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「通級による指導」と求められる指導のかたち、ポイントとは

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特集 教員の知恵袋

 内閣府の国会提出報告書『平成29年度障害者施策の概況』によると、平成29年5月時点において、特別支援学校や特別支援学級に在籍する児童・生徒、または「通級による指導」を受けている生徒は増加傾向にあり、幼児・児童・生徒総数は約49万人です。

 これらを受けて平成30年度に内閣府が開始した『障害者基本計画』では小学校・中学校・高等学校で「通級による指導」を受ける児童・生徒の数を毎年増加させること。そして特別支援教育を行うための整備や取り組みを行っている学校の割合を100%に近づけることが目標として盛り込まれています。

 今後ますます増加が見込まれる「通級による指導」に備え、指導の内容や指導のうえで心がけるべきポイントを理解しておくことが重要です。

出典:内閣府『平成30年版 障害者白書 全文(PDF版)

「通級による指導」とは

 「通級による指導(通級指導)」とは、小学校・中学校の通常学級に在籍し、通常学級を受けながら、学習または生活で障害による困難を改善・克服するための特別指導のことを指します。原則は個別指導ですが、必要な場合にはグループ指導を取り入れる教育形態です。

 「通級による指導」の対象となるのは、知的障害がなく、言語障害・自閉症・情緒障害・弱視・難聴・学習障害(LD)・注意欠陥多動性障害(ADHD)・肢体不自由などの障害を持つ児童・生徒です。指導の対象となるか否かの判断は在籍校の校長が行います。

高等学校での通級による指導の開始

 高等学校では、発達障害を含む障害のある生徒への指導や支援は、通常の授業の範囲内で実施されていたため、特別の教育課程を編成する通級による指導が実施できていませんでした。

 しかし、平成30年度から、高等学校においても通級による指導が開始されました。ここからは、高等学校での通級による指導の実施形態や、実施によって期待できる効果を紹介します。

出典:内閣府『第3章 社会参加へ向けた自立の基盤づくり 第1節 1

高等学校での通級による指導で期待できる効果

 高等学校で通級による指導を制度化することで、生徒にとってさまざまな効果が期待できます。
 期待できる効果の例として挙げられるのは以下のとおりです。

 ・障害による学習上・生活上のつまずきの改善や克服
 ・対象の生徒が、学校生活や社会生活をスムーズに送ることができるようになること
 ・生徒本人の自己肯定感や学習意欲の獲得
 ・生徒本人の自己理解が深まり、困りごとへの対処法が身につくこと など

 また、通級による指導の実施により、対象の生徒だけでなく、教員や保護者など、生徒の周囲にも、次のような効果が期待できます。

 ・学校全体の特別支援教育の推進によって体制が整備されること
 ・学校と保護者との信頼関係の構築が進むこと
 ・教員・保護者・地域住民や、周囲の生徒による障害または障害の特性を持つ生徒への理解が進むこと

 これらの効果を生み出すには、通級による指導を適切な方法で実施することが重要です。

出典:内閣府『第3章 社会参加へ向けた自立の基盤づくり 第1節 1

通級による指導の実施形態

 高校生を対象にした通級による指導の実施形態は、次の3つに分類されます。

 1.自校通級:生徒が在籍する学校で指導を受ける
 2.他校通級:生徒が在籍する学校とは別の学校で指導を受ける
 3.巡回通級:通級による指導を行う担当教員が巡回して指導を行う

 これらの実施形態から選択する際は、対象となる生徒の数や、生徒・保護者が感じる心理的な抵抗感、通学によって発生する生徒の負担など、総合的に検討する必要があります。

 また、他校通級を実施する際は、学校の設置者が取扱いを適切に定めるとともに、対象の生徒が在籍する学校と、通級による指導を受ける学校が協議を行ったうえで実施することが求められます。

出典:文部科学省 初等中等教育局 特別支援教育課『高等学校における「通級による指導」実践事例集

「通級による指導」の指導内容と指導時間

 「通級による指導」は、個々の児童・生徒に応じたいわゆるオーダーメイド指導です。通常学級で取り扱う教育課程に加える場合、対象児童・生徒への指導を実施するのは、授業がない時間帯や放課後です。もしくはその一部を差し替えて、児童・生徒に合わせた特別の教育課程を編成します。

 通常の教育課程に加える場合、対象児童・生徒への指導を実施するのは授業がない時間帯や放課後です。そのため、全体の授業時数がほかの生徒より多くなります。一方、通常の教育課程の一部に替える場合は、ほかの児童・生徒が授業を受けている時間に「通級による指導」を実施するため、授業時数は増えないという仕組みです。

 児童・生徒の障害の状態に応じて各教科の内容を取り扱いながら、小・中学校では年間35~280単位時間内、高等学校では年間7単位以内の指導が可能です。指導内容の一部には、弱視の生徒に対して視覚認知・視覚補助具の活用等、ADHDの児童・生徒に対して刺激を調整しながら注意力を高める、などがあります。

出典:文部科学省『「障害に応じた通級による指導の手引 解説とQ&A(改訂第3版)」(文部科学省 編著)より抜粋』/内閣府『第3章 社会参加へ向けた自立の基盤づくり 第1節 1

「通級による指導」で教員が心がけるべきポイント

 「通級による指導」を担当する教員は、当該学校の教員免許状を有する者かつ特別支援教育に関する知識、障害によって生じる学習・生活上の困難を改善・克服するための指導に専門性や経験を持っていなければなりません。

 指導において特定教科の免許状は必要ありませんが、各教科の内容を取り扱って特別の指導にあたる場合は、個別の教育支援計画・個別の指導計画の作成および指導に当該教科の免許を有する教員を参画させることが望ましいとされています。また、当該児童・生徒やその保護者の声に耳を傾けながら指導を行うことも重要です。

出典:文部科学省『「障害に応じた通級による指導の手引 解説とQ&A(改訂第3版)」(文部科学省 編著)より抜粋』/文部科学省 初等中等教育局 特別支援教育課『高等学校における通級による指導の導入について

子どもについて深く理解する

 「通級による指導」を担当する教員には、子ども一人ひとりについて深く理解することが求められます。子どもの持つ障害ではなく、その子の得意なことや好きなこと、力を発揮しているところ、困っていることなど、発達全体に目を向けるように心がけることが大切です。

 また、前任の通級担当や特別支援教育コーディネーターから個別の支援計画・個別の指導計画を含む情報を引き継ぐことも欠かせません。指導目標の設定で配慮した点や具体的な指導内容、どのようなことを工夫して指導を行っていたかなど、細部まで引き継ぎ、指導します。

 異動によって新たに「通級による指導」を担当することになった場合や、前任者との引き継ぎが難しいときは、特別支援教育コーディネーターや在籍学級の担任、管理職から情報を集めます。

出典:文部科学省 初等中等教育局 特別支援教育課『初めて通級による指導を担当する教師のためのガイド

保護者や関係機関との連携

 障害のある児童・生徒の望ましい成長を促すためには、継続した支援体制を整えなければなりません。そのために必要となるのが情報収集、そして保護者や関係機関と連携です。

 たとえば、在籍学級で児童・生徒が授業を受けている様子を見学すれば、その子の得意なことや不得意なことを具体的に把握できます。また、保護者との面談では子どもに関する情報だけではなく、保護者が困っていることや願い、保護者がその子の障害や成長をどう捉えているかといったことにも耳を傾けることが重要です。

 さらに、教育委員会や医療・保健・福祉など、外部の専門家から子どもに関する情報を収集することも、理解を深めることにつながります。ただし、関係機関と情報を共有する際は、事前に保護者の承諾を得ることが必要です。

出典:文部科学省 初等中等教育局 特別支援教育課『初めて通級による指導を担当する教師のためのガイド

個別の教育支援計画と個別の指導計画

 「通級による指導」に欠かせないのが個別の教育支援計画と個別の指導計画です。目的や概要を明確にし、指導計画を立てて取り組みます。

―個別の教育支援計画
目的:それぞれの年代において望ましい成長を促すこと
概要:障害による困難な状況や支援の内容、相談歴など、本人や保護者を含めた関係者間で子どもに関する情報を共有するためのもの
個別の教育支援計画は、将来子どもが自立することを長期的な視点で検討する際、子どもの実態や保護者の願いを踏まえた指導内容を作成する材料です。それらによって作成された個別の指導計画を活用すれば、当該児童・生徒の指導内容や目標、課題などの引き継ぎが容易になり、計画的かつ継続的な支援へつながります。

―個別の指導計画
目的:個々の児童に応じた適切な指導を行うこと
概要:一人ひとりの指導目標や指導内容、指導方法を明確に記したもの
個別の教育支援計画・個別の指導計画は、作成して終わりではなく、PDCAサイクルによる見直しを行いながら改善していくことが大切です。

出典:文部科学省『「障害に応じた通級による指導の手引 解説とQ&A(改訂第3版)」(文部科学省 編著)より抜粋』/文部科学省 初等中等教育局 特別支援教育課『初めて通級による指導を担当する教師のためのガイド

「通級による指導」に求められる関係機関の連携と継続的な支援

 障害上の困難を改善・克服することを目的として行う特別指導「通級による指導」において必要なのは、障害の特性や子どもの発達に合わせた指導を継続的に行うことです。

 その実現には、子どもへの理解を深めること、個別の教育支援計画や個別の指導計画の活用、さらに保護者や関係機関との連携が欠かせません。内閣府の掲げる障害者基本計画に明記されている通り、「通級による指導」を受ける子どもの数が今後さらに増えていくのは明らかです。

 教員同士や学校間、教員・保護者間など、対児童・生徒に留まらず、関係機関を巻き込んで行う計画的・継続的な支援がこれまで以上に求められます。

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