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「公共」の消費者教育で培う18歳成人としての自覚

12面記事

企画特集

グループで意見を出し合い学びを深める

東京都立蒲田高等学校 公民科・淺川貴広主幹教諭に聞く

 2022年4月から成年年齢が20歳から18歳に引き下げられ、18歳、19歳の若者が社会活動へ積極的に参加することが期待されている。しかし、クレジットカードや携帯電話などが法律上「親の同意なし」で契約できるようになり、これまでよりも消費者トラブルに巻き込まれる割合が増加するなど課題も浮上している。そこで、18歳成人について扱う「公共」ではどんな点に注意して指導を行っているのか、都立蒲田高等学校で公民科を担当する淺川貴広主幹教諭に話を聞いた。


東京都立蒲田高等学校 公民科・淺川主幹教諭

自立した一人の大人になるために

教員間で差がある「18歳成人」への意識
 同校は、中学校までに本来の力を発揮できなかった生徒に対して学び直しの機会を図り、次の進路を切り拓いていく力を育成する、東京都教育委員会指定の「エンカレッジスクール」の一つ。生徒たちの横顔について淺川教諭は、真面目に頑張る子が多い反面、それぞれが抱える課題も多様になっているとしつつ、「いろんな背景を持った生徒がお互いを尊重しながら学校生活を謳歌している」と評価する。
 成年年齢が引き下げられたことは、ほとんどの生徒が授業で習う前から知っており、消費者トラブルなどの問題についても、むしろ生徒の方がよく理解している。一方で、公民科や家庭科など成年年齢の引き下げを扱う授業を持っていない教員は、そこまで関心が高くないのが実態だという。
 その上で、個人的には今の高校生を見ていると、いろんな情報がすぐに手に入る分だけ、常に情報に追われている気がすると指摘。「SNSでつながることで家に帰ってからも友人関係に気を遣う必要があり、一つの言葉の誤解がいじめなどに発展する可能性もある。そうした人間関係を築く難しさもあって、詐欺などの被害にも遭いやすい状況にあるのではないか」と問題点を挙げた。

疑似体験を通して契約する責任を自覚する
 公民科の新科目「公共」において成年年齢の引き下げを扱う部分は、消費者教育としての「多様な契約及び消費者の権利と責任」や「自立した消費者になるには」が中心になる。これらの基本的な知識や理解を深めていくことが前提となるが、淺川教諭の授業では、実際に「生徒同士が契約を結ぶ」疑似体験を取り入れている。「例えば、コンビニのオーナーと高校生がアルバイトの契約をする場面を設定し、オーナー役の生徒にはこちらに有利な条件で労働契約を作ることを指示する。契約を結ぶ上でお互いが気を付けることを、シミュレーションを通じて学ぶことでよりリアルに理解することができる」と語る。
 加えて、こうした日常的な場面以外にも、探検隊の隊長と隊員で契約を結ぶといった設定を用意。そこでは教諭自身が隊長役になって、巧妙に欺いた労働条件を提示。契約を結ぶ上で何が問題なのかを生徒に考えさせるといった工夫も取り入れている。
 ここでの学習目標としては、「損をしないこと」。「消費者として正しい選択・契約ができるようになること」だ。同時に、何かトラブルが起きたときには必ず誰かに相談することが大事であり、いろいろな人を騙す方法を共通理解することで、次の被害を防げることも学ぶ。「まずは自分の身を守り、それができたら周りの人のことも考えられる、自立した消費者を目指していくことが学習での目標になる」と説明した。

ネガティブになり過ぎず、正しい消費行動ができる大人に
 同校ではアルバイトは許可制だが、経験のある生徒に話を聞くと、労働条件が書かれた用紙をもらっていない生徒も少なくない。「そうした点でも、いかに自分が契約するときに何も考えていなかったか、たとえアルバイトであっても契約する際には確認することが重要であると痛感する」と淺川教諭は指摘した。
 こうしたシミュレーション授業で気を付けている点は、生徒に痛い目に合ってもらうことだという。現実のアルバイトで被害を受けたら、経済的な面や心身に影響を及ぼす場合もある。だからこそ、あえて失敗させてから学ばせる方法を心がけている。
 ただし、授業でネガティブなことばかりを強調してしまうと、契約することや購入することを控えてしまうことにつながりかねない。したがって、授業では「エシカル消費」について考えることにも取り組んでいる。「一人一人の消費行動によって世の中を良くしていく、それが本来の消費者教育の目的と考えている」と淺川教諭。

該当する教科以外のアプローチも視野に
 また、2年生「公共」の「政治とは何か」という授業では、「地球滅亡ゲーム」というシミュレーションを用意。隕石衝突により1人だけが生き残り、なぜかコンビニ1軒だけが無傷で残っている状況だ。そこで長く生き続けるためにはどんなルールを作って生活していけばいいかを考えさせる。しかし、その後、同じように生き残った人たちが現れ、みんなでルールを決める状況になる。「利害の対立が発生する中で、どうやったらお互いの意見を調整していくことができるのか、そのために必要な仕組みが政治であると、分かりやすい例えを用意して考えていくのが、私がずっと取り組んでいること」と語る。
 今後に向けては、該当する教科でしか18歳成人の問題に対する意識が高まっていないことを改めて課題として挙げ、「例えば国語なら実社会で必要な契約書を読む力、数学ならローンの計算に役立つ論理的思考力など、さまざまな教科からのアプローチを取り入れていくこと。さらには総合的な探究の時間などにも発展させていきたい」と抱負を語った。


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