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「GIGAスクール構想」後のICT活用~整備されたICT環境を授業で有効に活用するためには~

7面記事

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生涯にわたって能動的に学び続けるICT活用スキルを

 「GIGAスクール構想」により、これまで思うように進まなかった教育のICT化に向けた整備が一気に進展。来年4月からは全国の学校で導入されたICT環境を活用した授業づくりが始まることになる。しかし、新型コロナへの対応で導入が前倒しされたこともあって、「ICTを活用してどんな教育を目指すのか」といったビジョンやロードマップを策定しないまま整備を進めてしまった自治体も数多くあり、学校現場で活用するには準備不足という声も聞かれている。そこで、東京学芸大学の高橋純准教授に「GIGAスクール構想」導入後におけるICT活用のポイントについて聞いた。

高橋 純 東京学芸大学 教育学部 准教授
 専門は教育工学、教育方法学。わかりやすく深まる授業づくりのために、他大学や企業、現場教員らとの共同研究を実践している。

「情報を共有する」から「活動を共有する」使い方へ

 ―「GIGAスクール構想」の整備が、今年度中にはほぼ全国の自治体で完了する見通しです。そこではどんなICT活用が行われるのでしょうか。

 「GIGAスクール構想」後の学校におけるICTを活用した授業では、基本的にはMicrosoft TeamsやGoogle Classroomといった学習支援・クラウドを前提としたグループウェアを利用し、ワープロや表計算などの汎用ソフトを使うことになると思います。
 子ども用の学習ソフトが必要という意見もありますが、あらゆる先生の立場で考えると、まずは実際にはこうした普段の業務で慣れているソフトを使った方が、新しいソフトを使っていちから研修や実践をするよりもやりやすいと考えます。
 その中で、これまで整備が遅れていてICTを活用してこなかった学校がICTを活用する状態にするためには、まずは「情報をデジタル化」していく段階が必要になります。したがって、ワープロや表計算を使ってみることからスタートし、それをファイルの配布・回収といった「情報を共有する」ことにつなげていけばいい。
 次のステップ、「GIGAスクール構想」で求められるクラウド活用では、各自が個別に作業をした結果がネットワーク上で統合される。すなわち、いつでもどこでもすべての子どもたちが同時に共同作業を行えるようになります。すると、活動レベルでの情報共有が始まるため、「情報を共有する」から「活動を共有する」使い方へシフトすることが大事になってきます。すでにクラウド活用が進んでいる学校では、そうした高次元でのレベルで情報共有することが起こっています。
 また、クラウドなら学校内でのチャットやグループ会議への投稿も毎回のパスワード認証なしでスピーディーに行えますから、活動を共有するレベルでワープロや表計算を使えると学校の実践でも面白いことが起きて、クラウドっていいなと感じてもらえるようになる。クラウド活用にもいろんな段階がありますが、学校現場での目指す使い方の1つとして、「活動を共有するんだ」というのはメッセージとして伝わりやすいと思っています。

整備後の利活用に待ち受ける課題

 ―やはり、ICT活用に経験値のある学校とそうではない学校では、「GIGAスクール構想」後の実践でも大きな差が出てくると思いますか。

 愛知県春日井市のある学級では、導入からわずか2か月で「活動を共有する」使い方まで進展しています。同市は約20年前から段階的に学校へのICT整備を進め、ICTを活用した授業の質の向上を目指してきた蓄積があるからです。反対に、電子黒板など拡大提示装置を使った初歩的なICT活用も行ってこなかった学校は、来年4月以降は苦労することになると思いますね。
 「GIGAスクール構想」の実践を「家を建てる」ことに置き換えると、地面にICT環境という「岩」があって家を建てることができなかったが、今やっと取り除くことができた状態。でも、さらに地面から先生や子どものICTスキル不足、情報セキュリティポリシーなどの制度の「岩」が出てきたり、もっとおそろしいマインドセット(固定化された考え方)という大きな「岩」が現れたりという新たな課題が持ち上がってきた。
 ICT環境という「岩」が取り除かれたらすべて上手くいくかというとそうではなく、見えないところの地域差も歴然としてある。つまり、ICTが必要か必要でないかと話し合っている地域と、前向きに受け止めてやるしかないと思っている地域とでは、この先の「実践という家」を建てるスピードが全然違ってくると考えます。

マインドセットを変える必要性

 ―遅れている自治体・学校現場は、なるべく早くマインドセットを変えることが必要だと。

 昨年12月に出された中教審の「新しい時代の初等中等教育の在り方」では、2020年代を通じて実現を目指す学校教育の姿として、「変化を前向きに受け止め、豊かな創造性を備え持続可能な社会の創り手として、予測不可能な未来社会を自立的に生き、社会の形成に参画するための資質・能力を一層確実に育成する」とあり、多様な子どもたちを誰一人取り残すことのない個別最適化された学びの実現に、1人1台端末や通信ネットワークを活用することを求めています。
 中教審がこうしたメッセージを送っているのは、時代の変化を感じます。特に、「変化を前向きに受け止めて」といっているところがミソで、ICTに苦手意識のある人たちも、まずは前向きに受け止めてほしいと思います。やってみて、それでもいらないというのは理解できますが、自分の経験だけがすべてで最初から否定してしまうのはもったいないと思います。
 私がICT教育を推進する最大の理由は、新学習指導要領の「主体的・対話的で深い学び」の説明の中で「生涯にわたって能動的に学び続ける」と書いてあって、これがとても重要だと思うからです。世の中はどんどん変化しており、学校教育の中だけで教育が終わらないことは誰もがわかっている。その中で、社会に出て1人で勉強するときに何を使うかというと、やっぱりコンピュータを使うことになると思います。だから、学校にいるうちからコンピュータを使って勉強し、ICTを活用するスキルを高めておく必要があるのです。

クラウドを活用した豊かな学習活動

 ―クラウド活用を授業で取り入れる魅力を教えてください。

 さきほど挙げた学級では、それぞれがネットで議論し合った後、お互いに画面を見ながら、しかも多様なグループの形式で意見交換が行われる話し合い活動に発展しています。その上で、必ず最後は文章でまとめさせる。書いてみたらわかることはたくさんあって、その際も共同編集ツールでみんなの意見を参考にすることができる魅力があります。
 また、たとえばクラスの係を決めるときもネット上の議論で進めさせ、その内容や決め方も子どもたちに任せている。
 その結果、「共同編集の依頼で係決めの流れが決まりましたので、確認とアドバイスをお願いします」と先生宛にメッセージが送られてくるなど大人顔負けです。1人1台端末を導入してから短期間でも、こんなに豊かな活用に広げることができるのです。
 ICT活用を進めるためには従来型の子ども用のソフトが必要だと考えている専門家は、こうした使い方のイメージが湧いていないのでは。これなら十分授業になるし、大人と同じ使い方だから操作の研修をする必要がない。毎日使っているソフトを授業でも利用していく、それがICT利活用を進めていく1つの方法だと思います。1人1台を上手く使えている学校は、このように普段の授業はしっかりやっていて、その質を上げるためにICTを使っている学校なのではないでしょうか。

 ―来年3月までに学校として準備しておくこととは。

 まず、インフラとしては、慌てて導入した自治体もあるため、教室の電源容量が不足していたり、地域によってはモノだけ入れて設定はすべて先生が行うところもあったりしますので、それが「安定・安心安全」の設定になっているかを確認しておくこと。
 学校の取り組みとしては、個々が学習へ向かう姿勢づくり、学校で使う上での約束ごとや情報モラルといったICT活用ルールが必要になります。それに文字入力、クラウド共有などの汎用ソフトを活用する操作スキル、取捨選択して情報を上手く使うなどの情報活用スキルなどが基盤として必要になります。これらができていると、クラウド活用にスムーズに移れるのではないでしょうか。

現場の先生たちの創意工夫を見守る

 ―学校でのICT活用を推進させるため、教育委員会に期待することは。

 今回整備したICT機器を有効に活用するには、現場の先生たちの創意工夫がとても大切になると考えています。
たとえば新型コロナで臨時休業したとき、先生方がオンライン授業を企画したところ、セキュリティへの懸念を感じた自治体からストップをかけられたケースがありました。いったんは先生方のやる気を打ち消したのに、「GIGAスクール構想」が整備されたら、もっとオンラインを活用しろというのは矛盾しているような気がします。
 だから、教育委員会にはセキュリティに敏感になって、あれもこれも禁止と唱えるよりも、そうした先生方の創意工夫を見守るような胆力を持って、サポートに努めてほしいと思います。
 また、よくあるのが、教育委員会が機種選定の会議を行う場合、必ず「子どもがこう使う」とか、「子どものためにはこのシステムがよい」とかの議論になります。でも、そこには先生の視点が抜けているんですね。結果、そこで決まったシステムが学校にポンと入っても、先生が使いにくいから活用が伸びないということがよく起こります。といったふうに、先生がいかに気持ちよく授業を進められる仕組みをつくるかが極めて大事になります。
 すなわち、今回の「GIGAスクール構想」導入後のICT活用は、先生ファーストで進められるかどうか。加えて、先生と子どもが同じソフトを使って、一緒にスキルを高めていくような使い方をすることがポイントになると考えています。

オンラインで求められる高スペックな端末

 ―最後に、新型コロナへの対応で、オンライン授業や動画視聴が求められるようになり、今の端末ではスペック不足にならないかという声もありますが。

 確かに「GIGAスクール構想」のスペックを決めたときと現在とでは、動画の必要性や信用性について要求水準が上がっています。先生方も動画を使うことが当たり前になって、動画を視聴しながら同時に複数のソフトを立ち上げて作業する、動画配信をしながらチャットすることも普通になってきています。
 先日行った中教審の会議でも音声が飛び飛びになってしまう学校がありました。複数のソフトを立ち上げると画面が固まったり、ファイルを開くのにものすごく時間がかかったりすれば、効率が悪いだけでなくストレスを感じてしまうもの。ですから、今後は先生だけでも高スペックの端末を導入した方がいいとは思います。
そのためにも、これからの4~5年の間にICTは教育に欠かせないものだという成果をしっかり上げていく必要がありますね。

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