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プログラミング教材でエネルギー教育

13面記事

企画特集

葛飾区立 新宿小学校

 子どもたちにとってエネルギー問題は未来を生きるための切実なテーマだ。しかし日常生活の中では、エネルギーの需要と供給のバランスや、省エネについて考える機会は多くない。今回取材に応じてくれた東京都葛飾区立新宿小学校の北原翔主幹教諭は、プログラミングを通して電気の利用や発電について学べる授業を試みた。プログラミングへの関心を高めるだけでなく「発電所でもプログラミングは活用されている」と、社会インフラを支えていることにも気付かせることができた。

 葛飾区立新宿(にいじゅく)小学校(林信広校長、児童数316)は、2018・19年度に東京都のプログラミング教育推進校の指定を受けており、現在もプログラミング出張授業を取り入れるなどプログラミング教育に取り組んできた。北原教諭は5年生の理科で、電気をテーマにエネルギーの需要と供給のバランスや、省エネについて考える授業を行った。

教室内の「電気探し」から


「Scratch(スクラッチ)」で直感的にプログラミング

 用いた教材はプログラミング教材「電気で学ぼう!プログラミング」だ。これは、大手電力会社で構成する電気事業連合会(以下、「電事連」)が制作した教材で、プログラミング学習ソフト「Scratch(スクラッチ)」を用いて、電気の消費量に合わせて発電量を調節するプログラムを作成し「街の大規模停電を防ぐ」というミッション達成を目指すもの。プログラミングを通して電気は大量にためておけないことや、発電量と消費量のバランスの重要性を学ぶことができる。
 北原教諭は導入として「教室で電気が使われているのはどんなところ?」と投げかけた。電灯、大型ディスプレイ、パソコン、時計、タブレット、黒板消しのクリーナーなど子どもたちは次々と挙げていく。教室だけでなく家でも数多くのものが電気で動いていることを確認し、エネルギーが「仕事ができる力のもと」であること、そしていろいろな使い方ができることも示していく。
 その上で、電気を供給する電力会社は「使う分だけ電気を作る」ことが基本的な決まりになっていることを伝える。なぜなら、電気は大量にはためておけないからだ。発電量と、ビルや工場、家などで使う消費量が釣り合っていないと大停電が起きる可能性もある。こうしたことを伝えながら、発電量を調節するプログラミングへの動機づけを高めていった

街の大停電を防ぐプログラムを作成


北原翔主幹教諭

 授業の後半は、発電量を調節するプログラムの作成に挑戦した。それぞれのタブレットにプログラミングファイルを配布し、子どもたちは各自で取り組んだ。プログラムの動作結果は画面上の街の様子で示される。夜の街の明かりが点灯したら発電量が調節できて成功、もし街の明かりがつかず停電状態になったら、調節は失敗となりプログラムの見直しが促される。ほぼ全員が10分ほどでプログラミングを作り上げることができた。
 電気を安定的に使うには、需要と供給のバランスが大事だと理解できれば「省エネ」の意味も、単にエネルギーを使わないことではなく、消費量を調整するという視点から捉え直すことができる。自分でできる省エネを子どもたちに聞くと「冷蔵庫を開けっ放しにしない」などが挙げられた。
 一方「電気を使うおもちゃを使わない」「だったら昔の遊びもいいかもしれない」「冷蔵庫を使わないなら料理もしなければいいんじゃない」「え、本当に?」などの対話も見られた。今後、6年生になり地球環境と人とのかかわりを学ぶ際に、豊かさや利便性の追究と環境負荷の軽減をどのように考えるか、という深い学びへの入口にもなりそうだ。


児童用ワークシート


発電量と消費量のバランスを取る

未来の課題のきっかけを小学生のうちから

 「エネルギーについてはこれから先、子どもたちが大人になっていくときに議論される課題。その取り掛かりとして電気の使い方に目を向けさせられたのがよかった」と北原教諭は話す。子どもたちも「身近なところにエネルギーがあることを知った」「停電から守るためにプログラミングが使われていることを学んだ」などと振り返っていた。

発展形「日本のエネルギー事情と地球環境」
 
 新宿小学校で実践した教材の発展形のプログラミング教材「日本のエネルギー事情と地球環境」についても、電事連のエネルギー・環境教育支援サイト『ENE-LEARNING』(エネラーニング)から無償で入手できる。
 火力、原子力、水力、再生可能エネルギーなどの発電方法の特徴をSDGsの観点からも学習できる。その上で、これらの発電方法を長所や短所を考えて組み合わせる教材となっている。組み合わせた発電方法は、朝・昼・夜で変化する電気の必要量を満たしているか、「CO2」「費用」「安定性」の3つの観点からみてどうなのかをゲーム感覚でシミュレーションできる。こちらも「Scratch(スクラッチ)」で、子どもたちが直感的に操作でき、授業用のワークシートや指導案もそろっている。
 同発展形の教材について北原教諭は、「イラストやグラフもあり、わかりやすい。深く知るとエネルギー・環境教育の面白さを感じる先生も多いのでは」と感想を述べた。また、授業実践では、「6年生の理科では『電気の性質とその利用』や『人と環境とのかかわり』についての単元もある。今回、5年生での学びを経て来年の授業にもつなげられそうだ」と感じている。
 また、教材を開発した電事連は、「プログラミングを通じて、電気や発電方法の組み合わせを考える学習に役立ててもらえれば」と話す。



(下はシミュレーション結果)

「電気で学ぼう! プログラミング」は、エネラーニングからダウンロード
 https://fepc.enelearning.jp/teaching/programing/

エネルギーについて学べる動画コンテンツ集
「エネルギーアカデミー」が
新作「エネルギーの歴史篇」を公開

 電事連では、暮らしにかかわるエネルギーについて深く掘り下げる動画コンテンツ「エネルギーアカデミー」もウェブサイト(エネラーニング)上に公開している。昨年12月には新作動画「エネルギーの歴史篇」(25分)が完成。中学校理科や社会科などで活用できる教材パッケージだ。その内容や活用法について伺った。

大正時代に発展した発電方法は?

 新作の「エネルギーの歴史篇」は江戸時代から現代に至るまで、暮らしに欠かせないエネルギーがどのように変化し、またいかにして確保されてきたのかを振り返る内容。「ある人の上陸で日本は石炭の威力を知ることになる。それは誰?」「大正時代に急速に建設が進み、発展した発電方法は何?」などクイズ形式で進む。
 出題者はこの教材の監修にあたった(株)ユニバーサルエネルギー研究所代表取締役社長の金田武司氏。生徒役のりくと、ももかの2人と対話しながらエネルギーに対する関心を高めていく。多様な発電方法の長所や短所、それらを組み合わせて社会に必要な電気を供給する「エネルギーミックス」の重要性まで学べる。

中3理科、社会科の総まとめに

 エネルギーの歴史篇の動画に合わせて、中学理科「科学技術と人間」で活用できる指導案とワークシートも公開された。社会を支える市民として世界全体を持続可能にしていくために、どのような選択をすべきかを考える中学の「総まとめ」にふさわしいコンテンツと言えるだろう。社会科公民「世界平和と人類の福祉の増大」などでも活用できそうだ。
 エネルギーアカデミーの動画と教材集は、電事連のエネルギー・環境教育支援サイト「エネラーニング」で入手できる。歴史篇のほか、これまでに「ウクライナ危機とエネルギー篇~日本への影響は?~」「日本を取り巻く課題とS+3E篇」の2本も公開。お笑いトリオ四千頭身とともに、日本におけるエネルギーの課題や、ウクライナ侵攻に端を発した世界的なエネルギー危機の影響など時事問題に焦点を当てる。
 制作した電事連は「エネルギーと歴史には密接な関係があります。この動画で、生徒の皆さんがエネルギーの重要性について考えるきっかけになれば」と話す。

エネルギーアカデミー
~エネルギーの歴史篇~
https://fepc.enelearning.jp/teaching/energyacademy/

エネルギー・環境教育のポータルサイト
ENE-LEARNING(エネラーニング)

 電事連では、エネルギー問題について理解を深めてもらうため、学校向けのエネルギー・環境教育支援サイト「エネラーニング」を運営している。今回のプログラミングや動画教材のほかにも、授業に役立つ様々なコンテンツを発信している。
 中学校向けオリジナル教材「エネルギートラベラー」は日本や世界の資源・エネルギーの現状、環境とエネルギーに関する課題を学べる映像と解説資料のセット。同じく中学校向け教材「SDGs×電気」は、SDGsの17の目標を解説し、電気との関係性を解説する。
 小学校高学年が主な対象で、SDGsの視点から身近な電気の活用を取り上げた動画教材シリーズ「THEPOWEROFELECTRICITY~電気の力で、未来をつなぐ~」も視聴できる。
 教育支援情報として、各電力会社が実施する出前授業の情報や調べ学習で活用できるキッズ向けサイトなどもまとまっている。エネルギーをテーマにした授業を構想するなら一度はチェックしておきたいサイトだ。

電気事業連合会
エネルギー・環境教育支援サイト
『ENE-LEARNING』(エネラーニング)
https://fepc.enelearning.jp/

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