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思考、計画、実行し、成果物を創る~リアルな社会体験を修学旅行で~

11面記事

企画特集

生徒の探究活動の様子

 市からのミッションをテーマに、体験・取材で地元を探究する修学旅行を実施した米子市立東山中学校の廣岩研究主任に「探究学習」を軸とした活動についてお話を聞いた。(以下敬称略)

 ―「探究学習」を軸とした修学旅行の実施に向けてこれまでどのような活動をされてきましたか。

 廣岩 昨年度から探究学習で「地域参画」に取り組んできました。2年生の後期から地元の6企業と連携。各企業から課題をもらって企業を探究しました。
 3年生になった本年度はより地域に密着し、米子市環境政策課、経済戦略課、健康対策課からあげられたCO2排出量削減(年間カット)、新規雇用の創出、健康寿命アップなど6つのミッションを解決すべく探究学習を進めてきました。
 本年はコロナ禍のため修学旅行の行き先を鳥取県内に変更し、市役所からのミッションと関連づけて行うことにしました。まず問題を解決するための計画を班ごとに練り、調べ学習やフィールドワークで情報を収集。それに伴って知識を深めるためには取材が必要だと気づき、生徒自ら誰にインタビューするかを決めアポイントを取りました。そして、7月に市役所の方に中間発表をしてフィードバックをもらい、9月28日、出発の日を迎えました。

 ―探究学習が軸としてあり、そのフィールドとして修学旅行を位置づけたということですね。先生方はどのように生徒の支援をされましたか。

 廣岩 全てお膳立てするのではなく、やりたいと思ったことをやっていいんだよ、できるんだよというメッセージを与えながら、なるべく手や口は出さずに見守りました。何かあったら教員が責任をとるというスタンスを貫いたのは、実社会でのリアルな体験を追究してもらいたかったからです。
 本校の教育目標は、「自ら学び心豊かでたくましい生徒を育成する」です。自主性、探究性を持って課題を解決するたくましい力を育むために必要なのは、「人とつながっていく力」だと思っています。自分の内面、相手の内面を知って互いに受け止め、つながり合うことで、学びや生活の環境がよくなる。それを本校では全学年で共有し、さまざまな場面でソーシャルスキルトレーニングを行ってきました。その成果が今回の地元探究の修学旅行でも発揮されました。

 ―生徒の修学旅行への取り組みの様子はいかがでしたか。

 廣岩 CO2の削減に取り組んだある班は、温暖化防止活動推進センターで自分たちのプレゼンテーションを見てもらってから専門家にインタビューをしてフィードバックをもらうなどとても積極的でした。
 着地点は文化祭での発表です。10月に市役所の方に最終報告をし、市部門ごとに優秀賞を選出しました。代表3グループが市の公会堂で全校生徒や地域の方に成果を披露しました。探究学習では、どんなことに取り組む際も、思考し、計画し、実行するだけでなく、その結果どうなったか、成果物を創り出すまでやりきらせることを大事にしています。

 ―実社会で役立つリアルな経験ですね。

 廣岩 変化し続ける今の社会に対応する力をつけるには、机上の学びだけでなく、行動し実践していかなければなりません。また、自分たちが大人とつながっていて自分も社会に貢献できるという実感を持つことも重要です。学校という小さなコミュニティーだけでなく社会の中に自分を置くことで、他でもない自分の存在に気づき、自己価値を実感してもらいたい。
 今回、生徒から「視野が広がって自分を客観視できた」「できると思っていなかったことにチャレンジできて自信がついた」といった感想が多く、とてもうれしかったです。

 ―コロナ禍前は関西へ2泊3日の修学旅行、それに対して今回の市内を探究する修学旅行と大きな変化があったかと思いますが、保護者の反応はいかがでしたか。

 廣岩 最初の説明会では、思い出作りや楽しみの要素がないという意見がありましたが、教育としての修学旅行の意義、ねらいを明確にしました。実際、全日程に探究学習が組み込まれていて、遊びの要素はありません。
 1日目は学校に集合後、訪問先へのポイントとなる場所へ行く4台のバスに分乗。各班の探究エキスカーションスタート地点で降りた後は、4台のバスや公共交通機関などを使って体験・取材。16時に皆生温泉の宿に戻ります。夜も19~21時までその日の取材内容のまとめ、翌日の準備時間としました。
 2日目はクラスごとに中間報告を行ってから出発し、取材を終えたら学校に集合。終わってみればいい経験をさせてもらったという保護者の声が多かったです。

 ―生徒の変化はありましたか。

 廣岩 普段の教科学習ではアウトプットの部分が不十分になりがちです。今回はそこを大事にし、大人相手のプレゼンテーションもたくさん経験したことで、自分の願いや思いを相手に届けるためのアプローチに手応えを感じたようです。何より、地域の真の魅力や問題点がわかり、ふるさとをもっとよくしたいと思えるようになった。これは心のレベルアップです。リアルな体験・取材で、正当に自分を評価してもらったからこそだと思っています。

 ―来年度以降の修学旅行についてお聞かせください。

 廣岩 SDGsなど世界的な問題を考える際にも、自分の暮らしを見つめ、自分たちにできることを考えることが原点です。今年度は全学年で取り組んだ地元探究を今後も積み重ね、地域の課題解決に向けたフィールドワークを続けていきたいと思います。
 来年度は9月に関西方面への修学旅行を予定していますが、米子の魅力を発信する視点で臨み、京都でのエキスカーションで発表することも計画中です。将来地元で生活する生徒もいれば、進学や就職で県外に行く生徒もいると思います。いずれにしても、地元を知って愛着を持った上で、新たなフィールドで輝いてもらいたい。それは「ふるさと教育」に力を入れている鳥取県の願いでもあります。


修学旅行2日目の中間発表の様子

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