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実務経験を生かし、複数免許の取得を

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 社会構造の急速な変化に対応した教育改革が進む中で、教員にも豊かな知識や識見、幅広い視野を持つことが必要となっている。その中で、教員自身のスキルアップを図る場として重要性が高まっているのが「大学通信教育」だ。ここでは、インターネット等を活用した授業により、働きながら多様な教科・校種の免許を無理なく取得できる「大学通信教育」の魅力を取り上げる。

働きながら学べる「大学通信教育」で自律的に学び続ける教員を支援

 不確実で変化のスピードが速い社会を生き抜く力を育成するため、文科省ではティーチングをコーチングへと変える「令和の日本型学校教育」の実現に向けて、教員養成・採用・研修等のあり方や教育課程の見直しを行っている。また、その成果をあげるには教員自身が、全教員に共通に求められる基本的な知識技能というレベルを超えて、新たな領域の専門性を身に付けるなど強みを伸ばすことが必要であることから、採用時における小中両免許保有者や複数免許状所持者の優遇が起きているなど、自身のキャリア形成にも直結するようになっている。
 その中で、「大学通信教育」は独自のガイドラインを設けてメディア授業による質保証を担保し、現職教員が働きながら多様な教科・校種の免許を取得する機会を提供。小学校高学年の教科担任制など特定分野に強みのある教員の養成や、不足する高校の情報や地理・歴史・公民、英語など専門性を持った教員を養成する手段として、より一層重要な役割を担うようになっている。
 また、現職教員側から見ても、GIGAスクール&コロナ禍によってオンライン学習・研修スキルが大きく前進したことで、インターネットを使った授業を中心とした大学通信教育への敷居も低くなっている。これは、スキルアップを図ろうとする教員の自律的な学びの駆動力にもつながるものとして期待されている。
 通信教育課程で取得できる教員免許は普通免許状で、小、中、高、特別支援学校、幼稚園教諭、養護教諭、栄養教諭の免許状があり、それぞれ専修、1種、2種に分かれている。免許状取得の代表的なものとしては、

 (1) 新たに教員免許状を取得する場合
 (2) 現在持っている免許状を上位の免許状に上進させる場合
 (3) 現在持っている免許状を基にして同校種の他の教科の免許状を取得する場合
 (4) 教職経験を有する者が隣接校種免許状を取得する場合

 ―の4つがある。
 学習方法は印刷教材による授業が中心で、大学から送付されたテキストなどを学習し、与えられた課題に沿って学習成果をリポートして添削指導と評価を受ける。また、足りない部分を面接授業(スクーリング)や放送授業(主に放送大学)、インターネットなどを活用したメディア授業で補うとともに、学習指導(教育・学習上の指導)が行われるのが特色で、これらの学びを通して科目ごとの試験に合格することで、単位を取得できる仕組みだ。

さらなる専門知識や資格を獲得する場に
 かつて「大学通信教育」は、大学に行かなかった社会人のための学びの場だったが、今や約7割が編入学者であり、大学などをすでに卒業した社会人が学び続けるための場に変容している。つまり、さらなる専門知識や資格を獲得する教育機関としての比重が高まっているのが近年の傾向だ。それは現職教員も同様で、現在では免許状の上進や異なる校種・教科の免許状を取得する場として活用するケースが目立っている。
 大学通信教育の魅力は、教員としての実務経験があれば、新しい単位を取得して教員免許を増やせることだ。例えば、中学校の普通免許状を持っている教員が小学校の2種免許状を取得する場合は、実務経験3年+新たな単位習得(12単位)によって取得できる。高等学校の普通免許状を持っている教員は、実務経験3年+新たな単位習得(9単位)で中学校の2種免許状が取得できる。
 また、中学校の教科の免許を取得している教員が他教科の免許を取得する場合は、実務経験がなくても大学で単位を取得すれば、他教科の教員免許が取得できる。すなわち、すでに教職に就いて働いているなら、新たに教育実習などに行くことなく、比較的簡単に新しい免許を取得することが可能になる。
 さらに、全国で6千を超えるなど開園ラッシュが続いている「幼保連携型認定こども園」では、「幼稚園教諭免許状」と「保育士資格」の両方の免許・資格を持つことが原則になっているが、現状では多くの職員が片方の免許・資格しか取得していないことが課題になっている。そのため、改正認定こども園法では24年度末までの猶予期間を設けて取得を促すとともに、3年かつ4320時間以上の勤務経験者には8単位を取得すれば、所持していない免許状が取れるように特例が設けられている。大学通信教育では、こうした単位取得についても受け入れており、免許取得を後押ししているところだ。

教員不足で需要が高まる複数免許取得
 文科省では現在、質の高い教員を確保するための養成・採用・研修等のあり方について検討を進めているが、現職教員による複数免許状取得の促進(専門性向上のための免許法認定講習の受講・活用)もその一つだ。そこには、年々深刻化する教員不足が背景にある。文科省の2021年5月時点の調査によれば、全国の公立学校において2056人の教員が不足していることが公表されている。だが、新しい年度になるとともに病気や退職、産休、育休などによって欠員が増していくため、その数は増加しているのが実態だ。
 多くの自治体ではその穴埋めとして非正規雇用教員を充てているが、報酬が低く、採用期間も限定的で安定性に乏しいことから登録者数が減少している。さらに、現在のように教員のなり手不足が進む中ではスムーズに採用が行われているわけではないため、教員に免許外の教科を担当させる弊害も生まれている。したがって、学校の中の限られた人数で授業を割り振るためには、複数教科の免許を所持している教員の需要が高まっているのだ。

専門教科を指導できる教員が足りない
 また、公立小学校の高学年では教員の専門性や指導力を高めるため教科担任制が導入されたが、中学校の免許状を持っていても、対象となる英語、理科、算数、体育の4教科を保有する小学校教員は少ないことから、加配の遅れや地域格差も生まれている。
 加えて、中学・高校の技術科や情報科の免許状を保有する教員も不足している。特に高校は今年度から始まった新学習指導要領で、新教科「情報Ⅰ」がスタート。そこではすべての新1年生がプログラミングを学ぶようになるほか、統計データの分析など情報技術を適切かつ効果的に活用する力を育むことが求められている。さらには25年の「大学入学共通テスト」から、教科「情報」が出題科目に加わることも決定している。しかし、実態は免許を持たずに「情報」を教えている教員は千人を超えており、これは「情報」教員全体の2割に及ぶ。なぜなら、財源に余裕のない自治体では「情報」の免許だけで教員として採用するケースが少ないからだ。
 つまり、教科としての内容や比重が高まっているのにもかかわらず、それを指導できる教員が供給できていないのである。このような実態は高校の地歴や公民などの教科にも当てはまるもので、免許外教科を担当している教員が多いことが課題になっている。これからの時代を生き抜く力を身に付ける専門的なカリキュラムの強化が進められる中で、肝心の指導者の存在が抜け落ちている印象は否定できない。

自身のキャリアステージにつながるチャレンジを
 こうした課題を抱える教育現場の状況からも、例えば高校の数学免許を所持している教員が、大学通信教育を利用して「情報」の免許を取得することは、自身の将来のキャリアアップにとって有益といえる。事実、情報の免許を持っているだけで、若くして教科主任になったケースもあるなど、教員がある程度裁量権をもって教科指導を進められることは自身のモチベーションアップになり、仕事の充実に直結する。
 あるいは、小中一貫校など義務教育9年間を見通した指導体制が重視される中で、小学校の専科担当として中学校教員を活用する動きも始まっている。その際、小学校の免許も所持していればスムーズな連携を図ることができ、自身の強みや存在価値を高めることになるに違いない。
 しかも、今後、情報技術を活用した個別最適化が進められる中では、個々の教員の指導力もあらわになることが予想できる。そのことを踏まえても、今から自身の資質能力を磨いていく必要があり、そのきっかけとして複数免許を取得する意義は大きいといえる。さらにいえば、私学への転職を考えている教員にとっては、採用時に有利に働く、好印象を与える条件にもなる。
 ただし、複数免許を取得することで、担当する授業数が増えてしまうなど大きな負担をかけることは、学校としては避けなくてはならない。
 したがって、教育委員会にはそうした結果を招くことのないよう、教員全体が協働しながら全体の指導力の向上を図られる環境づくりを目指し、今後の教員数の増加を見込んだ計画的な採用計画の実施に努めていくことを望みたい。

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