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小学生『夢をかなえる』作文コンクール 今こそ活用を

8面記事

企画特集

 夢の実現を「ライフプランシート」で具体的に計画し、課題図書などを参考に作文にまとめる「小学生『夢をかなえる』作文コンクール」。キャリア教育はもちろん、道徳教育や金銭教育の側面からも掘り下げることができるコンクールとして、今年度で14回目を迎える。小学校現場に新型コロナウイルスの影響が残る中、長年コンクールの審査員長を務める北俊夫氏にコンクール活用の話を聞いた他、昨年の第13回コンクールで「学校賞」を受賞した熊本市立託麻東小学校と、浜松市立笠井小学校の2校に、コンクールの有用性について取材した。

未来の夢を描く学級活動の充実を
北俊夫氏に聞く

 ―「小学生『夢をかなえる』作文コンクール」。この審査員長を長年お務めですが、児童・保護者の意識、社会からの影響、また学習指導要領の変化などによる応募作品の移り変わりについてご感想をお話しください。

 北 今の子どもたちは将来、どんな職業に就きたいかをしっかり考えるようになっている。入賞作品の共通点を見ると▽家族で将来について話し合う関係がある▽書籍やネットを活用した職業についての情報収集力が高まっている▽社会課題への関心、課題解決への意欲が高まっている―などの特徴がうかがえる。
 応募の際に作文とともに提出する「ライフプランシート」の作成は、子どもたちが未来を考えるうえで、さまざまな材料を提供してきた。将来なりたい職業に就くために勉強すべきことがあること、勉強だけでなく、体力や人の気持ちを理解すること、英語力の必要性など、今から計画的にやるべきことがたくさんあると気付き「学び」を広く捉える機会になる。
 さらに、本人の努力以外に家族の協力が必要だと認識できる点もライフプランシートの効用だ。夢の実現のため塾に通う、参考書を購入する、大学進学するには「お金がかかる」こと、その費用は家族が支援することに気づけば、家族への感謝の心を新たにできる。この経験はお金を通した社会理解や、経済や金融への興味・関心を育成することにもつながる。
 近年は「体にハンデを持つ人の美容師になりたい」「月面基地に滞在できる科学者になりたい」など、具体的、専門的な知識を踏まえた職業意識の芽生えを感じさせる作品も多い。世界や宇宙、地球環境やさまざまなものの命へと視野の広がりが感じられる。子どもたちがグローバルな視点とやさしさを備えながら、興味や関心を広げていることが読み取れる。

 ―「キャリア教育」の実践に役立つとして定評のあるコンクールですが、改めて小学校でのキャリア教育のポイントはどのような点にあるのでしょうか。

 北 望ましい勤労観や職業観を育てるのがキャリア教育。進路指導や進学指導と異なり、社会人として成長するのに必要な「生き方教育」と言える。小学生にとっては10~15年後のことだが、勤労観や職業観の育成には次の3点の指導が必要だ。
 1つめは、自己理解を深め、自分の思いを身近な人に伝えるコミュニケーション能力を育成すること。
 2つめは身の回りの仕事や職業について知り、「働くこと」の意義や役割を知ること。学級の係活動や委員会活動の意義の理解につながる。
 3つめは、将来の夢や希望を持つ「人生設計」に興味や関心を向けさせること。小学校は日々の生活や授業で児童に目標や「めあて」を持たせることを大切にしてきた。日常生活を未来につなげることを通して、将来の自分像をイメージすることが、小学校のキャリア教育になるだろう。

 ―再開した学校においては、学習指導要領の実施や児童のモチベーション向上などが課題です。学校教職員に向け、コンクール活用についてアドバイスをお願いします。

 北 学校の休業により児童は集団生活の機会が失われ、共に遊び、学びながら培われる人間関係や社会性が希薄になっている。学力の遅れを取り戻すことのみに関心を寄せるのではなく、子どもたちが将来の夢や希望を持つことを遠ざけないよう、将来の自分に思いを巡らす時間を設けてほしい。
 学習指導要領の特別活動「学級活動」の目標に照らしても、学校の中で「夢をかなえる」「将来なりたい自分」について子どもが考える時間はしっかりと確保すべきだ。
 関心のある人物の伝記やコンクールの課題図書を活用しながら、ライフプランシートを作成し、考えを作文にまとめることを推進してほしい。教員は活動を通して児童理解も深まるはずだ。
 次のコンクールでは、今回の新型コロナウイルス感染症の影響を受け止めながら、将来の夢を語る子どもが出てくるだろう。子どもたちが今の世界をどう受け止め見ているかをぜひ知りたい。全国の学校から多くの作品が応募されることを願っている。

北 俊夫 「小学生『夢をかなえる』作文コンクール」審査員長(東京都公立小学校教員、東京都教育委員会指導主事、文部省(現文科省)初等中等教育局教科調査官、岐阜大学教授、国士舘大学教授を経て、現在(一財)総合初等教育研究所参与)

夢の実現にはお金も必要
イメージを具体化するツールとして活用
熊本・熊本市立託麻東小学校

 昨年度の「夢をかなえるコンクール」で150点もの作品を応募し「学校賞」を受賞した熊本市立託麻東小学校(川上哲也校長、1083名)。2024年には創立150年を迎える伝統校だ。「子どもの人と関わる力を高める取り組み」としてグループアプローチの手法を取り入れ、校訓の「賢(かしこく)睦(なかよく)剛(たくましく)」の児童育成を目指している。
 コンクール応募のきっかけは、子どもたちが将来の夢を実現するために、人生の設計図を立て、目標をもって充実した日々を送るために意義あるコンクールだと感じたことだ。
 活用方法は、1人1台のタブレットで調べ学習をしながら進めた。課題図書『夢をかなえる』を読んだあと、一人ひとりが自分の夢について、実現させる方法を調べた。子どもたちは夢の実現のためには、努力やお金も必要なことに気づき、とても驚いていたという。
 「将来のプランや職業調べをすることはよくあったが、学費や習いごとの月謝などについて考えさせることはなかった。しかし、人生を生きるうえでお金は必ず必要になる。その視点を持つことでお金の使い方に対する意識も変わるし、親への感謝の気持ちも感じられると思う」と、指導にあたった大窪美紀教諭は、このコンクールが、子どもたちに新たな気付きを与えるユニークさを備えていると指摘する。

2点が優秀賞受賞
 応募した作品のうち、2点が優秀賞を受賞した。上本菫さん(当時6年)は「新聞を好きになってもらうために」と題し、新聞記者になる夢をつづった。熊本地震でスマートフォンやパソコンが使えない中、新聞の情報が役に立った経験から、災害時に人々を助ける情報源だと気づいたという。読書や文章を書くのが好きな自分の長所を活かし「新聞を多くの人に好きになってもらう」という、広い視点で夢を語った。
 受賞を受け、上本さんは「夢を書いたことで夢に近づけた。作文を通して、自分の気持ちに対する親の理解が深まり、応援してくれている」と話す。
 田中暖乃さん(当時6年)は「私の目指す女性警察官に向けて」と題し、小さいころからあこがれていた警察官の父と同じ道を歩むために、公務員試験を受ける必要があること、そのためには体力づくりや計画的な学習が必要なことをライフプランシートに書きこんだ。
 部活動や習い事の費用のほか、試験に向けた参考資料や、警察学校での寮費など必要なお金を挙げ、警察官になり10年後には「自分の考えで行動できるようになる」と目標を掲げた。
 田中さんは「これから先の人生をどのように過ごしていけばよいか、見直すことができた。夢に近づけるよう部活や勉強に励んでいる。周囲の人に支えてもらい感謝している」と話す。田中さんの母は「しっかりと将来のことを考え、ビジョンを持っていることがうかがえて驚くとともに、うれしく思った」と話している。
 大窪教諭は「児童の将来への夢の持ち方は多様だがコンクール応募を通して考えたり調べたりして言葉に表したことは、子どもたちの今後の人生の大きな糧になる。なりたい自分になるために、自分の中で最高の自分になるためにこのコンクールを通して一歩前進してほしい」と応募の意義を語っている。

卒業に向けて夢を考える
外部講師、地域人材を活用して
静岡・浜松市立笠井小学校

 浜松市立笠井小学校(須田佳代子校長、児童数483名)は、「自ら考え、豊かに表現できる子」の学校教育目標のもと「かんがえ合う子、ささえ合う子、いきいきし合う子」の育成を目指し、キャリア教育の視点で行う授業・教育活動を展開している。
 同校は卒業式で卒業生が一人一言で「将来の夢」を語ってから、卒業証書を受け取るのが慣例となっていた。しかし、授与式の時間が長くなり、児童の負担も大きいことから、それに代わる取り組みを探していたところ、同コンクールに出会った。
 将来の夢を語るうえで「夢を持つ」部分は多くの子どもたちに語ってきたという鈴木基嗣教諭。同コンクールが夢を持つことだけでなく、「夢を追い続ける」ために資金が必要だと気づかせてくれる作りになっていることを評価する。
 「保護者としては子どもにお金の心配をさせたくないのが本心だが、子どもの様子を見ていると、習いごとに通うのも、親の負担も当然のような受け止めをしていると感じる。お金がかかるという現実と、それを黙って応援してくれる保護者の思いに気づき、感謝の気持ちをもって取り組んでほしい。このコンクールは、そうした視点を自然な形で気づかせてくれる」と話す。
 活用の流れは、「ライフプランニング出張授業」を活用し、ファイナンシャル・プランナーの講話を聞いた。地域の偉人について地域の人から話を聞く、市内の起業家を招き講話を聞くなど、地域の教育資源を活用しながら、ライフプランシート作成と作文に取り組んだ。
 子どもたちは、外部講師の話や同校教諭らが「教師を目指したきっかけ」を話したときも真剣に聞いていたという。応募作品のうち、声優になる夢を語った袴田和香奈さん(当時6年)の『夢に進んで』が奨励賞を受賞した。同時に同校は「優秀学校賞」も受賞した。
 コンクール作文応募後も、プロサッカー選手による講話を聞く機会があり、夢を追うことの希望と思いを高められたという。
 さらに3学期には国語科の学習で、将来の夢についてまとめ、保護者らが集まる参観会で発表するなど発展的な取り組みにできた。
 卒業式は新型コロナウイルスで簡略的に行われたが、コンクールを活用したことで、子どもたちが「将来の夢」を継続的に考え、保護者にも伝える取り組みに進化させることができた。

「ライフプランシート」とは
 「小学生『夢をかなえる』作文コンクール」(NPO法人日本ファイナンシャル・プランナーズ協会(日本FP協会)主催、日本教育新聞社共催、文部科学省、金融庁、全国都道府県教育委員会連合会など後援)は、「ライフプランニング」=「人生設計」の啓発を目的に実施されており、今回で第14回の開催となる。
 同コンクールの最大の特徴は、将来の夢をつづった「作文」の他に、そのための具体的な行動計画表となる「ライフプランシート(LPシート)」を作成し、併せて応募するという点。応募者は夢や目標を達成する為に、いつ、どのようなことをしなければならないのか、またその時には、どんなお金が掛かりそうなのか、を整理してまとめていく。
 夢や目標の達成までに、どのような道のりがあるのかを事前に自分たちで調べたり、学校の先生や家族たちに相談したりしながら作成していく。「キャリア教育」の実践に役立つ教材ともなる。


「ライフプランシート具体例」(「夢をかなえる」P67より)

コンクール課題図書 プレゼント実施中
 第14回「小学生『夢をかなえる』作文コンクール」を主催する特定非営利活動法人(NPO法人)日本ファイナンシャル・プランナーズ協会(日本FP協会)では、同コンクールの課題図書「『夢をかなえる』―FPはライフプランのサポーター」を、応募支援として学校・個人を対象に、現在無償提供を行っている(先着順、総数5000冊)ほか、同協会ホームページで全ページ閲覧可能。
 応募に必要なライフプランシートの作り方など、具体例を挙げてより理解しやすいようになっている。
 児童が親しみやすいマンガで描かれており、今なら応募を希望する児童全員分を提供できるので、応募希望校は夏休みに是非申し込みをしていただきたい。

問い合わせ・課題図書申し込み先
 〒108-8638 東京都港区白金台3―2―10白金台ビル2F 日本教育新聞社
 「小学生『夢をかなえる』作文コンクール係」
 電話03・3280・7073
 FAX03・3280・7075

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