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近年の気象変化やコロナ禍を視野に入れた避難所運営を

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2020年7月豪雨による被害

いつどこで災害が起こるか分からない
 近年では台風はもちろん、線状降水帯発生等に伴うゲリラ豪雨や長雨による河川の氾濫によって、学校施設においても浸水や土砂流入の被害が起きている。8月に全国各所で水害や土砂崩れをもたらした1週間続いた長雨は、まさに、気象が著しく変化していることを思い知る事象となったが、いつどこで、こうした被害が起きても不思議ではなくなっている。
 熊本県を中心に九州や中部地方など日本各地で発生した集中豪雨=2020年7月豪雨では、長野県や高知県の一部地域で期間中の降雨量(アメダス観測値)が2千ミリを突破し、岐阜や大分、和歌山、宮崎、熊本でも1千ミリ超えを記録した。しかも、集中豪雨によって1時間の降雨量が100ミリを超えた地域や、24時間降雨量が500ミリ近くに達した地域も数多くあった。これは、平成最悪の水害となった西日本豪雨を上回る降水量となっている。

避難所が浸水して機能停止するケースも
 こうした中、学校施設の校舎・体育館・グラウンド等への浸水、冠水、雨漏り、土砂流入、法面崩壊が報告された件数は、国立学校施設(大学・高専)が25件、公立小中高校等施設が157件、私立学校施設が69件、社会教育・体育・文化施設が267件に及んだ。
 また、今年8月の大雨による被害も18日時点で確認がとれている件数で、国立学校施設(大学・高専)が5件、公立小中高校等施設が39件、私立学校施設が3件、社会教育・体育・文化施設が14件となっている。
 全国の公立学校の9割が避難所に指定されている中で、河川の氾濫や敷地の浸水等によってその機能が停止することは、地域の人々の安全・安心を確保する上で重大な問題となる。だからこそ、地震や台風に加えて、近年増加する豪雨も視野に入れた防災機能の強化が必要になっている。
 たとえば福井市では、現在、新たに最大規模降雨を想定したハザードマップの作成を進めているとともに、住民が緊急避難を行える場所の確保として、大型商業施設と立体駐車場や店内の一部スペースなどを提供する「災害時応援協定」を締結している。

コロナ禍の初めての大規模災害に
 一方で2020年7月豪雨は、コロナ禍における初めての大規模な災害になった。したがって、学校の体育館を中心とする避難所の開設時には被災者の受け入れと併せてコロナ対策も余儀なくされたが、内閣府ではおおむね適切に対策が行われたとしている。
 なかでも熊本県は、避難所の状況を設置市町村と迅速に共有し、各避難所の運営状況、衛生環境、設備等について、迅速かつ被災者のニーズに沿った支援を届けるため、統一フォーマット「避難所カルテ」により避難所の状況を見える化。これによって被災者のニーズに沿った支援を迅速に実施するとともに、被災市町村の避難所運営を効果的に支援することができた。
 ただし、誰が責任をもって報告するかや、通信状況が不安定な場合の報告手段の確保、見える化された情報の共有範囲や共有方法、課題対応部署の振り分け、改善されたかどうかの確認とその情報共有などが課題で、こうした課題への対応策を県と市町村の間で平時から組み立てておくことが重要だとしている。

避難所となる体育館での感染拡大を防ぐために
 学校施設の新型コロナの感染抑止としては、文科省が20年度補正予算や21年度予算を拡充し、消毒・衛生用品の購入やトイレや教室等の清掃作業を外注できるように促している。だが、いまだコロナの終息への道筋が見えない中で、災害が起きたときは被災者を受け入れる体育館等の感染拡大を防ぐための防災対策も欠かせなくなっている。
 そのため、消毒や検温の徹底から始まり、ソーシャルディスタンスに基づいたパーティション、段ボールベッドのレイアウト設置などの準備が計画されてきたところだ。加えて、3密を回避するための室内の換気対策として、送風距離の長い大型扇風機やサーキュレーターの導入が急ピッチで行われるようになったほか、サーモグラフィー、空気清浄機、二酸化炭素濃度計測装置、紫外線照射装置、空気除菌システムといった最新機器の導入も進み始めている。
 その上で、今後も新たに災害が起こった場合に備え、関係府省が示しているQ&Aや「新型コロナウイルス感染症対策に配慮した避難所開設・運営訓練ガイドライン」等を参考にするなどして、マニュアル等の見直しを行い、運営訓練等を実施して対応の検証・改善を図ることを求めている。

避難所のコロナ対策事例
 各地域でのコロナの感染状況を踏まえた避難所運営の取り組み事例としては、「感染症を考慮した避難所開設・運営訓練」を実施し、学校の施設利用計画や避難者の受け入れ手順を見直す。大規模な訓練ができない中、役所職員を中心に避難所運営検証を実施し、報告書をHPで公開するとともに動画をユーチューブで配信する。感染予防と医療・保健活動のしやすさを考慮し、発熱や咳等のある者の専用の避難所(体調不良者用避難所)を設定する。コロナ禍での分散避難の観点から、ホテル・旅館等を避難所として活用するなどがある。
 また、必要な物資や資機材等の備蓄を行った事例としては、救援物資の一時保管、救護所等に活用できる「テント」及び避難所内で使用する「間仕切り」などを主要な対象品目とした協定を締結することにより、災害時の迅速かつ的確な物資供給が可能となる体制の構築を図った。避難所等における感染防止対策を早急に進めるため、県補助金による支援を行った。避難所の感染症対策に資する資機材を配備するため、臨時交付金を活用して各市町村の備蓄倉庫等に配備した、などがある。

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