日本最大の教育専門全国紙・日本教育新聞がお届けする教育ニュースサイトです。

GIGA端末で個別最適かつ協働的な学びを実現する授業づくりを考える

13面記事

ICT教育特集

情報収集のポイントを説明する中野副校長

ICTを活用した探究型の新しい授業に挑戦
板橋区立中台中学校

 これからの授業では、GIGA端末を活用して生徒のICT活用能力を伸ばすと同時に、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実を図ることが求められている。板橋区立中台中学校(宮澤一則校長・生徒数522名)の社会科では、デジタルを活用した新たな授業デザインを模索中だ。今回、同校副校長の中野英水氏が挑戦した新しいスタイルの授業の様子を取材。さらに授業の感想、これからの課題について、中野副校長、社会科の河野美樹子主幹教諭に話を聞いた。

今までの一斉授業から転換
 板橋区立中台中学校は、平成28年度から教科センター方式の学校として機能化を図り、電子黒板やタブレットPCなど、ICT機器を積極的に導入してきた。教科ごとの教室やメディアスペースの活用により生徒の主体的な学びの向上、教員の指導力向上に取り組んでいる。
 今回、中学2年生にあたる8年生の社会科では、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向け、新たな授業スタイルを試みた。単元は、地理的分野の「日本の様々な地域」から「日本の地域的特色と地域区分」で、日本の工業や農業の特色や機能を「一般的共通性」として概念的に理解するという内容で実施した。
 これまでは、教員が個別の知識や情報を一斉に示し、その後で生徒がグループ活動で整理し、分かったことを抽出して発表する、という進め方をしていた。それを情報収集の段階から生徒に任せ、整理・分析、まとめと発表(共有)するという探究型のプロセスを考えた。
 この日の学習課題は「自分なりの地理の公式を1つ以上作ろう」だ。「地理の公式」とは、一般的共通性を中学生にも分かりやすく表現したもの。「キノコは山の、特に湿度の高い森林に多く育つ」という例のように、工業や農業について共通にみられる性質を、生徒が任意のテーマで調べ、自分の言葉で表現する。生徒には30分間で、教科書や地図帳、資料集、ウェブサイトなどを活用しながら情報収集し、考えたことをデジタルツールで整理してまとめ、端末から提出させるといった流れで授業を行う。
 「一人で考えても、グループで考えてもいいし、教室内を移動してもいい。みなさんにお任せします」との中野副校長の呼びかけに、始めは意外な表情を見せていた生徒たちだが、すぐにグループに分かれ、それぞれの方法で調べ始めた。
 中野副校長は学び方のポイントとして、

 ・情報収集をして分かったことは、積極的にデジタルツールを使って整理・分析する
 ・漠然と調べるのではなく、何か具体的な生産品目などを決めるとやりやすい
 ・検索結果の引用に終わらせず、自分の言葉で考察して表現することが大切

 ―などを示した。

情報収集・整理にICTを活用
 生徒たちは早速「お米」「車」など、自分の関心のあるものをテーマに調べ始めた。「お米 育つ環境 条件」などと検索する生徒や、教科書や資料集をめくって確認する生徒など調べ方はそれぞれだ。
 自動車工場の立地を調べたグループは、以前、授業で活用した明治期以降の新旧の地形図を比較できるサイトを使い、現在の自動車工場の位置が昔から変わっていないのかを検証するなど、歴史的な視点を持ちながら情報収集・整理ができた。
 提出された「自分なりの地理の公式」は、デジタルツールを使って個々に共有するとともに、大型ディスプレイにも提示する。教室では、さまざまな公式が紹介され、自分とは異なる他者の発想に関心を持っている様子がうかがえた。
 今回の授業は、自ら学ぶ態度を育む入口の段階だ。生徒の作品を見ながら中野副校長は「みなさんが情報を集めて見いだした公式について、さらに“なぜ?”と疑問形で考えていくと、どんどん深まる。自分が見いだした公式が、なぜそうなのか、どうしてなのかをもう一度考えると、先が見えてくるのではないか」と励まし、授業を終えた。

授業を終えて~課題と展望~
学習の自由度が高まった一方、多様な生徒への配慮の仕方が課題に

 今回、社会科で研究授業が実現できた背景には、生徒や教員の間でICT活用が定着していたことが大きい。中台中学校では、令和3年度にGIGA端末としてChromebookが生徒1人1台整備されると、Google系のツールやクラウド型の授業支援サービスを用いての振り返りや課題提出などで、生徒のICT活用能力を高めてきた。
 個別最適な学びの先進事例を知り、いつかは自身で試してみたいと考えていた中野副校長は「こちらの指示を必要最小限にしても、生徒たちは自分たちで十分活動できるだろうと想定していた」と、これまでのICT活用経験が、個別最適な学びの実現に活かせると予想していた。
 その通りで、生徒たちは、1人1台端末を活用してウェブサイトを検索し、グループで話し合いながらデジタルホワイトボードにメモを書き込み、情報をリアルタイムで共有していた。文章をタイピングしながら推敲する姿もあった。授業後の生徒の振り返りでは「自分で決めたことを自分で勉強できるので楽しかった」という感想が多く見られた。
 一方で課題も見えてきた。生徒の様子を見ていると、自分の知りたいことを的確に見つけられる「検索力」が十分ではない生徒もいる。一斉授業とは違った、生徒一人一人の個を大事にする自由度が高い授業を実施する中で、多様な生徒への配慮や支援の仕方がこれからの課題であり、この部分でも1人1台端末活用の工夫が有効であると中野副校長は話した。
 また、このような自由度が高い授業は、実施するタイミングが非常に重要だと話す。中野副校長は、「学習内容を保障しつつ、自ら問いを立て、掘り下げていく力が育つような単元構成を検討しなければ」と襟を正す。中野副校長と共に授業をつくった社会科の河野主幹教諭も、知識がしっかりと獲得できたあとの地理的分野の最終単元である「地域の在り方」で、今回行った授業のような生徒自ら情報を整理し、自分の考えへと練り上げる活動を生かした授業をつくりたいと語った。
 個に応じた指導を進めていく際に、ICTをリアルタイムに活用した授業構想は、各教科が目指す資質・能力を育成するために欠かせないものだ。今後は社会科だけでなく、他の教科の教員も交えて個別最適な学びと協働的な学びを実現する授業を追究していきたい考えである。


河野 美樹子 主幹教諭(社会科)、中野 英水 副校長

ICT教育特集

連載