育てている。養護教諭を目指す、医療従事者を目指すという若い学生のコメントには確固たる目標が明確である。感性が豊かである。以前にこのコラム欄で、同じ南相馬の災害動画を見て中越沖地震を経験した学生の事も話題にした。その学生は新潟県で養護教諭として活躍している。
 学問の自由が保障され、現実社会の問題や体験や世界の情勢を真剣に討議し学ぶことができる「教育社会学」のような学びの時間について、全ての講義終了後の感想で、多くの学生が共通して、教育の大切さ、奥深さ、考える事の大切さ、本気で考えると文章が書けることに驚き、学ぶことの楽しさを味わうことが出来たと感想を述べている。教育の持つ本来の成果が期待できる学問であることに大きな喜びを感じる昨今である。社会はこういう若者で作られる。

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