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感染対策を施しながらICT端末を活用した教育旅行を実現

11面記事

企画特集

和歌山・南紀で探究型の海の学習
奈良県・川西町立川西小学校

 本年度の「教育旅行」は新型コロナウイルスの影響もあり、文科省が発表したガイドラインに基づき、より一層感染症・安全対策の徹底が求められた。一方で急速に整備が進んだ1人1台端末「GIGAスクール構想の実現」。今後はICT端末活用と絡めながらの事前・事後学習、当日の実践がスタンダードになっていくだろう。そこで、本年度感染対策を施しながらICT端末を活用した教育旅行を行った学校を紹介する。

海と自然を求めて和歌山へ
 川西町立川西小学校(福辻智実校長、児童数403)の6年生69人は、11月16・17の両日、修学旅行で和歌山・南紀白浜方面を初めて訪れた。総合的な学習の時間と連動させ、海洋ゴミの調査を行うなど探究型の学びを実現している。児童は1人1台のタブレットを持参し、臨場感のある学びが経験できた。
 同校は例年秋に、平和学習をメインに修学旅行を実施していたが、今年度は新型コロナウイルスの感染リスクを避けるため、和歌山・南紀白浜方面に変更。バスで2時間という近さ、比較的感染者数が少ないエリアを巡ることができる安全性に加え、6年生の学びを生かせる「海」や「自然」といった教材があることが、選定の大きな理由だった。
 行程は1泊2日。初日は教科や「総合的な学習」と関連付けた見学や活動、2日目は自然観察や動物とのふれあいを中心に計画した。
 1日目は学校からバスで出発し、和歌山城を見学。社会科で扱う江戸時代の学習に登場する「御三家」の城として、事前学習をしてから見学した。昼食後、県中部の、みなべ町に到着。宿舎のすぐ後ろに広がる海岸で「海の学習」を行った。
 2日目は、さらに南下して白浜町へ移動。海岸にそそり立つ高さ50メートルの断崖「三段壁(さんだんべき)」を見学した。理科で学んだ地層がはっきり確かめられたという。その後、テーマパーク「アドベンチャーワールド」で動物とのふれあいを楽しんだのち、帰路についた。

「海のごみ」テーマに探究
 初日の「海の学習」は、近年、プラスチックごみをはじめとした「海洋ごみ」が問題になっていることを受け、探究型の学習活動として6年生が学んできたもの。だが、内陸にある同校では、海を身近に感じることは少ない。そこで、事前学習では、自分たちが調べたテーマや仮説をプレゼンテーション大会で発表。その検証を修学旅行先の海岸で行うことにした。南紀白浜は美しい砂浜が有名だが、宿舎のスタッフに相談し、あえて観光地の中心でない海岸を紹介してもらった。
 子どもたちは「本当にプラスチックごみは海岸にあるか」「何種類のごみがあるか」など、グループごとのテーマを確認した後、海岸を訪れた。すると、ペットボトルや発泡スチロール、空き缶、お菓子の袋、釣り糸やルアーなどさまざまなごみを見つけたという。「どのようなごみが多く海岸に流れついているか」を調べる過程で、ごみを1カ所に集めることになり、結果的に海岸の清掃活動にもなった。
 調査後は宿舎でグループごとにまとめを行った。持参した1人1台のタブレットで撮影したごみの画像を収集し分類、調べて分かったことを、授業支援アプリを使って共有していく。タブレットを活用することで、見たものをすぐに振り返り、感じたことや考えたことを記録に残すことができた。
 事後学習では「海の学習」をまとめ、全校の「なかま集会」で発表した。発表の前に、修学旅行での学びで下級生に伝えたいことをタブレットも活用しながら考えた。続いて、低学年向け・高学年向け・展示作成の3グループに別れて活動し、なかま集会では、海洋ごみが発生する理由や環境に与える影響、解決に向けて自分たちができることを「創作劇」で伝えることにした。1~3年生向けにはペットボトルのキャラクターを主人公にし、低学年の子どもたちが理解しやすいストーリーに、4・5年生向けには海岸で撮影した実際の画像を背景に投影してドキュメンタリー風に仕上げるなど、相手に合わせて伝え方を変える工夫もできた。
 6年2組担任の横手香教諭は「事前学習から、現地での見学や体験を経て事後学習で自分なりにまとめて伝える、という、毎年の修学旅行での一連の学習を経験させることができた」と話す。行き先を変更しても、ねらいとした活動を実現できたことは大きな収穫だったという。

めりはりを付けて楽しく過ごす工夫
 全員が元気に2日間の修学旅行を終えられるよう、移動中や滞在先での新型コロナウイルス感染予防対策は細心の注意を払った。普段の学校生活で身に付いているマスク着用、積極的な手洗いはもとより、

 ・バスを増便して「密」を避ける
 ・車内では話さずにDVD鑑賞をする
 ・昼食は外で向かい合わせにならないよう大きな円になって食べる
 ・ホテル内の食事では前を向く
 ・1部屋あたりの人数を減らす

 ―など、保護者や子どもにも事前に説明し「守るところは守る」ことの意識を高めていった。
 「楽しむところは楽しむ」要素は、1人1台のタブレットがあったことで一層盛り上がった。カメラ機能を使って思い思いに写真を撮ったり、地域共通クーポンでおみやげを買うのに電卓アプリで計算しながら選んだりと、タブレット端末を身近なツールとして使いこなす機会にもなった。「楽しみにしていた修学旅行ができたことを、子どもたち自身も嬉しく思っている。思い出づくりと学びの場の両方を作ることができた」と、1組担任の山岡知樹教諭は振り返る。
 3学期に入っても修学旅行がクラスの話題に上ることも多いのは、今回の修学旅行が、6年生にとって一生に一度の大切な思い出となった証だ。

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