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特異な才能のある児童・生徒に対する支援・指導について

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特集 教員の知恵袋

 文部科学省は2021年の7月・8月・9月に、特定分野に特異な才能のある児童・生徒に対する指導・支援のあり方についての有識者会議を実施しました。学校での指導において気になっている教育関係者の方もいるのではないでしょうか。

 今回は、これらの有識者会議が行われることになった背景をはじめ、特定分野に特異な才能のある児童・生徒の指導・支援の方法について解説します。

有識者会議が行われた背景

 特異な才能のある児童・生徒に対する支援・指導についての有識者会議が行われた背景には、これまで日本国内で十分な話し合いが行われてこなかったことが挙げられます。

 米国をはじめ、世界各国で行われる“ギフテッド教育”では、特異な才能と学習困難を併せ持つ児童・生徒や領域依存的な才能を伸ばす教育も含めるという考え方に移行しています。特異な才能と学習困難を併せ持つ児童・生徒の具体例として、以下のような特徴が挙げられます。

・単純な課題が苦手な一方で複雑で高度な活動は得意
・対人関係が不得手な一方で想像力が豊か
・読み書きに困難を抱えている一方で芸術的な表現が得意

 日本ではこれまで、スポーツや文化などの分野において特異な才能を伸ばすシステムが学校外に作られてきました。その一方で、特定分野に特異な才能のある児童・生徒に対する“特異な才能”の定義付けや能力の伸ばし方については十分な議論が行われてきませんでした。

特異な才能を持つ児童・生徒の指導・支援に有効な方法

 学校教育においては、特異な才能を持つ児童・生徒を含め、“個別最適な学び”を通じて個々の資質・能力を育成することが大切です。同様に、“協働的な学び”の視点を重視して児童・生徒同士が互いの違いを認め合い、学び合いながら相乗効果を生み出す教育が求められます。

 そのために、ICTの活用、STEAM教育(※1)のように教科等横断で実社会と関わりを持つプロジェクト型の学び、大学・民間団体との連携などが有効に機能するのではないかと考えられます。

※1…STEAM教育とは、Science・Technology・Engineering・Art・Mathematics各教科・領域固有の知識や考え方を統合的に働かせて解決する学習のこと

研究開発学校における研究開発課題

 研究開発学校とは、1976年度に開始された制度です。学習指導要領等現行の教育課程の基準によらない教育課程の編成実施を認め、新しい教育課程、指導方法等について研究開発を行い、教育課程の基準の改善に役立つ実証的資料を得ることが目的です。

 研究開発学校においては、特異な才能を持つ児童・生徒の指導に関する研究が2021年度の研究開発課題となっています。ここでは、研究開発学校の目的と特異な才能を持つ児童・生徒の指導・支援に関する課題を紹介します。

研究開発学校で決定する評価方法や評価指標

 研究開発学校では、文部科学省や教育研究開発企画評価会議協力者の指導助言を踏まえ、以下のような項目を明確化します。

・子どもたちに育ててもらいたい資質・能力
・新設する教科等の教育課程上の位置付け
・教育課程全体で新設する教科等と既存の教科等との関係性
・新設する教科等の目標・内容

 そのうえで、特別の教育課程を実施した成果を分析するための評価方法や評価指標を決定することが目的です。

2021年度の研究開発課題

 研究開発学校では、知的好奇心を高める発展的な学習の充実を2021年度の研究開発課題として掲げています。

 知的好奇心を高める発展的な学習の充実 

 2E(Twice-Exceptional)(※2)の児童・生徒を含め、特定分野に特異な才能を持つ児童・生徒を対象に遠隔・オンライン教育を活用。これにより、学習意欲の喚起や知的好奇心を高める発展的な学習の指導や支援のための教育課程のあり方を研究。

 個別最適な学びと協働的な学びの往還に関わる研究 

 STEAMをはじめ、教科等横断的で実社会との関わりを持つプロジェクト型の学びを実施。児童・生徒同士が互いの違いを認め合いながら相乗効果を生み出す学びのあり方を研究。

 学校外での学びの実践 

 大学内の施設や民間団体等が提供する学校外の学びの場へ児童・生徒をつなぐ。学校外での学習を生かし、学校外における学びの成果を含めた学習評価のあり方を研究。

※2…特異な才能と学習困難を併せ持つ児童・生徒のこと
出典:文部科学省初等中等教育局教育課程課『事務局説明資料

有識者会議で寄せられた意見

 2021年7月14日、特定分野に特異な才能のある児童・生徒に対する学校での指導・支援のあり方等に関して有識者会議が開かれました。第1回目の有識者会議で主な委員から寄せられた意見は以下のとおりです。

・「狭い範囲の特異な才能を持った子どもに限定せずに、個に応じた学びの一環としてさまざまな子どもたちの興味・関心等のニーズに応じた学びのあり方を考えていくべき」
・「特定の意図を持ったプログラムを学校外で提供し、識別の基準を示すことで才能の識別を行うことが考えられる」
・「子どもたちの才能を伸ばすための取り組みをどのようなリソースで行うのか検討すべき」

引用:特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議(第1回)における主な委員の意見等

 今後、学校で特定分野に特異な才能のある児童・生徒の指導・支援を進めるにあたっては、特定分野に特異な才能のある児童・生徒をどのように定義するかが重要といえます。

 また、特定の才能を持つ人に厳しい目を向けやすい日本社会の特徴を理解したうえで、社会的に賛同を得やすいテーマで議論を進めることも重要です。

さらなる注目が予想される特異な才能を持つ児童・生徒の指導・支援

 多様な特徴を持つ児童・生徒が一定の割合存在する学校では、特定分野に特異な才能を持つ児童・生徒への指導・支援に関する議論が欠かせません。

 学校での特異な才能を持つ児童・生徒の有効な指導・支援としてはICTの活用やSTEAM教育、大学・民間団体との連携などを行うことが挙げられます。

 児童・生徒のニーズに合わせた学びのあり方や特異な才能の識別基準の明確化、リソースの検討など、今後さらなる議論を重ねていくことが重要です。

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