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国際的な「見方・考え方」を養うエネルギー学習

8面記事

企画特集

東京ガスネットワークが授業づくりをサポート

 2022年に起こった紛争によって、世界規模でエネルギーの需給にひずみが生まれ、私たちの身近な生活にまで影響を及ぼしている。そういった世相を受け、児童たちがエネルギーを通して、グローバルな視点を持つことの重要性は増してきている。授業支援パッケージは、電気やガスなど身近なエネルギーを通して、社会に目を向けた「見方・考え方」「生きる力」を育むことを目指したもので、学習指導案、映像資料、ワークシートの活用により、深い学びの授業を可能とする。本記事では各校での実践内容と成果を紹介する。

世界情勢踏まえエネルギー教育を
北 俊夫 一般財団法人総合初等教育研究所参与

 私たちの毎日の暮らしや社会経済活動は、光や熱、動力などのエネルギーによって支えられている。これらを生み出すエネルギー源は石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料。わが国はこれらの多くを外国に依存している。
 昨年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻によって、エネルギーの安定供給が世界規模で問題になっており、わが国もさまざまな影響を受けている。
 2050年の「脱炭素社会」の実現に向けて、温室効果ガスの排出ゼロを目指すとの政府の方針が示された。今後のエネルギーのあり方が国民的課題になっている。
 こうした情勢を踏まえると、子どもたちが小学校の早い時期からエネルギーの役割や世界のエネルギー事情を学ぶことは、社会生活を営むうえで極めて重要である。
 小学校社会科の学習指導要領には、4年に「飲料水、電気、ガスを供給する事業」について示されている。ここでは、これらが安全で安定的に供給されていることを学ぶようになっている。5年では「貿易や運輸」に関連して、エネルギー資源が安定的、計画的に輸入されていることを学ぶことができる。
 エネルギーやライフラインについての指導が誰でも実践できるように、「授業支援パッケージ」が提供されている。ここには、授業にあたって必要になる学習指導案や板書例、資料やワークシート、さらに実際の授業映像などが単元ごとにまとまめられている。
 「授業支援パッケージ」を有効に活用することにより、誰でも無理なく指導し、子どもたちがエネルギー事情に対して世界的視野から理解と関心を深めることを願っている。

実践事例レポート

事例1
水とガスからライフラインの共通性を学ぶ
台東区立忍岡小学校

 台東区立忍岡小学校では、単元「住みよいくらし」で飲料水の授業(8時間)を行った後、発展的な学習としてガスの授業(1時間)に取り組んだ。児童はこれまでの学習を通して、快適な生活を送るために、安全で安定的に飲料水が供給されていること、そして水と同様にライフラインとしてガスや電気があることを学んでいる。それを踏まえて、草野明子主任教諭は学習問題として「ガスも飲み水と同じように安全で安定的に届けられているといえるのだろうか」と問いかけ、「いえる」「いえない」「どちらでもない」の3択で予想させた。
 予想は29人中24人が「いえる」と答え、「いえない」が2人、「どちらでもない」が3人。その理由を問われ、いえると予想した児童は「いままでガスは止まったことがないから」「ガス会社を信じているから」などと答え、いえないと予想した児童は「ガスは火災があったり、ガス漏れがあると安全でないと思う」と、災害時の危険性を指摘。どちらでもないと予想した児童は「日本は資源が少ないので、戦争などで輸入できなくなったときは、安定的に届けられなくなるから、どちらでもないと思う」と、答えた。
 その予想を全員で確かめるために、飲料水とガスが山や海外から家庭に届くまでを俯瞰するイラスト資料を配布。教諭は黒板に貼った同じイラスト上でガスの供給経路をたどりながら、児童が重要だと思う場所で「ストップ」と声をかけさせ、印をつけていく。あらかたのポイントに印をつけたところで、学習問題の答えを導く資料「ガスを届ける工夫」を配り、順番に児童に読み上げさせた。
 「ガスを届ける工夫」は8項目からなり、

 (1) 外国から運ばれてきた原料(天然ガス)をタンクに貯めている
 (2) ガス漏れに気づくように、においを付けている
 (3) 正常に届けられているか、24時間体制で見守っている
 (4) ガスの使用量が多くなる時間帯でも不足しないように、一時的に貯めておく施設(ガスホルダー)がある
 (5) 地震の揺れに強いガス管(ポリエチレン管)に取りかえている
 (6) もしもガス漏れが起きたときは24時間体制でかけつけ、ガス管の修理などを行う
 (7) 家庭などに取り付けてあるガスメーターは大きな地震が起きたときガスを自動的に止める
 (8) 定期的な点検を4年に1回以上行っている

 ―と写真やイラストで示されている。
 児童たちは、配布された2つの資料を見比べながら、ガスが届けられる経路で、どのような工夫がなされ、安全で安定的にガスが供給されているかを学んだ。
 ここで東京ガスネットワークの提供する「においシート」が配られた。もともと無臭であるガスを送り出すとき、付臭装置でガスににおいを付けている。その強烈なにおいを「においシート」で体験。さらにガス管の動画を見せ、鉄のように硬いものではなく、柔らかくてさびないポリエチレン管が使われていることを学んだ後に、本物のガス管を提示。動画で曲がるガス管を見て興味津々だった児童は、実際にポリエチレン管を手にとって驚きの声を上げた。
 最後のまとめでは、学習問題の「ガスも飲み水と同じように安全で安定的に届けられているといえるのだろうか」を確認し、「ガスを届ける工夫」の8項目を安全に届ける工夫、安定的に届ける工夫の2つに分けて整理した。「輸入した天然ガスをタンクに貯める工夫は、水を貯めるダムと一緒だから、安定」など、これまでの飲料水の学習が生かされた回答も見られ、児童たちは、このガスの授業を通して、暮らしに必要なライフラインの全体像を概観することができた。


イラストを用いてガスの供給経路を確認

事例2
ガスが安全・安定的に届くまでの工夫に着目
埼玉大学教育学部附属小学校

 埼玉大学教育学部附属小学校の村知直人教諭は、小単元「くらしとガス~私たちの快適なくらしを支えるガス~」(10時間扱い)を計画。7時間目にあたる本時では、これまで学習してきたこと、調べてきたことを分類・整理して、「私達の生活に欠かせないガスは、どのように送られてくるのだろうか」という学習問題に対する結論を導き出すことを目指した。
 教諭は最初に前時の復習を兼ね、「ガスはどのように運ばれてきたのか」と問うと、児童から「海外から」「タンカーで」と答えが即座に返ってくる。次に、タンカーと給食風景を結ぶ大きな矢印が描かれた用紙と8枚のカードを配り、「この8枚のカードを並べて海外から長い旅をしてきたガスが、みんなの家や給食までどのようにして届けられているのか考えましょう」と課題を示した。カードはこれまでの授業で使用したもので、基地(工場)、付臭装置、ガスホルダー、マイコンメーター、供給指令センターが描かれたものが5枚、ガス管のカードが3枚。
 「ガス管のカードが3枚ある。なんでだろう」「とりあえずガス管をつなげてみよう」と近くの児童同士で話し合いながら、作業するもなかなか進まない。そこで教諭は「供給指令センターはどういう役割だったかな?」と助け舟を出す。「ガスを使う量を考えている。考えないと、ちょうどよい量を送り出せないから」と児童が回答すると、この問いかけと回答がヒントになり、児童たちのワークシート上に8枚のカードが次々と並べられていく。
 「最初に供給指令センターを真ん中に置いた。タンカーの次は港基地で次にガス管をつなげて付臭装置。その後はガス管でガスホルダー。そしてガス管がきてマイコンメーター」と児童が発表すると、これに同意見という声が多く上がった。
 供給指令センターを真ん中に置いた理由を問うと、「いろんなところに指令を出しているから」「何個か役目があって、それを表すために真ん中に置いた」などの答えが返ってきた。
 教諭は黒板の中央に供給指令センターの写真を貼り、残り7枚の写真を並べ、個々の施設や装置のつながりを問いかけながら、それぞれの役割を整理していった。付臭装置でガスににおいを付けていること。ガスホルダーはガスを貯めるだけでなく、供給指令センターからの指令によってガスを貯めたり、送り出したりを繰り返していること。さらにその指令は、季節や時間によってガスを送り出す量を変えていることを確認させた。
 各家庭にあるマイコンメーターの役割について問うと、「使う量を記録している」「ガスが漏れたときにガスを止めたり、ランプで知らせてくれる」「地震とかでガスが止まったときに、復帰ボタンを押せば、ガス会社の人を呼ばなくても復旧できる」と、身近な体験とこれまでの学習に基づく意見が示された。
 さらに以前の授業で本物のガス管を実際に見て触ったことを思い出させ、「曲げようとしたけど曲がらなかったよね。でもポリエチレン管は曲がるようになってたよね。それはなぜだろう?」と問いかけ、「曲がったほうが地震とかの揺れで壊れないから、ガス漏れしづらい」などの答えを導き、ガス管の特徴と役割を再認識させた。
 ここまでの学習を通して、ガスを届けるためにさまざまな工夫がなされていることを確認。一つは、付臭装置、マイコンメーター、ガス管などの取り組みが事故を防ぎ、みんなが安全に使えること。さらに、ガスホルダーや供給指令センターがあるおかげで、いつでも安定的にガスが使えることだ。最後に児童が発表したキーワードをつなげて、「ガスは事故を防ぐ安全にかかわるいろいろな取り組みがなされ、いつでも使えるように運ばれてきている」と、学習問題に対する結論を引き出した。


ガスを届けるための工夫を予想した

事例3
エネルギー教育を通してグローバルな視点を養う
杉並区立天沼小学校

 杉並区立天沼小学校の新宅直人指導教諭は、単元「住みよいくらし」の全10時間の内、飲料水を8時間、最後の2時間でガスの授業を取り上げた。前時である9時間目ではガスが外国から輸入されていること、ガスを液体で運んで日本で気体に戻すことなどを学んだ。
 教諭は冒頭でこれまでの授業で学習してきたことに触れ、「ガスはなぜ少しずついろんな国から輸入しているのか。日本で気体に戻すのになぜ液体で運ぶのか」と問うと、児童から「戦争みたいなピンチになっても大丈夫なように」「液体にしたほうがたくさん運べるから」などの答えが返ってきた。ここから本時の課題「日本に来たガスは、どのように家まで届けられるのだろう」へと入っていく。
 児童が予想した「ホースでガスを運ぶ」に対して、「なるほど。ホースは硬い? 柔らかい? 水道管はどうかな? 硬いよね。ガスを運ぶのに適しているのはどっちだろう」と興味をつなげていった。児童から「柔らかいほうが、硬いのより壊れやすい」「硬いほうが固定できていい」など意見が出た。
 ここで児童の端末へ飲料水とガスが山や海外から家庭に届くまでを俯瞰したイラスト資料を展開。各自でガスと関係がありそうな場所に印をつけさせると、教諭はそこから疑問を3つに絞り込んだ。
 「ホースに見えるものはポリエチレン管という名前が付いています。省略してPE管。ガス工事の現場では、地面に埋める前のPE管はぐるりと巻かれているね。なぜこんなに柔らかいのだろう。ガスを家まで送るのに、なぜ途中にガスホルダーが必要なんでしょう。あともう1個、ガスのにおい。これも不思議じゃない?なぜわざわざにおいを付けているのかな?この3つの疑問についてグループで予想を話し合ってもらいます」
 班分けが終わったところから「においシート」を嗅がせて体験的にガスへの付臭を学ばせたうえで、「1個1個疑問を考えていきましょう」と授業を再開。まず、においの謎については、「においを付けてガス漏れを知らせるようにしているから」と答えた。
 ガスホルダーについては、「ガスが漏れたりして、家に送られなくなった時に予備用として」「輸入できなかった時の予備」「輸入できなくなったら1年ももたないと思うから、時々不足したときの予備」と、さまざまな意見が出た。PE管は実際に本物を触らせた後に考えさせた。「鉄はさびるけど、PE管はさびないから」「鉄は硬いから地震が起こったときにすぐに割れてしまう。PE管はそんなに硬くないから、すぐに割れることはないと思う」「ガスが漏れたときに、PE管は軽いからすぐに取り換えられる」など。
 児童の予想が出そろったところで、ゲストティーチャーの東京ガスネットワークの社員が登場。この3つの疑問について解説を加えた。においとPE管に関しては、児童の予想はパーフェクトの回答。ガスホルダーについての予想は少し違っていた。住宅地などガスをたくさん使う場所では、朝晩の需要の変動にガスの送出が追い付かない可能性がある。そういうことがないよう、ガスをあまり使わない夜の間にガスホルダーに貯めておいて、ガスを多く使う夕方や朝に合わせ、ガスの量を調整していると補足した。
 以上の学習を通して、最後に「ガスは安全のためにおいをつけて、24時間どんな時も安定して送られている」という本時のまとめへと導いた。
 授業を終え、新宅直人指導教諭は「水の学習では見ることができない、外国とのつながり、世界の中にある日本というグローバルな視点を、ガスを通して学ぶことができる」と感想を述べた。


授業資料を黒板へ投影する新宅教諭

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