少子化時代、大学が新たな役割模索 地域創生の担い手育てる
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地域実習で子どもたちと関わる淑徳大学の学生=同大学提供(画像の一部を加工しています)
少子化が加速する中、大学を取り巻く環境が大きく変化している。新たな役割を模索する各地の大学では、地域との連携強化や地域創生を担う人材の育成を進める動きが活発になっている。
福島県富岡町で被災地の文化継承や地域づくりについて考える。沖縄県宮古島で観光客向けに自然環境と歴史を取り込んだアクティビティーのプランを立てる…。
淑徳大学地域創生学部(埼玉県)が本年度実施予定の「地域創生実習」の活動内容だ。実習では、学生たちが地方の抱えるリアルな課題に対し、地元の人々と関わりながら解決策を考え、実践していく。3年生全員が34テーマからそれぞれ4カ所を選んで訪問し、各5日間、合計20日間実施する。
地域創生学部は、少子高齢化や人口減少に直面する地域で活躍できる人の育成を目指し、令和5年度に開設された。
カリキュラムの特徴が、卒業単位の約3割を占める地域実習科目。学生たちは役所や企業、文化施設などを訪ね、聞き取り調査や視察を重ねながら解決策を考える。
1年次から毎月、首都圏の自治体を訪問して実態を調べ、2年次に社会調査や事業設計を演習する。3年次の地域創生実習で住民や行政と連携して課題解決を試行し、4年次の卒業研究では実習経験を踏まえ、地域づくりの成果をまとめる。
学部長の矢尾板俊平教授は「学生に目指してほしいのは『社会事業家』。これまでとは違った発想で行動できる公務員や、地域の産業や文化を未来へつなぐ実践者として幅広い分野で活躍してほしい」と言う。
同学部では、地域創生を担う人に必要な力として「事業デザイン力」「コミュニケーション力」「調査・データ分析力」などの七つを設定し、ルーブリック(達成度の評価基準)を作成してきた。それに基づき、年2回程度、教員が全ての学生と面談・指導し、質保証を進めている。
地域創生を担う人材の育成とともに、同学部が目指すのは地方への人材の還流だ。昨年度入学者の選抜から始まった「地域創生人材育成入試」は、自治体の推薦を受けた生徒が出願できる総合型選抜。入学者には入学金(20万円)の免除の他、生活費として毎月5万円が補助される。地域社会や産業を担える人を育て、卒業後に地元で活躍してもらうことを期待している。
入試では、高校生の探究学習の成果を評価する選抜も実施している。高校時代に培った探究的な学びの力を、地域実習で生かしてほしい考えだ。
矢尾板教授は「全入時代になると、上位の大学を除いて、入学者選抜の位置付けは変わってくる。入学させた学生を4年間でどれだけ育てられるか、大学側が問われることになる」と指摘する。
求められる人材 産官学で協議
急速な少子化の影響で、大学の縮小や撤退が予想される中でも保証しなければならないのが、住んでいる地域や経済的事情によらず高等教育を受けられる仕組みの実現だ。
中央教育審議会が今年2月にまとめた答申(「知の総和」答申)では、地域ごとにこうした仕組みを築くことを提言。大学、自治体、産業界の関係者が集まって地域に必要な人材の育成を議論する協議体を設けることなどを求めた。
その先駆けとなる事例の一つが、令和4年に長野県で知事と県内の国公私立大学、経営者団体の代表者らがつくった「信州共創プラットフォーム」だ。県の施策をまとめた総合計画の実現に向けて具体策を検討している。
昨年8月には、看護師・保健師不足の解消や災害時の連携強化のため、看護系6大学と県の健康福祉部、看護協会による部会も発足させた。
地域で求められる人材の育成のために大学間の連携も強化した。
信州大学、長野大学、佐久大学の3大学が一般社団法人の「信州アライアンス」を設置。連携開設科目の運営やカリキュラムポリシーの設定を行った。連携科目はオンデマンド型授業を中心に22科目を開講する。
3大学による地域課題の解決型学習(PBL)も開発し、来年度開講する予定だという。信州大学の担当者は「アライアンスの安定運営のため、財源モデルを検討する必要がある」と指摘する。
今後の私立大学の役割を巡っては、文科省が有識者会議で議論を進めている。地域の「人材育成インフラ」としての役割を果たし続けるため、教師や介護士といった地域のエッセンシャルワーカーを育成する大学の優遇などを検討する。