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非認知能力の重要性と育て方。日本の幼児教育は今後何が求められる?

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特集 教員の知恵袋

 近年、世界の教育現場で注目される非認知能力は、コミュニケーション能力や問題解決力と並び、技術革新や新しい雇用が誕生し続ける社会において重要性を高めています。

 非認知能力を鍛えるには、幼い頃の教育やトレーニングが重要なため、幼児教育における質の向上が欠かせません。今回は非認知能力の意味や育て方、さらに幼児教育・保育無償化の目的について解説します。

非認知能力と認知能力の違い

 非認知能力とは、目標に向かうために努力する力や意欲など数字では測れない能力のことです。

 知識や記憶力、判断力、読み書きなどの知的能力を指す認知能力は、知能指数(IQ)で表すことができます。一方の非認知能力は、根気強さや注意深さ、意欲など、感情や心の働きに関する能力を意味しており、心の知能指数「EQ(Emotional Intelligence Quotient)」ともいわれます。

非認知能力が重視される理由と日本の幼児教育

 非認知能力が教育現場で注目される理由の一つに、アメリカのジェームズ・ヘックマン教授の主張です。ヘックマン教授の行った実験とその結果から幼児教育が極めて重要であることが分かります。

ヘックマン教授の主張

 ノーベル経済学賞受賞者であるアメリカのジェームズ・ヘックマン教授の主張は、「社会的成功にはIQや学力といった認知能力だけでなく、非認知能力も不可欠である」というものです。

 この主張は、ヘックマン教授が自ら1960年代に行ったペリー就学前実験の結果に基づいており、日本でも幼児教育が与える効果の参考として注目されています。

ペリー就学前実験の概要

 ペリー就学前実験は1962~1967年にかけ、アメリカのペリープレスクールで低所得者層アフリカ系アメリカ人の子ども(3,4歳)を対象に行われた実験です。

 実験では、子どもの半数に1日2.5時間の幼児教育プログラムを2年間実施したのち、子どもたちが11歳になるまでは毎年、その後は14歳、15歳、19歳、27歳、40歳時点で追跡調査を行っています。

 40歳時点の調査結果では、幼児教育プログラムを受けたグループの高校卒業率、年間所得額がプログラムを受けなかったグループのそれらを上回っていることが明らかになりました。この結果からヘックマン教授は、幼少期の教育によって「社会的成功に不可欠な認知能力と非認知能力の両方を向上させることができる」と主張しています。

日本の幼児教育の保育無償化と諸外国の対応

 幼児教育の重要性が叫ばれるなか、日本や諸外国ではどのような取り組みが行われているのでしょうか。日本では諸外国に続いて幼稚園や保育所といった施設の無償化が始まりました。

日本でも幼稚園や保育所等の利用が無償化

 日本では、令和元年10月1日より3歳から5歳児を対象として幼稚園、保育所、認定こども園、地域型保育、企業主導型保育の利用料が無償化されました。

 急速な少子高齢化の進行や諸外国における幼児教育の取り組みなどを踏まえ、幼児教育の重要性や無償化の必要性が高まっていたことが理由です。

「幼児教育費がかかりすぎる」声が後押しに

 幼児教育・保育の無償化について、担当大臣は「子育てや子どもの教育費にお金がかかりすぎる」ことも理由にあげています。

 教育費の負担を軽減させる施策は少子化対策にもつながり、さらには人格形成や義務教育の基礎を培う、幼児教育の機会を保障することが目的であると答弁しています。

 また、幼児教育を重視する働きは世界に広まっており、イギリスやフランス、韓国など幼児教育の投資効果から、その重要性を踏まえた無償化の取組をすすめる国も少なくありません。

非認知能力はどうやって育てる?

 子どもに自尊心や自己制御、忍耐力、非認知能力などを身に付けさせるには、特に3歳未満児の時期に実施する教育・保育が重要との認識が高まっています。

幼児教育は総合的に身に付き、個別で発達するわけではない

 幼児教育で身に付けるべき能力は、個別に発達するものではなく、幼児の心身の発達に必要となる経験が互いに関連しながら総合的に身に付きます。「これをすればこの能力が身に付く、取得できる」といった方法はありません。

 しかし、友達との遊びや生活、保育士等との信頼関係の構築が人間関係の築き方や言葉の習得、自己肯定感や何かをやり抜く粘り強さ、非認知能力などを育むことにつながります。

幼児期までに育ってほしい姿を明確にすること

 幼児教育全体としては、一人ひとりの発達や学びの個人差に気をつけながら「集団生活の流れを予測して、見通し持って取り組む」「友達や周囲の人に思いやりを持って接する」など、幼児期の終わりまでに育ってほしい姿を明確化し、教育を行うこともポイントです。

 幼稚園や保育園内だけでなく、家庭や地域社会、教育課程の編成、子どもたちに求められる資質や能力を共有し、連携を図りながら教育を行うことが求められます。

非認知能力の育成に求められる発展的な指導計画と柔軟な指導

 根気強さや意欲など数値で測れない感情や心の働きにかかわる非認知能力は、文部科学省が示す「幼児期において育みたい子どもの資質・能力」の一つとして重視されており、世界の教育現場でも注目されています。

 生涯にわたる人格形成の基礎および認知能力や非認知能力を育成する幼児教育は、個別に育まれるものではありません。幼稚園教育要領の記載事項に則りつつ、子どもの発達に合わせた指導計画の作成、そして遊びを通した柔軟な指導を行うことが求められます。

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