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中学校における修学旅行の状況と課題~日本修学旅行協会「国内修学旅行の実態調査」から~

13面記事

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 コロナ禍から順調に回復した修学旅行。「探究的な学び」の機会として活用する機運が高まっているが、旅費の高騰による「経済的負担」や「オーバーツーリズム」といった課題も生まれている。ここでは公益財団法人日本修学旅行協会が2023年度に行った修学旅行の実態調査から、中学校での状況について整理した。

私学の海外修学旅行は回復傾向

 本調査では、2023年度に実施された中学校の修学旅行に関する実態について、全国の国公立、私立9944校から3200校を抽出してアンケートを実施。全国校数の約1割にあたる1038校から回答があった。
 これによると、国内・海外を合わせた修学旅行実施率は、全体98・7%、国公立100%、私立93・0%で、前回調査(2022年度)とほぼ同じ結果となった。ただし、新型コロナウイルスの影響で減っていた海外修学旅行の実施率は、円安や物価高による航空運賃の値上がりが響いているためか、全体3・8%、国公立0・1%と戻っていない。
 その中で、私立だけは19・1%と前回から17・4ポイント伸ばして回復傾向にあり、2018年度の26・8%に迫っている。教育目標に「異文化理解」や「国際交流」などを掲げる学校が多く、生徒募集にプラスに働くなどの要因があるからだ。

重くのしかかる旅行費用の高騰

 1人当たりの旅行費用の平均は、初めて7万円を超えた。費用内訳を前回調査と比較すると、交通費が+1588円、体験活動費が+914円と増加。特に国公立の費用総額は65271円で、率にして5%も上昇した。これは、コロナ禍の1泊2日を2泊3日に戻したこともあるが、諸費用の高騰が要因と思われる。
 なぜなら、今回の調査とコロナ禍前の2019年度と比較すると、宿泊日数の平均はほぼ同数にもかかわらず、交通費、バス代、宿泊費、体験活動費などがいずれも高くなっており、総額は5年間で5773円も増えているからだ。
 今後も旅行費用の4分の3ほどを占める交通費・宿泊費が値上がり続けた場合、修学旅行として最も重視するべき「体験活動」に充てられる費用が、さらに削られかねない状況といえる。しかも、今年度の沖縄への修学旅行者数は、前年比で1割以上も減少する見込みという報道があったように、旅行先の変更や宿泊日数の縮減などへと舵を切る学校も多くなるかもしれない。

「学び」の旅への模索と環境変化が明らかに
修学旅行を無償化する自治体も

 こうした旅行費用の高騰は、家計への負担が大きく、経済的な理由で修学旅行に参加できなくなる生徒を生みかねないことから、東京都・葛飾区が今年度から区立中学校の修学旅行費を全額無償化(上限8万円を助成)したり、墨田区のように中学3年生の修学旅行と小学6年生の移動教室にかかる費用を全額無償化したりする自治体も現れている。
加えて、修学旅行を受け入れている自治体などが、学校が地域の施設に宿泊・滞在することや、地域が提供する体験プログラムを利用することを条件に、旅行費用の一部または全額を助成する動きも広がっている。例えば、福岡県はバス1台あたり5万円を上限に支援しており、全国的には航空・バス運賃や宿泊費の一部補助を行う自治体が増えている。

歴史・平和学習が中心~活動内容の分散化も~

 旅行先では、1位京都、2位奈良、3位東京、4位大阪となり、都市部への回帰が明白になった。しかし、特に京都・奈良はオーバーツーリズムによって、公共交通機関を使っての班別自主行動の制限や、見学時間の縮小を余儀なくされるなどの問題が表面化している。
 重点を置いた活動の分類では、「歴史学習」が44・4%と群を抜く。内訳としては、1位「遺跡・史跡・文化財・寺社等の見学」59・6%、2位「伝統的な町並みや建造物群保存地区の見学」28・8%、4位「座禅、法話、写経等」13・1%になる。その中で、前回と同じく「平和学習」が3位(21・0%)に食い込んだ理由としては、ウクライナ情勢などによる平和学習への関心の高まりもあると分析している。それは旅行先の順位が、6位広島、7位沖縄、8位長崎であることからも見てとれる。
 一方で、「歴史学習」を除けば、活動内容自体は分散傾向にあることも近年の特徴だ。中でも、教育課題の一つである「キャリア体験・学習」は前回から大きく比率を伸ばしており、今後の進展に注目したい。

ねらいを明確にした事前・事後学習を

 修学旅行での体験を生徒の「主体的・対話的で深い学び」につなげていくためには、事前・事後学習の内容がより重視されるようになっている。このため、事前学習で主流だった「しおりの作成」は減少傾向にある。
 コロナ禍前と比べ、そうした行程確認や見学先の事前調べは各自が授業外に行うようになっており、その分、事前学習としては「班・学級・学年での話し合い」といった生徒相互の対話的な学びに時間を割くようになっている。併せて、訪問前に「外部講師による講演」「オンライン講演」などを実施し、現地での行動に対する生徒の関心をより高める工夫をする学校も増えているようだ。
 事後学習では、「まとめの作成(掲示物、冊子、新聞等)」「学級での話し合い・発表」が中心に実施されているのは変わりない。ただし、学習指導要領の改訂により、「総合」や各教科と関連付けて進められるようになったため、事後学習に取り組む件数は増加傾向にある。
 その中で、「授業公開等での発表」「外部へのオンライン発表」など、学年・学校の枠を超えて情報発信する学校も見られるようになっている。学びの旅としての修学旅行の価値を高めるためにも、今後も、このようなねらいを明確にした事前・事後学習に取り組みが増えていくことを期待したい。
※(公財)日本修学旅行協会調べ

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