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“チェンジ・メーカー”を育成する大学として

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企画特集

叡啓大学 有信 睦弘 学長に聞く

 2021年に開学した広島県公立大学法人・叡啓大学。叡啓大の「叡」は深い知性、「啓」はひらくということを意味し、新たな知性をひらくとともに、獲得した知性によって社会にイノベーションを起こす人材の育成を目指す。広島市中心部の15階建ての建物をキャンパスとし、入学定員100人のうち20人は留学生。文理横断のリベラルアーツや実際の社会課題に挑戦する課題解決演習(PBL)、全ての授業を日英二言語で開講するといった実践教育に特化するなど、ユニークな教育を行っており、同学の設置理念、学生の育成方法、学修環境などについて、有信睦弘学長に話を伺った。

新しい大学で、こんな若者を育てたい

 広島県で新しい高等教育を始めるための検討会が2016年頃からスタートし、具体的な大学設立の準備に入ったのは 2018年からです。
 私は東芝の研究開発部門にいたのですが、元々大学教育に関してさまざまな疑問を持っていました。いわゆる高偏差値大学の出身者が、必ずしも優れているわけではないことや、高偏差値という基準が、会社では意味をなしていないのではないかということ、そのようなことを常々考えていて、やはり今の受験体制、大学教育には問題があるという、考えに至った訳です。
 受験勉強というのは、基本的に答えが決まっており、その答えをいかに早く見出すか、という訓練をやるわけですが、世の中の課題や問題というのは、実際には答えがない場合が多いわけです。その中で解答を見出していかないといけない。だけど高偏差値の大学を卒業した秀才たちは、解答があるという思い込みから抜けられないものですから、常に正解を求めてしまう。場合によっては上司にその正解を教えてください、とかいう話もあったりするのです。
 今、世の中の状況が混沌としていて、ロシアのウクライナ侵攻など、予測不可能な時代に入っています。そういう先が見えない状況の中でも、きちんと自分なりの判断ができ、新しい社会像が描けて、他者と協働しながらリーダーシップを持って世の中を引っ張っていける、そういう若者を育てたい。そんな思いで、新しい大学を創りました。

解のない課題に挑戦するソーシャルシステムデザイン

 本学は、ソーシャルシステムデザイン学部・同学科のみの大学です。ソーシャルシステムデザインというのは、自分が、こうあってほしい、こうあるべきだと思う社会像を描き、それを実現していく、形にしていくことです。社会におけるさまざまな仕組みを理解した上で、自ら課題を発見し、解決策を立案して実行する。要するに解のない課題に挑戦し、社会にイノベーションを起こせる人材を養成したいと思っています。
 そのために本学では、社会のあらゆる場面で力を発揮できるよう、5つの「コンピテンシー」(資質・能力)を設定し、その獲得を卒業認定・学位授与方針(ディプロマ・ポリシー)と定めています。具体的には、

 (1)先見性=幅広い教養を基盤とする複眼的・多角的な視野で本質的な課題を発見する力
 (2)戦略性=デジタルリテラシーを基盤に論理的思考力などを用いて、統合的な解決策を戦略的に立案する力
 (3)グローバル・コラボレーション力=多様性を尊重し、異なる文化・価値観等を有する他者と協働する力
 (4)実行力=リーダーシップを持って主体的・積極的にチャレンジし、最後までやり抜く力
 (5)自己研鑽力=生涯にわたって学び続ける姿勢を通じて、自己を高める力

 当然、カリキュラムもコンピテンシー(資質・能力)獲得に向けて編成されたもので、「リベラルアーツ科目」「基本ツール科目」「実践英語」によって知識・スキルを修得、「課題解決演習」「体験・実践プログラム」によって実践力を身に付けます。

実践力を養う独自のカリキュラム

リベラルアーツで学びの軸とする5つのP

 補足すると、リベラルアーツ科目では、SDGsの17のゴールについて国連が分類した5つのP=「Peace(平和)、Partnership(共創)、People(人間)、Prosperity(繁栄)、Planet(地球)」を軸に、文系理系の枠にとらわれず横断的に学修します。基本ツール科目では、ICTやプログラミングの基礎を理解し、課題解決や事業立案などのツールとして活用。さらに課題解決に必要な、基本的な思考スキルである論理的思考力を養います。
 春入学者は1年次の最初の半年間で「英語集中プログラム(IEP)」を実施し、英語で授業を受けられるレベルを目指します。交換留学などで滞在する学生を含めると4人に1人は外国人学生ですから、日頃から英語でコミュニケーションをとりながら、多様な人々と協働できる力も身に付けます。
 これらのすべての授業は最大25人ほどの少人数で行い、グループディスカッションやディベートなど学生が積極的に参加するアクティブ・ラーニングを採り入れています。
 本学の教育カリキュラムの大きな特色である「課題解決演習(PBL)」は自ら課題を発見し、実習やフィールドワークなどの体験を通して課題解決力や他者との協働力、リーダーシップなどを養うものです。1年次の「課題解決入門」で課題発見・解決に必要な知識やスキルを身に付け、2、3年次では企業などから提供された課題について探究し、解決策の提案までを行います。この3年間の学習成果を踏まえ、「卒業プロジェクト」に取り組みます。本学の実践教育に占めるPBLの割合は約20%。これは全国トップの数字です。

若者の目線を活かす学生協働プロジェクト
 
 まだスタートしたばかりですが、「学生協働プロジェクト」というのもあります。これは本学の教員と企業との「共創プロジェクト(共同研究)」の中で、学生の参加がより高い効果を生む場合に実施しています。企業が抱えている課題に対して学生の目線で見ることで、新たな発見や異なった視点からの答えが出ることもあります。なにより学生にとっては学んできたことを社会や企業で活かせる機会を得ることができます。
 叡啓大学実践教育プラットフォーム協議会というものもあって、県内外の企業に加え、行政機関など幅広く、今現在で 142団体ほどの企業や団体に、色々な形で協力してもらっています。たとえば、PBLの課題を提供していただいたり、インターンシップをお願いしているケースもあります。実際にソフトウェアの会社にインターンシップに行ったら、そのままヘッドハンティングされた学生もいます。まだ卒業してないものですから、学生をやりながら仕事をしています。

若者の可能性を見出す選抜方法
 
 繰り返しになりますが、本学のソーシャルシステムデザイン学部では、自ら課題を発見し、解決策を立案して実行する、解のない課題に挑戦し、社会にイノベーションを起こせる人材を養成したいと思っています。そうした観点から、文系理系という枠で選抜はしません。知識や技能だけでなく、探究心やコミュニケーション力、課外活動に対する姿勢などを多面的・総合的に評価します。
 定員100人のうち50人が総合選抜型で、小論文等を提出してもらう1次試験を経て、2次試験では個人面接、そして4、5人のグループディスカッションをやって合否を決めます。あと50人のうち20人は学校推薦型選抜、20人は留学生選抜、10人は大学入学共通テストの成績等をベースにした一般選抜を実施します。
 私たちが求めているのは、早く正解にたどり着く訓練を受けた学生ではなく、いろんなことに対して関心や好奇心があり、人とコミュニケーションができ、学ぶ意欲を持ち、人を巻き込んで新しい問題に取り組む、そういうポテンシャルを持った若者です。その全てを備えていることはなかなか難しいことですが、とにかく若者の可能性を見出したいと思っています。

校舎ビルの中に国際学生寮
街全体がキャンパス

国際教養力を身に付ける授業

 本学のあるビルは、元々別の大学の建物だったのです。その1~8階、14~15階を校舎として利用し、9~13階にあった教員向けの部屋や学生向けの宿舎を改装し、国際学生寮として活用しています。そこは留学生と日本人学生が共同生活を通して国際感覚を磨く場になっています。
 大学の広々としたキャンパスというのはありませんが、JR広島駅から徒歩10分と交通の便も良いので、私たちは広島の街全体がキャンパスだ、という表現をしています。実際、学生もあちらこちらに行ったりしながら、伸び伸びと地域社会との交流を楽しんでいます。
 大学というのは本来、社会に開かれた存在であるべきで、学生と社会の交流を広げ、社会と一緒に成長していくことが望ましいと思っています。本学で学んだ若者が、社会を前向きに変えることができる“チェンジ・メーカー”となること。それが、私たちに課せられた使命だと考えています。

有信 睦弘 1976年東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻博士課程修了(工学博士)。東京芝浦電気株式会社(現・株式会社東芝)研究開発センター所長、執行役常務などを経て、2009年に横浜国立大学理事、10年に東京大学監事、14年に理化学研究所理事。18年4月から東京大学執行役・副学長(2021年3月まで)。

叡啓大学『春のオープンキャンパス2024』
3月23日(土)開催

 叡啓大学は『春のオープンキャンパス2024』を3月23日(土)9時30分~15時00分に、広島市中区の同学キャンパス内で開催する。
 プログラムは午前中に「大学説明会」「学生活動発表会」、午後には大学授業で行っているグループワークを体験できる「ワークショップ」が開催される。
 その他、個別相談ブースや学生による企画展示・パフォーマンス、国際学生寮の見学等も終日行われ、在学生との交流も可能。特に「ワークショップ」は、同学の総合型選抜や学校推薦型選抜で実施する「グループディスカッション」の練習機会としても活用できる(見学での参加も可能)。
 参加は事前予約制。申し込み方法等はURLから。

 叡啓大学 〒730-0016 広島市中区幟町1-5 
 電話082-225-6201(代表)
 https://www.eikei.ac.jp/

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