教育データの利活用で学びをアップデート
13面記事
学びの質向上に不可欠な教育データの活用
児童生徒一人一人の「見取り」や「見守り」に活かす
GIGA第2フェーズを迎えた学校現場では、学習系&校務系データの集約化・見える化を図る校務DXを進め、それを児童生徒一人一人の「見取り」に活かして学びの質を向上していくことが求められている。そこで、文科省が全国の教委・学校に実施した校務DXの状況調査から、教育データの利活用の現状と課題について探った。
連絡手段としてのデジタル化は前進
今後、学校ではデジタル学習基盤に蓄積しているデータを活用して、より正確かつ効率的に児童生徒の状況を把握することが期待されている。こうした学校におけるデジタル化の現状を把握するため、文科省では全国の公立小中学校と公立小中学校の設置者に「GIGAスクール構想の下での校務DXチェックリスト(令和6年度)」の自己点検調査を実施し、今年3月末に結果を公表した。
全国の校務DXの取組状況は、令和5年度と比較して多くの学校でデータ活用が一定程度進んでいるものの、進捗具合が遅れている項目や、依然として学校間・学校設置者間で格差が解消されていないことが分かった。
学校のデジタル化で特に進んだもの(完全+半分以上)としては、「教職員と保護者間の欠席・遅刻・早退連絡」が17・1ポイント増の75・5%。「保護者へ発信するお便り・配布物をクラウドサービスで一斉配信」が15・9ポイント増の48・7%。「職員会議のペーパーレス化」が9・5ポイント増の76・8%などがある。
学校設置者では、「教育委員会主催の研修アンケート等をクラウドサービスで実施・集計」が10・4ポイント増の48・9%。「次世代型校務支援システムの具体的な導入時期を設定した」が10・1ポイント増の18・8%。「学校との各種事務手続きのペーパーレス化」が8・8ポイント増の29・9%となっている。
実務や子どもに向けた利活用は手探り段階か
校務DXで教職員の業務を効率化したい
次に、校務DXの進展として注目したい項目を挙げてみる。学校内のデジタル化では、「教職員間の情報共有や連絡にクラウドを活用」が76・9%、「校内研修でオンデマンド視聴を取り入れている」が45・9%と進んだ一方で、「業務で押印が必要な書類がある」がいまだ92・9%もあった。また、「端末のパスワード管理を児童生徒に任せている」が40・8%。「生成AIの校務活用」は、「ほぼ全員が活用している」が0・5%で、「一部の教職員は活用している」でも38・4%にとどまっている。
教職員と児童生徒間のデジタル化では、「毎日端末を持ち帰っている」が38・9%で、「時々持ち帰る」が49・1%。「小テストなどでのCBTの実施」は36・5%。「学期中の宿題をクラウドサービスやデジタルドリル教材を用いて実施・採点」は、半分以上しているが17・2%、一部しているが54・4%だった。
校務DXに一定以上取り組んでいると回答した学校に対して、教職員の働き方の改善に効果があったと思うかでは、「欠席・遅刻・早退連絡のデジタル化」「保護者への調査・アンケート等のクラウド化」といった項目について、効果実感が特に高かった。
このような結果から、学校全体としては連絡手段や情報共有にデジタル化による効率化が図られるようになってきたが、実際の学校運営に関わる校務分掌にまで活用し、効率化できている学校はいまだ少ないようだ。また、授業においても課題提出やフィードバックをオンラインで行う学校が増えているが、その先の個別最適化学習に向けた取り組みについては、手探り状況の段階にあると思われる。
校務DXをさらに推進するためには
校務DXの推進には、
(1)データの統合と活用の難しさ
(2)教員の負担増加
(3)セキュリティとプライバシーの課題
(4)地域間格差の拡大
などの課題も浮かび上がっている。また、学校設置者への調査では、「統合型校務支援システムを導入している」が83・8%に達しているが、文科省が推奨している「ネットワーク統合と汎用クラウドツールの活用を前提とした、パブリッククラウド上で運用できる次世代型校務支援システムの導入を検討しているか」の問いでは、「導入済み」が6・1%と極端に低い。
この要因としては、校務系と学習系のデータが統合されているといっても、システム自体が現在使っているGIGAスクール環境と紐付いていなかったり、連携しにくかったりする部分があるのかもしれない。
こうした状況を踏まえると、校務DXをさらに推進するためには、
(1)校務の効率化
(2)児童生徒の学習状況や心の変化の見取り
(3)地域間格差の是正
という3つの視点が不可欠になる。
教育データを「チーム学校」の力に
校務DXの推進も「チーム学校」力につながる
今、学校教育では、すべての子どもの可能性を引き出し、変化の激しい時代を生き抜く力を育てることが求められている。そのため、GIGA第1期では、クラウド上で子どもの回答や学習成果物を共有して教員が進捗状況を確認したり、子どもが他者参照したりしながら、1人1人の課題解決する力を育むことにトライしてきた。
その上で、第2期となる今回は子ども自身がその環境を使って主体的に学びを深めていくスタイルが求められており、教員にはその学びを支援するファシリテーターとして役割が期待されている。
また、悩みや不安を抱えた児童生徒の早期把握・支援として、ICTを賢く活用することも重要になっている。アプリ等を活用することにより、データに基づいた状況把握を行うことが可能となるため、教職員の目では分からなかったメンタルヘルスの悪化などを把握し、支援につなげることができるからだ。
文科省・デジタル庁等は6月、「教育DXロードマップ」を3年ぶりに改訂し、今後3~5年間に進めるべき新たなロードマップを公表した。その中で、「全自治体で次世代校務DX環境へ移行」「原則として、希望する各都道府県で高校入試事務デジタル化」などは、2030年前までに実現することを目標に掲げている。また、教職員の働き方改革では、「紙での調査・アンケート」「電話や書面による保護者との日程調整」「学校徴収金の現金徴収」など、「12のやめることリスト」を挙げている。
こうした教育のデータ利活用の推進や技術の進化を受けて、今後学校では教育データをどのように活かし、「チーム学校」としての力に変えていくかが問われることになる。