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Next GIGAに向けた教育データの利活用

9面記事

企画特集

端末に入力した回答を見せ合う児童たち

ベネッセが先進自治体の取り組みを紹介するシンポジウムを開催

 Next GIGAに向けて教育データの利活用を促進したい―。全国の教育委員会からの声に応え、(株)ベネッセコーポレーションでは先進自治体の動向や情報交換の機会を提供するシンポジウム「全国ミライシードキャラバン」を展開中だ。ここでは、1~2月にかけて全国3カ所で開催した内容を紹介。各教育委員会が手掛ける子ども主体の学びを実現するデータ利用の取り組みを始め、2024年度に大幅リニューアルを迎える「ミライシード」を活用した公開授業などに大きな注目が集まった。

子どもの自己調整力・主体性を育む教育データの利活用
赤堀 侃司 ICT CONNECT 21会長・日本教育情報化振興会名誉会長・東京工業大学名誉教授

 久喜市の小学校における公開授業で、自分の好きな動物について書いた1年生の文章が素晴らしかった。なぜ上手に書けていたのかというと、そこに端末という道具があって写真や音声で表現できたからであろう。子どもたちがICT端末という道具を駆使して、自分の持っている資源を最大限に活用する姿を見て、教師も変わってきた。
 教育データの利活用で実現したいのは、ツールを通してより子どもたちが自身を客観的に捉えられるようになること。データの可視化によって物事の原因が分かり、どうすれば解決できるのかが見えてくる。教師は一人一人の特性に応じた個別最適な学習指導や授業改善につなげることが可能になる。  
 本シンポジウムは、このような子どもの「自己調整力」を育むデータ利活用を活性化させるために、全国の教育委員会が情報収集・情報交換できる機会になると期待している。

久喜シンポジウム
埼玉県・久喜市立久喜北小学校

シンポジウムの様子 左から鷲宮中学校 青木校長、久喜市教育委員会 山本GIGAスクール推進室長、柿沼教育長

 シンポジウムに先立ち行われた5年1組算数の公開授業では「正方形を30個作るとき、棒は何本必要か」の問題に対し、課題の作成や情報の共有ができるミライシードの「オクリンク」を使い、子どもたちが自力解決する姿が見られた。そこでは、表・図・式・言葉を用いて自分の考えを表現する、友達の考えと見比べて違いを見付け気づきを得るといった活動を通し、思考を深め、筋道を立てて考え表現する力が発揮されていた。

端末の普段使いが定着

 シンポジウムは久喜市教育委員会による教育データ利活用の取り組み紹介から始まった。同市では個別最適な学びを提供することを目的に、エビデンスに基づいたデータ駆動型教育への転換を図ってきた。そのため、学習では複線型授業による子ども主体の学びを柱に、知識・技能習得ではドリルパークなどのAIドリルを利用し、普段の授業で使う課題もデジタル化を進めたという。その上で「日常的に端末を活用する学びはどの学校にも浸透した」と述べた。
 パネルディスカッションでは、端末の普段使いが定着した理由がテーマとなった。久喜北小の麦倉校長は「子どもが先導して係活動のアンケートをGoogleフォームで取るなど、自由度の高い活用文化が根付いている」ことを挙げた。鷲宮中の青木校長は、校務のICT化が進むとおのずと授業でも使うようになるため、校務DXに関係する教員研修に力を入れたと振り返る。「授業に限らず自由に使わせることで課題解決力が身に付く。その結果、生徒の非認知能力は県平均よりも極めて高い数値になった」と語った。

個別最適な学びを実現するチャンス

 教育データ利活用の効果としては「子どもが学びの足跡を容易に把握でき、他者参照がしやすくなったことで、メタ認知能力が向上し、自身に合った学びを選択できるようになった」と麦倉校長。指導面でも、子どもの学習状況がより詳細に把握でき、より適切な支援ができるようになったと振り返った。
 次に、各自治体では教育データを可視化する「ダッシュボード」への関心が高まっていることについて問われた教育委員会は、「本市ではいじめアンケートをダッシュボードで可視化しているが、どう対応するかは人が判断することであり、組織のファシリテーションが大事になってくる」と指摘した。
 最後に、この3年間で久喜市の学校教育は変わり、次のフェーズは個別最適な学びが本当に実現できるチャンスと捉えているとし、「だからこそ、クラウドに溜まっているデータを活かす必要があり、子どもたちがそれを活用していく視点も重要になる」と述べた。

北海道シンポジウム
北海道・札幌市立中央小学校

ムーブノートのスタンプ機能で児童の考えを図式的に共有する仲川教諭

 3年3組道徳「長なわ大会の新記録」の公開授業では、ミライシードの「ムーブノート」のスタンプ機能で、一人一人の考えを図式的に可視化することで、クラスメイトとの考えの違いや、授業前後での自身の変化を捉えさせた。授業の終盤にはミライシードの「ひろば」で振り返りを共有し、子どもたちが自発的に相互評価と他者参照をする姿が見られた。

子ども自ら選択できる学習道具へ

 これまでの端末活用について札幌市教育委員会は、学びのツールとしての活用と検証する段階を経て、今年度は「子ども自らが判断して適切に活用することに重点を置いている」と説明。
 ただし全国学力・学習状況調査の結果では端末の活用率は全国平均に比べて高いものの、調べ学習での使用が多く、子どもの主体的な活用に生かされていないことや、小中学校での利活用に開きが見られた。
 そこで、小中をパートナー校にして交流を深めたり、リーディングDX指定校での小中連携した取り組みの成果を広めたりして学びの質を高めている。さらに、ベネッセの協力による「ミライシード」を使ったオンライン実技研修会は、授業改善に向けた有意義な機会になっていると指摘。NEXT GIGAに向けても「子どもの声に耳を傾け、主体的な学びにつながるよう学校と共に考えていきたい」と語った。

今はデジタル教材のフル活用を

デジタル庁の目指す教育DXについて説明する久芳企画官

 デジタル庁の久芳全晴企画官による講演では、22年に作成された「教育データ利活用ロードマップ」をもとに、教育DXの目指す姿が紹介された。
 まず教育データ利活用には(1)既存のデジタル教材をフル活用して子どもたちが自律的に学べるようにする(2)得られた教育データを学校経営等に活用する2段階があるとした上で「データ利活用という言葉は遠い先の話に思えるが、AIドリルを使ったレコメンドもその一つであり、(1)はすでに先生方が始めているもの」と語った。しかし(2)になると、集めた教育データをダッシュボードで見える化することが一例となるが、サービスが確立しきれていないため「現状はデジタル教材のフル活用に専念し、慣れることが大事」とした。
 また、校務DXは書類のデジタル化から始まり、次は組織間でのデータの自動連携を目指すことになるが、デジタル庁では「大量のデータのやりとりが発生する高校入試実務のデジタル化を優先的に進めていきたい」と話す。組織間でのデータ連携の基盤ができれば、さまざまな校務のデジタル化が可能になる。ただし「円滑な運用を実現するには、日常的に校務支援システムを活用し、データを入力・管理しておくことが重要になる」と指摘した。

福岡シンポジウム
福岡県・福岡市立和白東小学校

ヒントカードを基に話し合いながら問題を解く児童たち

自立した学習者を育てる

 6年1組算数の公開授業では、単元「算数卒業旅行」で学習する4コースの学び方や進め方を、児童が自己決定しながら進めていく様子が披露された。子どもたちはクラウド上に用意された「学習の手引き」のヒントカードや動画を参考にしたり、友達と教材を使って話し合ったりしながら課題をクリアしていく。それぞれの問題を理解したかどうかは、3人の友達に説明してOKならサインをもらう仕組みだ。「どうして?」「こうじゃない?」といった会話が飛び交う教室は、活気に溢れていた。
 授業の最後は、学習の振り返りを「オクリンク」のカードに記入しクラス全体で共有を図る。「一人でわからないことも、話し合って試行錯誤することで考えが深まった」「自分で解くより、人に教える方がむずかしい」など、学びに対する気づきや成長の跡が見られた。また、教員はそのデータからつまずき箇所を見取り、チェックテストなどに反映できる。
 指導した有門涼教諭は、数年前に受け持った学級で、どう手を尽くしても学ぼうとしない子どもの姿に一斉学習の限界を感じ、自ら学び続ける姿勢を育てようと考えた。「実践は子どもたちに任せ、教員はサポートに努める。その手段として端末や教育データを活用していきたい」と語った。

教職員全体に喜ばれるDXを

教職員の働き方改革につながる教育DXについて説明する福岡市教育委員会 永田教育ICT推進課長

 福岡市教育委員会からは、教育DXに向けた取り組みが紹介された。その一つが、教育データの活用に向けた取り組みである。先生の経験や感覚をもとに子どもを注意深く見取り、そこにさまざまな教育データの分析、活用の要素を加えることで、ベテラン教員の経験や勘を裏付けし、経験が少ない教員の指導や支援の道標や判断材料として活用できることで、すべての先生方の働き方の改善にもつながっていくと話す。
 集めるデータは、テスト結果やアンケート、ドリルの進度など多岐にわたるが、こうしたデータをまとめ、可視化できる場所として「ダッシュボード」や分析システムなどの機能を持つ教育データ連携基盤を整備することを挙げ、一部の小中で試行検証を実施している開発中の試作モデルを披露。データを辿っていくことで「学力の変化」や「不登校になりそうな子ども」を発見し、原因を探ることができると話した。
 ただし、データ活用の効果を実感するためには、先生方の日常的な入力作業が不可欠であると指摘。そのためにも教職員全体に喜ばれるDXを目指すことが大切とし、使用するツールはシンプルにするとともに、日常業務を短縮する機器やシステムの導入を進めていると強調した。

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