クロスロード 交差する視点(6)教育現場のバイアスを断つ
8面記事
伊藤 たかね 東京大学副学長
年齢が上がるにつれて学校で女性の先生に教わる機会が少なくなる、これはごく普通の実感ではないだろうか。
文科省の学校基本調査によれば、教員の女性比率は小学校63%、中学校45%、高校34%(令和6年度)。小さな子どものケアには女性が、高度な内容の教育には男性が、それぞれ適しているという社会のバイアスの反映であろう。このような教育現場の実態が子どもたちに同様のバイアスを植え付けているであろうことは想像に難くない。学校が「バイアスのモデル」になってしまっていることになる。
残念ながら、大学にはこのようなバイアスが最も顕著に表れている(同調査の教員女性比率28%)。近年、多くの大学がその改善を目指して、教員の女性限定公募などの施策を打ち出している。
東京大学も例外ではなく、女性比率は教授11%、准教授18%(令和6年度)という惨状であり、これを打開しようと私たちは本気で取り組んでいる。人事に直接関わる施策以外に、大学全体の意識改革・行動変容を目指す施策(各種研修の実施、啓発活動など)を重視している。実際に人事選考を行い、採用された人と共に働く教職員の意識と行動が変わらなければ、女性教員は増えないし、女性が安心して働ける環境にならないからである。総長はじめ大学役員が一室に集まってバイアスに関わる研修を受けたり、全教職員がe―ラーニングの研修を受けたりと、これまでにないさまざまな取り組みにより、教職員の意識は着実に変化してきている。
教育の場がバイアスを再生産してはならないと強く思う。女性比率はすぐには変わらないかもしれないが、児童、生徒や学生に日々接する私たちが、「男/女だから」と思い込んだ言動をしてはいないか、立ち止まって考えてみるという小さな努力は今日からできる。次世代を担う子どもたちが、バイアスを持たずに羽ばたける未来を、小学校から大学まで協力してつくり上げたい。