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町を活性化するための実践的な活動に

12面記事

企画特集

好評を博したパンフレットを渡す生徒

宮城県石巻市立桃生中学校

 修学旅行での体験を事前・事後学習と組み合わせて、一人一人の深い学びにつなげる「探究学習」へと発展させる取り組みが注目されている。石巻市立桃生中学校の志賀優香教諭は、総合的な学習の時間のテーマ「桃生町を活性化するための実践的な活動」に生かすため、現地での生徒のリアルな体験や取材活動などで得た知識を活用した。
 というのも、従来取り組んでいた活動では、学校行事や体験学習そのものに向けての準備・振り返りが主であり、実社会や実生活の中から自分たちで課題を見つけ、解決する機会が少なかったと感じていたからだ。だからこそ、「誰かのために役立つことができたと感じる達成感や有用性を味わわせたかった」と振り返る。

実社会とのつながりを生かし、生徒の学びを深める

町の良さを伝えるパンフレットを作成
 そんな3学年・総合的な学習の時間「桃生に発信しよう」では、まず一人一人が桃生町を活性化するためのアイデアを提出。そこから「中学生にもできることは何か」という視点で話し合わせた結果、町の良さを詰め込んだパンフレットを学年全員で制作し、修学旅行先などで配布することを決めた。
 記事の内容決定・情報取集のための取材先は、キャリア教育の視点から、各自の将来の希望職種と修学旅行で実施する企業訪問の職種と関連させるように工夫。たとえば医療関係に進みたい生徒は地域の病院、食品関係なら特産品を扱う企業といった具合だ。
 さらに、インターネットでの検索等で必要な情報を集めたあと、一人一記事になるように役割分担を行い、より具体性のある記事を書き上げるために担当記事と関連のある町の事業所への取材も行った。「こうして完成した冊子を手に取った生徒はすごいと声を上げ、達成感を味わうことができた」と話す。なお、パンフレットは印刷所できちんと製本されたもので、そこにも学習におけるモチベーションをアップさせる工夫が見られる。

活性化に向けた具体的な提案を企画する
 2020年秋の修学旅行先は、コロナ禍のため東京から函館へと変更になった。「当初は東京への憧れもあって残念がっていたが、特に函館山の夜景が印象的だったようで、帰ってからは北海道でよかったと満足していた。また、タイミングにも恵まれちょうど感染が落ち着いた時期だったので、現地での交流にも支障がなかった」と志賀教諭。パンフレットは市内の体験学習先や自主研修で生徒が訪れた飲食店で、これまでの活動の経緯を伝えながら配布した。「いつか桃生町に行ってみたい」「とてもすてきなところだね」と感想をもらったと生徒から喜びの声を聞くことができたという。
 学校に戻ると、次のステップとして作成を進めていた「町を盛り上げるための企画書」の再検討に取りかかった。これは「中学生が考えたアイデアを大人に伝えることで、町の発展につながるかもしれない。誰かのアイデアが大人の手で実現するかもしれない」と伝え、石巻市の地域振興課へ提出することを学習目標にした活動である。
 テーマを「食」「ものづくり」「観光スポット・イベント」「農業・自然・動物」と分け、そこから生徒はどのような企画書を書きたいかを選び、

 (1) 桃生町の現状分析(良さ・課題)
 (2) 企画案のテーマ
 (3) ターゲット層
 (4) 具体的な企画内容
 (5) 期待される効果

 ―についてまとめた。特に今回の作成にあたっては「読み手に興味を持たせる内容や、納得させること」に重きを置くことをポイントにした。
 同時に、ここでも修学旅行が「桃生町を活性化するためのヒント」として大いに役立った。なぜなら、函館では体験だけで終わるのではなく、現地の良さを生かしたサービスを提供する人々が活性化のために大切にしていることは何か、どのような魅力・工夫があるのかという視点を持って体験活動やインタビューを行っていたからだ。また、観光名所等の外観、内装、POP、サービスからもヒントを得るように仕向けた。
 たとえば「自然の中で寝られる旅館」を企画した生徒は、函館市から得た「昔の建物を大切にする」という活性化のヒントを生かし、「昔ながらの空き家を旅館にリノベーションする」につなげた。このように企画内容がさらに深まったり、新しいアイデアが生まれたり、修学旅行での学びを生かす活動へ発展していった。

生徒の意欲をかき立て、成長につながった
 活動のまとめでは、完成した企画書の発表も含め「将来、桃生町がどのようになってほしいか」「将来の自分はどうなっていたいか」についてプレゼンテーションおよび発表会を行った。1年を振り返った成果について志賀教諭は「地域で起きている問題に対し、自分で何ができるかを考え、実践するといった実社会とつながりの強い学習は、生徒の意欲を大きくかき立てた」と語る。
 また、社会の一員として地域に貢献する有用性のあるテーマによって、生徒は自身の役割を果たす必要性と重要性を理解するとともに、自分たちの住む地域に誇りと愛着を持つ機会となったことも強調した。それを裏づけるように生徒の振り返りシートからは、「桃生で働く人の思いを改めて知ることが多くあり、本当に良い経験だった」「大人と上手く話すスキルが上達した」「話す力やまとめる力を得ることができた」といった成長を見通すことができる。
 一方で、こうした学びを1年のときから系統的に取り組んでいれば、もっと良いものができたという思いもある。「たとえば1年時は合宿などで他人と関わり自分の良さを知るという活動、2年はそこから自分に合った職業は何かにつなげて、3年はその職業に関する情報を発信するなど、単発ではなく、中学3年間を見通した取り組みにしていきたい」と今後に向けて抱負を語った。


パンフレット表紙


修学旅行を経て「桃生町を活性化するために」をプレゼン

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