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1人1台端末で考察を深める理科の授業を

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新・理科教育特集

 コロナ禍での授業数の縮小により、理科授業での「観察・実験」が削られる傾向にある。しかし、このような五感を使った体験の中で予想や仮説を立て、課題解決する力を育むことが、理科という学問の魅力であることを忘れてはならない。そこで、こうした体験活動を重視する背景や、効率的・効果的に「観察・実験」を行うための理科機器やICT活用を紹介する。

日本の子どもに足りない力を伸ばすために
 今年度から、小学校に続いて中学校の新学習指導要領に基づく教育が本格実施を迎えた。目標とする「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング型学習)の実現に向けて、理科では子どもの興味関心を引き出す「観察・実験」などを行い、その結果を分析して解釈するなどの科学的に探究する学習を充実させることが求められている。
 このねらいには、国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)などの国際的な学力調査において、小学校・中学校のいずれも高い水準を維持している一方で、「観察・実験の結果などを整理・分析した上で、解釈・考察し、説明すること」などの資質・能力に課題があることが挙げられる。これは、全国学力・学習状況調査においても共通する課題になっていることから、日頃の理科授業においても、実験結果をもとに分析して考察をしたり、目的に応じて実験を計画したりする必要性が指摘されている。
 同時に、若者の科学技術全般に対する興味・関心の低下が叫ばれている中で、「観察・実験」を通じた実感を伴った理解が、子どもの興味関心を引き出すことにつながると期待されているからだ。

理科専科教員で授業内容の向上を
 このような課題を解決する理科教育での「観察・実験」機会を充実させるため、新学習指導要領では授業時間数を増加させるとともに、学習内容の深まりに対応して専門的な技術や指導が必要になることから、小学校での理科専科教員の加配も進められている。加えて、今年1月の中教審の答申では、小学校高学年からの算数、理科、外国語の教科担任制を2022年度に本格導入することが示唆された。
 ちなみに、すでに兵庫県では小規模校を除いた全小学校で教科担任制が導入されているほか、文部科学省の2018年の調査によれば、小5理科は45%、小6理科は48%が教科担任制(学級担任以外で教科等を主指導する教師)になっている。小学校高学年の教科担任制の導入には、授業内容の向上やクラスごとの差を縮めるとともに、中学校での指導スタイルと近くなるため、進学した際も早く学校に慣れることで、いわゆる中1ギャップを解消する効果も期待されている。
 さらに、小中9年間のつながりを強化する観点から、小中一貫校や義務教育学校等では中学校の教員が小学校の理科授業を受け持つケースも増えている。

理科機器の充実に向けて予算も拡充
 「観察・実験」の重視に向けては、理科機器を含めた学校教材の整備として、2020年度から10か年にわたり、単年度約800億円の地方交付税措置が講じられている。しかも、「新教材整備指針」の中に「理科教育等設備基準」に基づいた理科教材を新たに例示し、理科教育等設備整備費補助金の対象とならない実験観察・体験用教材を盛り込むなど、理科機器の充実に向けた制度も拡大している。
 また、新学習指導要領に対応する教育条件整備策の1つとして「教材整備指針」を改訂。その中では、新学習指導要領関連として、プログラミング教育用ソフトウェア・ハードウェア(小学校)や発表板。技術革新等関連として、視線・音声入力装置(特別支援学校)、3Dプリンター(中学校)。学校における働き方改革関連として、拡大プリンター、複合機などが新たに品目化されている。
 さらに、単年度理科教育設備整備等補助金の指定品目についても、新学習指導要領に合わせて、小学校では、電気の利用プログラミング学習セット、デジタル気体チェッカー(酸素センサー含む)、生物顕微鏡、標本が立体的に見える双眼実体顕微鏡、提示用顕微鏡などが新規品目として加えられた。

ICT活用で科学的に探究する力を育む
 もう1つ、理科学習の一層の充実を図るための有用な道具として期待されているのが、GIGAスクール構想で導入された1人1台端末の活用になる。なぜなら、理科の指導では「観察・実験」などの直接体験を基本としているが、指導内容に応じてコンピュータや情報通信ネットワークなどを活用することによって、児童生徒の学習の場を広げたり、学習の質を高めたりすることができるからだ。
 また、昨年以降は新型コロナウイルスの感染拡大が続く中で、グループによる実験が思うようにできないケースが生じていることもあり、授業の質の確保としてICTを用いる学校も増えている。

 こうした理科の特質に応じたICT活用では

 ・「観察・実験」のデータ処理やグラフ作成から、規則性や類似性を見いだすこと
 ・デジタル顕微鏡などの実験機器とコンピュータの組み合わせによって、「観察・実験」の結果の分析や総合的な考察を図ること
 ・センサーを用いた計測により、通常では計測しにくい量や変化を数値化・視覚化して捉えること
 ・「観察・実験」の過程で情報を検索すること
 ・学習を深めていく過程で、児童生徒が相互に情報を交換したり、説明したりする際の手段として活用すること

 ―などが期待されている。

 小学校5年「流れる水の働きと土地の変化」の活用では、流れる水の働きを調べるモデル実験を行うときにタブレット等で土地の変化の様子を録画することで、何度も映像を再生して振り返り、話し合うことができる。3年「風とゴムの力の働き」では、学習から気づいたことを写真や動画で撮影・保存することで、自然を見つめる視点の考察がしやすくなる。また、このように理科で学んだことをタブレットに蓄積していくことで、過去の学びを振り返りながら自然の事物・現象についての理解を深めていくことができる。

個々が主体的に考察を進められるメリット
 一方、中学・高校では、1人1台端末を活用して「観察・実験」データの処理やシミュレーションを容易に行うことができるため、個々が主体的に考察を進めることができるとともに、その結果をクラス全体で共有し、より考察を深めていくことが可能になる。加えて、「観察・実験」のレポートやプレゼン資料などを作成し、自分の考えをまとめる活動につなげられる魅力もある。
 中学校理科の新学習指導要領では、「防災・安全教育」の内容が拡充され、これまで第3学年で扱っていた「自然災害」を、全学年を通して体系的に学習することになった。各学年を通じて大地や気象の変化といった災害のメカニズムについて理解することで、防災・減災に関する生徒の意識を向上することがねらいだが、こうした自然災害(火山のしくみ、大地のゆれ、河川の氾濫など)のしくみを学ぶ上で、ICTを使った映像やシミュレーションが効果的といえる。
 また、福島原発事故を契機に放射線を理解することの重要性が高まっていることから、放射線教育は第3学年に加えて、第2学年においても扱うことになった。第2学年では、真空放電と関連させてX線に触れ、同じ性質を持つ放射線の存在とその利用に触れる。第3学年では、原子力発電のしくみや特徴を理解させる中で、放射線は核燃料から出るとともに自然界にも存在するなど、さまざまなものから出ていることに触れることが提示されている。その上で、放射線が身体に与える影響など発展的な学習につなげていくことが考えられる。したがって、ICTによる動画・実験教材の活用はもちろん、自然界には放射線が存在することを理解するため、簡易放射線測定器やアルファ線検出器、霧箱などを使って実験することが期待されている。
 第1学年には「生物の特徴と分類の仕方」が新設された。ここでは、生物の観察によって、生育環境や観察器具類の扱いなどを身につけることが目標とされていることに加え、第2学年ではよりミクロな視点となる生物の内部構造について扱うため、解剖を行うことが必要になる。
 さらに、第3学年になると実験や観察が難しい細胞分裂や遺伝子なども扱うため、映像による学習が薦められており、デジタル顕微鏡などの観察機器や1人1台端末を上手く活用したいところだ。

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