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修学旅行で「探究」の成果を発表

14面記事

企画特集

京都大学での発表

普段関わることのない大人に成果を見てもらえる機会に

 新学習指導要領で「総合的な探究の時間」が新設されるなど、探究学習への取り組みが進む高等学校では、日常の学習を修学旅行での体験に結び付ける取り組みも多くなっている。こうした中、秋田県立湯沢高等学校では、修学旅行の行程の一つに、京都大学での「デジタル探究」の成果発表を組み込み、普段関わることのない大人に探究学習の成果を見てもらえる機会にした。その意図や当日の様子について、引率した学年主任高橋伊津子教諭と大隅哲也講師(探究担当、修学旅行副担当)に話を聞いた。

定番コースの中に探究発表会を盛り込む

 昨年の秋に実施した修学旅行は、4日間で奈良、京都、大阪の代表的な仏閣寺院、観光地を巡る行程となっている。往復の交通は移動時間を考慮し、バスと航空機を乗り継ぐスタイルだ。
 高校の修学旅行の定番コースといえるが、「これまでの修学旅行と異なるのは、2日目に京都大学で探究発表会を行う時間を設けたことです」と大隅講師。きっかけは、昨年から始まった総合的な探究の時間「デジタル探究(1年次)」において、同大学院教育学研究科助教(情報担当)の久富望先生に指導を受けていたことで、「せっかく京都に行くならとお願いしたところ、快く引き受けてくれました」と語る。そのほか、同校の周辺には大学がないため、進学を控える生徒たちにキャンパスの雰囲気を味合わせてあげたいといったねらいもあったという。
 「デジタル探究」では、データの見方を探究活動に取り入れ、学んだことを活かせる人材の育成を目標としている。1年間をかけてデジタル技術と探究技術の基礎を習得する中では、データを用いた主張の仕方にも取り組んでおり、その成果を京都大学の関係者に披露することがミッションだ。

真剣にデータと向き合う有意義な機会に

 当日は、なるべく生徒全員が参加できるよう、クラスごとに四つのテーマを設定し、肯定派と否定派の立場に分かれて意見を戦わせるディベート形式で行った。例えば「ドローンは自然環境や災害の状況確認において有効であるだろうか」では、ネットなどで調べたデータをもとに導き出した「安全に調査、状況確認ができ、いち早い避難の呼びかけなどができる」といった主張と、それとは相反する主張を用意し、双方の論拠・理由づけを討論していくというものだ。
 「今回、修学旅行でのディベートに使ったテーマについては、生徒が設定した探究テーマから教員側が選びましたが、2年次になってからの『デジタル探究』の中で、学校にある3DプリンターやVRゴーグル等のデジタル機器を地域課題の解決のために使う方法について取り組んだことがあり、その経験を生かせるようになっています」と高橋教諭は話す。途中には発表を見守った教育学部の学生などから鋭い質問を受けて、生徒たちが真剣にデータに向き合う場面も見られ、「これまで学んできた成果を試す、とても有意義な機会になりました」と振り返る。

これまでなかった経験が成長を育む

修学旅行での発表に向けてディベートの予行練習をした

 修学旅行の事前学習としては、従来だと班別自主研修の訪問先やルート検討にとどまっていた。しかし、今回は京都大学での発表内容が正式に決まってから約2ヶ月間、ディベートの予行練習に時間を割くとともに、修学旅行中はスマートフォンを使って、その日にあった出来事を写真付きのコメントでクラウドに上げたと大隅講師。さらに、「修学旅行後は個人ごとのテーマで探究を進める過程に入るため、京都での体験で得た技法も用いて課題に取り組んでいます」と話す。
 その上で、高橋教諭も、今回のような日常の学習を修学旅行での体験に結び付ける取り組みは、漠然と観光旅行をするよりも成果があったと指摘。「一部の生徒の中には京都大学に入学したいと話す生徒も現れるなど、大学の雰囲気を知るとか、知らない大人の前で発表するとか、今までしたことがない経験をすることで、進路意識が高まった気がしています」と口にする。
 また、「デジタル探究」では論理的に物事を考えることに主眼を置いているが、データを示しながら根拠を持って主張するということが発表の経験を通じてできるようになったとし、「論理的に考えることが以前よりも上達したことが、今後、個人で探究を進めていく上でも生きてくると感じています」と語り、修学旅行による経験が生徒の成長に寄与していることを示してくれた。

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