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自学自習で「考える楽しさ」身に付ける NPO開発の教材で算数・漢字学習

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企画特集

「わかる喜び」「考える楽しさ」を実感させる授業づくり 教材「アイテム算数」を活かす
習熟度合いに応じて多様に活用

 子どもたち一人一人の成長に寄与することを願い、NPO法人次世代教育推進機構と、筑波大学附属小学校・算数研究部が開発した「アイテム算数」。各単元を導入→習得→活用→探究の4つのステップで構成。児童は習熟度合いに応じて問題を選び、取り組むことで「わかる喜び」「考える楽しさ」を実感できるように工夫されている。実際にこの教材を導入して1年目と3年目の各校を訪ね、導入のきっかけや成果などを取材した。

「自ら考え、判断し、行動する」自律した児童を育てる
愛知県・名古屋市立瑞穂小学校

1年生から6年生まで同時採択
 名古屋市の中東部、瑞穂丘陵の文教地区に明治6年(1873)に創立された名古屋市立瑞穂小学校。今年度から「アイテム」を導入した背景には、授業改善を目指す「なかまなビジョン」の存在があった。「なかまなビジョン」は、「なかま」との対話を大切にし、主体的な学びを重視し、ビジョンをもった授業を通して深い学びを目指す、名古屋市独自の取り組みだ。その授業改善にアプローチするための補助教材として「アイテム」が採択された。
 「『なかまなビジョン』も6年目になります。旧態依然とした、黒板に向かって子どもたちに一方的に教える一斉授業では、身に付けてほしい力が付きづらいと思っています。全員が一つの正解を求めるのではなく、自ら考え、自ら判断し、自ら学習する態度を学んでほしい。そのための補助教材として『アイテム』が活用できるのではないかと考えました」と、胡桃真一校長。
 これまでは、全部の問題を終わらせることが目的で、問題数が限られたものや全員解くことができる教材を採択してきた。それでは「なかまなビジョン」をはじめ、授業改善の肝である「学習の個別最適化」の実現にはほど遠い。そこで、子どもの習熟度合いに応じて問題を選ぶことができる「アイテム」に着目し、1年生から6年生までの同時採択に踏み切った。

算数の楽しさに低学年から触れる
 1単元が4つのステップで構成された「アイテム」は、基礎解説・導入→習得→活用→探究と、ページが進むにつれ問題の難度もステップアップしていく。子どもたち自らが興味ある問題を選び、自分のペースで学習を進めるうちに、やがて「わかる喜び」「考える楽しさ」をもたらしてくれるというのだ。
 「『アイテム』を採択する際に、1、2年生には手ごわい問題が多いという意見もありました。しかし1、2年生だからこそ自ら学ぶ姿勢を身に付けてほしい。例えば九九ができる子が九九のプリントで100点を何枚もとる。その結果、子どもたちは与えられたものを全部間違えないことが勉強だと考えてしまう。そうではなく、ちょっと背伸びをすればできる問題に挑戦する。それが解けたときの嬉しさ、次々にクリアしていく喜びを感じる。勉強することでワクワクしたり、今まで見えなかった世界が見えてくる。そういった算数本来の楽しさに、低学年から触れてほしいと考えています」(胡桃真一校長)

「分からない」問題を「分かる」ようにするのが学習
 さらに教務主任の久野雅貴教諭はこう話す。
 「発展学習の『探究』の問題には、全部終わらせるのは無理だろう、という戸惑いの声も先生方から上がりました。今までは、終わらせること、児童にやらせることが目的になっていました。しかし、その考え方を変えました。
 全員が同じ問題をやらなくても、自分の力に応じて基礎・基本からじっくり取り組む子、活用・応用問題にどんどん挑戦していく子、それぞれの子どもが主体的に取り組める環境を作ってあげましょう、と。まだ導入1年目ですから、『アイテム』の活用方法はあえて決め込まず、先生方にお任せしています。先生がやりやすいように、子どもたちが取り組みやすいように進めてくださいと、お願いしています」
 保護者へ向けた『学校だより』では、「私たち大人の教育観は、自分が受けてきた教育や経験をものさしとして判断してしまいがちです。時代は進み、今求められていることにしっかり対応していけるよう、みんなで考え方をアップデートしていきたいと思っています」「分からない問題を分かるようにすることが学習ですので、どんどん挑戦していってほしい」と、算数の補助教材を一新したことへの理解を求めた。
 今回の取材で3年生の分数の授業と6年生の体積を求める授業を見学した。分数の授業では各自が自分のペースで問題に取り組み、6年生のクラスでは仲間同士で対話しながら問題を解決していた。全校的な授業改善はまだ道半ばというが、その授業風景からは、子どもたちがとても主体的に、楽しみながら学習に取り組んでいるという印象を受けた。


瑞穂小学校3年生分数の授業の様子


胡桃真一校長(左)と久野雅貴教務主任(右)

個別最適化の学びをすすめる教材として評価
福岡県・福岡市立草ヶ江小学校

 福岡市中央区の西端部、地下鉄六本松駅周辺を校区とする福岡市立草ヶ江小学校。「アイテム」(2~6年生)を取り入れて今年度で3年目になる。この3年間の成果と評価について、池田昌弘校長に話を聞いた。
 「個別最適化の学びという点では、『アイテム』の導入はとても意味があると考えています。本校は地域の特性もあって、比較的学力は高い地域ではありますが、基礎的な学力の育成が必要な児童もいないわけではありません。そのような状況では、従来の画一的な教材での対応はとても難しいものでした。基礎・基本の力を身に付けなければいけない子、活用・応用問題をやったほうがいい子、多様な子どもたちがそれぞれ自律的に興味を持って取り組める『アイテム』は非常に評価できる教材です」

宿題を止め、自主学習に転換
 導入のきっかけは、与えられ、やらされている感の強い宿題に替わり、主体的に学べる新しい家庭学習のあり方を模索していたときのこと。
 「まず私たち教職員の意識を変える上で、教材を変えてみようというところから始まりました。計算ドリルのような画一的な宿題からの脱却です。ドリルのような問題では物足りない子もいる。
 一方で、分からない子はやってこない。やってこないと叱られる。するとますます勉強が嫌いになっていく。そこに疑問を感じていました。個々の能力に応じて学力を伸ばしていけるような教材をずっと探していました」と、学力向上推進委員会主任で学年主任の宮崎麻世教諭。
 自主学習は、自分のために学ぶ時間という位置づけで、自分のやりたいこと、興味を持ったことに取り組んでいく。教科は何をやってもよく、図工や英語を選ぶ子どももいる。
 「子どもたちに、自主学習は好きにやっていいよ、というとすごく喜ぶんです。自分で決めて自ら取り組む。例えば『アイテム』には面白い問題があふれているので、好きな子は夢中で解いています。それがまた子ども同士に広がっていって、解けた!とか、算数って楽しいね、と話す子も結構います」(宮崎麻世教諭)
 「アイテム」の導入部分では、単元で学習することが「テーマ」として分かりやすく解説されている。問題を解いていてわからなくなったら、この「テーマ」に戻っておさらいすればいい。自分で学習を進めるように工夫されているので、子どもたちも安心して取り組める教材だという。

認知能力と非認知能力をともに育てる
 授業では、「アイテム」のまとめのページを利用し、学期末や学年末の復習に役立てている。4月の時点では解けなかった問題が、 3月には解けるようになったと、子どもが自らの成長を実感できる。そうやって学期末や学年末に合わせて活用できるのも、この教材の良さだ。
 学力向上の成果は一概には言えないが、「アイテム」導入後、(6年生は4~6年、5年生は3~5年の3年間取り組んで)やはり算数の学力は高くなったという感触は得ている。それはまとめのテストで、90点以上を獲得する子どもが90%を超えるという結果を見てもわかる。
 「教師が言うから、親が言うから勉強するのではなく、これからは自分が楽しいから勉強するという子どもを育てることが大切。と同時に、認知能力と非認知能力をバランスよく育成していくことが小学校の大きな役割だと思っています」(池田昌弘校長)。まずはコミュニケーションの第一歩である挨拶に力を入れ「草ヶ江あいさつ日本一」というキャッチフレーズで、きちんと相手を思いやる挨拶に取り組んでいる。
 「アイテム」が培ってきた主体的な学びの姿勢、問題が解けたときの自己肯定感が、「心の土台」ともいわれる非認知能力の育成につながる可能性もあるかもしれない。


「アイテム」とPC端末を活用した授業の様子


池田昌弘校長(左)と宮崎麻世学年主任(右)

自ら考え、自ら学ぶ漢字学習のあり方とは 漢字学習は受け身から自学自習へ

 個別最適な学びと、協働的な学びを一体的に充実させ、主体的・対話的で深い学びを実現することが求められている現在、言語能力の土台となる「漢字学習」も変革の時を迎えている。明星大学教授(元筑波大学附属小学校教諭)の白石範孝氏らが企画・監修した漢字学習帳「漢字のとびら」は思考力や課題解決力を伸ばす教材として注目を集める。繰り返し書いて覚える方法を脱し、子ども自身が考え、伝え合いながら身に付ける漢字学習に挑む2校を紹介する。

漢字学習をとおして「自学力」を高める
群馬県・安中市立秋間小学校

主体的な学習態度を育てたい
 安中市立秋間小学校(木口敦子校長、児童数101)は2021年度より「西部教育事務所学力向上実践事業」の指定を受け、主体的・対話的で深い学びの実現に向け「自ら学び、考え、表現できる児童の育成」を目指す。国語科での言語能力の育成と他教科における活用を研究中だ。
 今年度、力点を置くのは児童の「自学力」を伸ばすこと。小規模校である同校は教職員や保護者、行政や地域の人たちと、児童への対応は手厚いものがある。その反面「一人一人が自分の学びを評価して改善していく力に課題がある」と、木口校長は指摘する。授業と家庭学習の両面で受け身ではない、主体的な学習態度を育てるための、さまざまな努力が重ねられている。
 その一つが「漢字のとびら」の活用だ。最初、手に取った6年担任の岩崎杉子教諭は、自学力を高める予習型の学習に有効ではないかと感じたという。「その漢字の間違えやすいところを意識させる問題がある。これまでの漢字学習は教師主体で進めることが多かったが、自分で自分の力を把握しながら学べるのではと思った」と採用の理由を語る。

PDCAサイクルに漢字学習は最適
 自学力を高める方策として、同校は児童が自分で学習のPDCAサイクルを回せるようにサポートをしている。

 (1) 学習のめあてを立てる
 (2) テストで問題を解き
 (3) 自分で結果を分析する
 (4) 改善・定着に向けて練習する

 ―という流れを「漢字のとびら」を用いて児童に定着させることを目指した。
 「定着確認テスト」は(2)のテストで問題を解くときに用いる。個人の進度に合わせてチャレンジできるよう先にすべて印刷して児童に配付する。児童はテスト問題を解き、その後「漢字のとびら」で答え合わせをする。間違ったところや気を付けたいところをノートに分析し、練習する。こうすれば教師が指示をしなくても自分で漢字学習が進められる。
 このやり方を始めてから、児童の漢字練習のノートは大きく変化した。お手本を見て繰り返し書く方法から、「とめ」や「はね」「はらい」で気を付けたいところや、間違えやすい筆順、読み方や意味などを書き込みながらまとめるようになったのだ。「考えながら」学ぶ「漢字のとびら」のコンセプトにぴったりの学習法だ。
 学習方法や成果を異学年で紹介し合う「学習交流会」では、6年生が漢字ノートを4年生に見せた。「6年生のノートを見て“こんな風になりたい”という憧れの気持ちが高まった。いい影響を受けて4年生も変わった」と、担任の田島大地教諭は子どもたち同士の教え合いや学び合いが、自学力向上に役立つと実感している。

ICT活用で児童が漢字テストを考案
 6年生に刺激を受けた4年生は、漢字学習をより楽しいものにするユニークな方法をタブレットで編み出した。「漢字のとびら」の「力だめし」のページは、読みを問う問題と、書き方を問う問題がある。それを反転した問題をGoogleフォームのテスト作成機能を使ってアップロード。家庭に持ち帰ったタブレットで問題を見ながら力だめしをする。「漢字のとびら」を見て自己採点し、練習に役立てるというものだ。
 田島大地教諭は、「子どもたちが自ら考えた方法。自分で学ぶ学習の一つにつながり、これからが楽しみ」と顔をほころばせる。今後は「漢字のとびら」を入口に、他の教科でもPDCAサイクルを回せる児童を育てていきたい考えだ。
 木口校長は「漢字は子どもたちに最も身近な自主学習の一つ。『漢字のとびら』を用いて、自分の課題を見つける目や、自分で工夫して学ぶ力が育っている。課題を乗り越えるため自己評価をして試行錯誤する力は、社会課題に向き合う意欲につながるはず」と語る。


異学年の「学習交流会」で漢字ノートの勉強法を紹介


(右から)木口敦子校長、田島大地教諭、岩崎杉子教諭

新たな言葉と出会い学び合える漢字学習へ
山梨県・大月市立猿橋小学校

語彙力向上に期待
 「思いゆたかに学びを拓く」を学校教育目標に、どの子も自己肯定感を持ち、安心して学べる学校づくりを推進する大月市立猿橋小学校(小林正樹校長、児童数298)。今年度、3・4・5年生で「漢字のとびら」を導入している。
 採択2年目の笹本恭平教諭は昨年度、校内で3年生用の漢字教材選定の機会に立ち会い、初めて「漢字のとびら」を手にしたという。「新出漢字の下にある“使い方”に、子どもたちが普段使わないような言葉が紹介されていて、語彙を養うのに適していると感じた」と第一印象を語る。
 間違っているのか、正しいのかをじっくりよく見て考える「送りがな名人」「書き名人」は、何となく覚えている書き方を子どもたちが認識し直すことができる。「間違えやすい漢字を示したワンポイントチェックは授業で指導する際の参考になる」と、決め手がいくつもあったと振り返る。
 今年度、担任する5年生でも「漢字のとびら」を継続して使っている。新出漢字は授業の中で10分ほどかけて指導する。読み、間違いやすいところを確認した後、書き順の確認、各自で書く、といった順番だ。
 早く書き終えた児童は辞書で調べて、その漢字を使った言葉を書き込む。発表すると「救」なら「救援」「救出」「救世主」など聞きなれない言葉も。そんなときは全員で意味を調べ、例文も紹介する。「どれも助ける、という意味合いがあるね」などと意味を確認していく。「漢字はいろいろな使い方ができると、活用の意識を持たせたい」と笹本教諭は語る。
 定着度を測る小テストは、「漢字のとびら」を採択した学校にサポートツールとして提供される「定着確認テスト」で、授業のはじめに5分で実施する。
 多くの児童が満点を取れるようにと、同じテストを2日連続、出来によっては3日連続して出すこともある。答え合わせは正解を黒板の右側に書き、丸つけ後も消さずに残しておく。こうすることで、いつでも児童が漢字の形や読み方を確認することができ、家庭学習の意識が高まるという。子どもの気持ちや認知傾向を把握しつつ、確実に定着へと導く工夫がされている。

「調べればわかる」辞書活用で自信
 笹本教諭の「漢字のとびら」の活用で重要な役割を果たすのが国語辞典だ。セットで使うことで語彙が広がる。
 1学期は自分で調べた新出漢字のページにふせんを付けさせ、調べたことを「見える化」するようにした。これを続けることで辞書引きが習慣づき「漢字のとびら」を使うときは、辞典を横に置くのが定着したという。
 国語辞典は小学校高学年用であれば自由に選べるのもポイントだ。互いの辞書にない熟語や例文を出し合うことで児童の語彙は広がる。わからない漢字は「調べればわかる」という自信もついた。

手で書く力もしっかり支える
 笹本教諭は「文章を見ても、漢字を正しく使えるようになってきた」と、児童の変化を感じている。1学期には出題する漢字をすべて指定して書き取りテストを行っていたが、2学期は教科書の範囲だけを示すことにした。それでも8割以上の出来だったことから、児童が自分で考え、調べて練習するという、進んでやる学び方が定着しつつあるとみている。
 「本校の目指す子ども像の一つに、学習の主体者として自主性と主体性を発揮できる子どもを掲げている。5年生も本校の目指す方向に進んできているのを感じる」と小林正樹校長も児童の変化を語る。
 1人1台コンピューター端末の活用も進むが、同校は紙に書く指導とのバランスも重視する。そんな中で「漢字のとびら」は児童の「書く」を支える有効な教材となっている。


辞書と併用し語彙力を高める


(左から)小林正樹校長、笹本恭平教諭

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