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外国籍児童生徒やその保護者との円滑なコミュニケーションに、多言語音声翻訳アプリ『VoiceBiz(R)』を活用

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企画特集

『VoiceBiz(R)』を使用した国際教室での授業の様子(綾瀬市立綾北中学校)

神奈川・綾瀬市

 近年、日本に在留する外国人が増加する中で、学校現場では日本語指導が必要な児童生徒の受け入れや対応が課題になっている。こうした中、綾瀬市では昨年度、小学校5校、中学校1校に凸版印刷の学校向け多言語音声翻訳アプリ『VoiceBiz(R)(ボイスビズ)』を導入し、国際教室における学習指導や保護者とのコミュニケーションなどに活用している。

市役所窓口サービスへの導入がきっかけに
 文部科学省が2018年度に実施した調査によれば、国内での日本語指導が必要な外国人児童生徒数は5万人を超える状況となっている。したがって、各自治体では日本語能力に応じて指導できる教員の配置や支援員を派遣して対応しているが、様々な言語への対応の遅れが指摘されている。
 そこで、こうした児童生徒に向けた教育支援として期待されているのが、多言語音声翻訳アプリ『VoiceBiz(R)』だ。
 市教育委員会 教育総務課の野村氏は「本市でも多くの外国人市民の方々が生活しており、“言葉の壁”への対応が課題でした。そのため、市役所の窓口サービスの向上として数年前から実証利用してきた経緯があり、日本語指導が必要な児童生徒の指導にも活用できると考えました」と語る。

30言語の多言語翻訳、学校で使う定型文も
 『VoiceBiz(R)』は、専用アプリに音声やテキストを入力すると、音声翻訳11言語、テキスト翻訳30言語の中から選択した言語に自動で翻訳し、音声やテキストを出力できるのが特長。通信可能なiOS/Androidのスマートフォン・タブレットで利用できるため、外国人児童生徒との学習・生活指導の場面や、外国人保護者との面談などで手軽にコミュニケーションを図ることができる。
 しかも、日本に在住する外国籍の児童生徒の母語で4分の1を占めるポルトガル語(ブラジル)やフィリピン語にも対応しているほか、「お子さんは食物アレルギーがありますか。」といった、学校でよく使う定型文や固有名詞も標準搭載している。

課題だった多様な母語への対応
 そんな『VoiceBiz(R)』を約1年前から活用しているのが、現在60人ほどの外国籍生徒が在籍している市立綾北中学校だ。「毎年10人くらいずつ外国籍の生徒が増えています」と小松校長。なかでも大きな課題は、ベトナム語を筆頭に、英語、ポルトガル語(ブラジル)、スペイン語、ラオス語など、母語が多岐にわたっていることだった。
 「そうした状況でも、生徒たちが日本の学校に適応できるよう指導していく必要があるため、今や多言語音声翻訳アプリは欠かせないツールになっています」と評価する。
 取材した当日、国際教室では中国籍の3年生が進路指導に関する問いを日本語で表現するために『VoiceBiz(R)』を活用していた。たとえば「入試に向けて取り組みたいことや直したいところを書こう」という問いでは、中国語を入力して日本語に変換。思うような翻訳ができないときは音声入力も使って文章を組み立てていく。教員も同じタブレットの画面を見つつ、逆翻訳することで生徒の意図を把握できるため、効率よく意思疎通を図ることができるようだ。
 担当する教員に聞くと、以前は身振り手振りを中心にコミュニケーションをとっていたという。もちろん辞書も使っていたが、母語によっては掲載されている語彙数が圧倒的に少なく、言語ごとにWebで検索して情報を入手するなどの苦労があった。

今年度中に全小中学校への導入を予定

音声入力に加え、テキスト入力でもスピーディーに翻訳が可能

自分の思いが伝わるツールとして評価
 こうした中、多言語に対応した『VoiceBiz(R)』を活用して実感する効果について、担当の教員に尋ねたところ、「生徒の気持ちを汲みやすくなったこと」を挙げる。これまでは何回か聞き返して通じないと、「先生もういいよ」と言われてしまい、お互いにあきらめてしまうこともあったからだ。
 「特に、国語や社会など自分の気持ちを表現する場面ではよく使っています。言いたいことはあるが、日本語が合っているかどうかが分からない子には、自分の思いが伝わるツールがあることで喋りやすくなる。難しい進路の話題も、彼らの気持ちを代弁してくれるのでとても助かっています」と強調する。
 また、操作性や翻訳スピードも優れており、何ら問題はないとした上で、「多いときは生徒8人を指導する必要があるため、できれば複数台で使えるようになれば。さらに、友達同士で普段の会話でも使えるようになると、もっと交流が育まれるようになると思います」と期待した。

楽しみながら会話する場面が増える
 市立綾北小学校でも、ベトナム、ブラジルなど37人ほどの外国籍児童が在籍しており、書写の時間や図書の時間が国際教室に充てられている。「以前は辞書や絵本を使ってコミュニケーションをとっていましたが、VoiceBiz(R)を導入してからは授業での用語説明やノートの取り方などの指導がしやすくなったほか、物語の感想を児童に話してもらえるようにもなりました」と国際教室の担当の森先生、太内田先生は進歩を口にする。
 さらに「小学生には音声入力が役立つとともに、学校でよく使う定型文も、保護者に対する運動会の開催変更の案内などに利用でき重宝している」「母語で気持ちを表現できるようになって、子どもが楽しみながらたくさん話してくれるようになった」と効果を語り、今では日常会話や給食の時間などでも活用するようになっているという。
 教育委員会ではこうした成果を踏まえ、今年度中に未導入の市内公立小中学校にも『VoiceBiz(R)』を導入する計画だ。本計画により市内すべての公立小中学校に『VoiceBiz(R)』が導入されることとなる。
 「日本語指導が必要な外国人児童生徒が増加する中で、文部科学省は多言語翻訳アプリなどのICT活用を推奨しています。本市の取り組みについても、すでに関東や関西圏の教育委員会から導入経緯などについて問い合わせが来ています」と野村氏。凸版印刷も2020年10月から開始した学校向け『VoiceBiz(R)』の実証実験を通じて、学校での利用を円滑にするシステムの改善に力をいれていく意向だ。

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