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学校づくりの概念・思想・戦略 教育における直接責任性原理の探究

12面記事

書評

石井 拓児 著
戦後の教育運動題材に教育の自由問う

 「学校づくり」という用語は、実践的かつ運動論的な言葉として認知されてきた。だが、最近は「○○な学校づくり」といった書籍が特段の深い意味を含まずに刊行されている。
 本書は、この「学校づくり」概念に改めて着目し、その復権に挑戦する。1950年代後半からの教育課程や教師に対する国家統制は、パラドキシカルに民間教育運動を活況化させた。著名な斎藤喜博「学校づくりの記」も校長としてのその時代の実践記録である。
 著者は「学校づくり」の嚆矢といえる当時の教育実践や民間教育運動の基礎や視座に生活綴方運動の影響を指摘する。そして「学校づくり」は旧・教基法10条のいう直接責任性原理の実践であり、その概念の中核にある教育課程の編成(教科づくり)は教師の独占的営為ではなく、保護者・地域住民を視野に入れるべきことを紹介する。この三者で進める学校づくりは画一的・統制的な教育政策に対峙する思想と戦略とを内包している。
 1990年代後半からの新自由主義的な教育改革が浸透した教育界で、この概念がどう受け止められるか。NPM型校長権限集中に伴う職員会議の補助機関化、教育内容・方法や資質・力量のスタンダード化の潮流の中で、教育の自由、教師の自主性の確立を柱とする「授業づくり」「職場づくり」そして「学校づくり」のありようが今まさに問われている。
(4400円 春風社)
(元兼 正浩・九州大学大学院教授)

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