日本最大の教育専門全国紙・日本教育新聞がお届けする教育ニュースサイトです。

避難所のライフラインを維持するLPガスの活用

12面記事

企画特集

(左)LPガスを備蓄した災害対応型バルクシステム(石ヶ瀬小学校)と(右)停電対応型GHP(大府北中学校)

 災害発生時に避難所等のガスや電気がストップした場合に備え、劣化せず長期保管が可能なLPガスを備蓄してライフラインを維持する対策が注目されている。ここでは、I・T・O(株)が提案する「災害対応型バルクシステム」(LPガスエリア向け)」と防災減災対応システム「BOGETS」(都市ガスエリア向け)のそれぞれの強みを、自治体の導入事例と併せて紹介する。

停電時でも空調や電気が使える「災害対応型バルクシステム」&「BOGETS」

LPガスエリアには「災害対応型バルクシステム」を
 停電時でも空調稼働を維持することは、避難者の負担を減らす暑さ寒さ対策に不可欠だが、現在主流となっているディーゼル非常用発電機では3日間も持たない場合も考えられる。その点、自立型電源を備えた停電対応型GHP(ガス式ヒートポンプ)は、停電した場合も備蓄したLPガスを使ってエンジンを動かせるため、ガスの供給が続く限り空調運転や発電を維持できる長所を持つ。しかも、発電した電力を照明や通信機器などに供給することも可能だ。
 すなわち、LPガスエリアにおける避難所の停電対策としては、LPガス備蓄と停電対応型GHPをセットにした「災害対応型バルクシステム」を整備することが最適といえる。また、電気料金が高騰する中で、停電対応型GHPの電気代はEHP(電気式ヒートポンプ)の10分の1で済み、平時のランニングコストにおいても優位性が増している。

全小中学校の体育館・柔剣道場に導入
 こうした限りのある予算を効率的に使い、災害時や平時の学校活動にも活かせる仕組みとして、停電対応型GHPによる「災害対応型バルクシステム」を選択した自治体の1つが、愛知県大府市だ。導入においてはランニング費用だけでなく、整備費用の2分の1を賄える経済産業省の補助金を活用できたことも決め手になり、2020年度に中学校全4校の体育館と柔剣道場から整備を開始。残る小学校9校の体育館も、昨年中にはすべて設置が完了している。
 同市では、南海トラフ地震が想定される地域でもあることから、地域防災計画に基づき、避難所となる学校施設等の防災機能の強化に取り組んできた。その上で、「災害が起きた際の課題として感じていたのが、夏や冬の時期に不可欠な体育館における冷暖房空調の整備でした。また、近年では児童生徒の熱中症予防の観点からも空調整備は急務となっていたこともありました」と宮島教育長は経緯を語る。

LPガス備蓄半分で空調機を3日間稼働
 また、災害時には被災から72時間をいかに乗り切るかが重要になるが、同市が導入したLPガスを貯蔵している災害対応型バルクシステムは、半分の量で空調機を3日間稼働できる容量を備えている。加えて、停電時は照明や非常用コンセントとしても使用できるほか、被災時は愛知県のLPガス協会と優先的に追加供給を受ける防災協定も結んでいる。
 災害時のエネルギー供給には、このようにリスクを分散させることが大切になると宮島教育長は強調する。「学校の教室における空調も、地域によって都市ガスや電気、LPガスなど多様なエネルギー源を使い分けています。今回の事業は災害に強いLPガスを備蓄することで、いざというときにも避難所で空調を使用できるようにすることが前提になりますが、ふだんの学校活動にも役立てられる意義のある取り組みになったと考えています」と話した。 

都市ガスエリアには「BOGETS」を
 一方、都市ガスを利用している避難所では、災害によって供給が絶たれた場合に備蓄したLPガスを都市ガスに変換し、ガス空調の稼働を可能にする「BOGETS」が適している。以前にも同様の変換装置はあったが、専門業者でないと操作できないことが災害時における迅速な復旧のネックになっていた。本システムはタッチパネルの解説や音声ガイドにより、誰でも安全かつ簡単に操作ができる「New PA」を備え、ガス非常用発電機や停電対応型GHPと組み合わせて電気もバックアップできるのが特徴だ。
 この「BOGETS」を2020年末、市立中学校11校の体育館に停電対応型GHPと合わせて導入したのが大阪府寝屋川市になる。目的は、都市ガス供給が途絶した場合でも、体育館で72時間の空調機運転と電力をまかなうことだった。体育館への空調の導入を重視したのは、近年では地震や風水害といった直接的な要因ではなく、避難所生活での心身的負担が原因となる、いわゆる二次災害で亡くなる方が多くなっているからだ。
 「燃料となるLPガス容器は、体育館横に小屋を設けて16本を備蓄。都市ガスが復旧するまでのおよそ3~4日間をまかなえる想定です」と市教育委員会は説明する。本事業は「ジャパン・レジリエンス・アワード2022(強靱化大賞)」で最優秀賞を受賞するなど、防災機能を強化する「BOGETS」の評価が高まっている。 

それぞれの地域に最適なレジリエンス強化を提案
 国が定めるエネルギー基本計画の中で、LPガスは「災害時のエネルギー供給の最後の砦」として位置づけられ、災害に強い分散型エネルギーとして、過去の大規模震災でもライフラインの維持に貢献したことから、国も補助金を交付して燃料備蓄を後押ししている。他方、都市ガスは風水害に強い性質を持つ。今後もI・T・O(株)では、こうした双方の特徴やランニングコストも踏まえ、各自治体におけるレジリエンス強化に取り組んでいく意向だ。


「BOGETS」の構成機器(左から、パージユニット、New PA制御盤、ワンウェイロックバルブ、New PA、LPガス容器)

企画特集

連載