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日本史教科書検定三十五年 教科書調査官が回顧する

12面記事

書評

照沼 康孝 著
舞台裏の事情を実名で記す

 「検定の経緯や省内あるいは審議会の内部事情は今日まで秘されたままである。この回顧録は、その一部を初めて公にしている点でも意義深い」―これは「はしがき」の一節である。加えて著者は「平成のミスター検定とも呼びうる唯一無二の存在」の照沼康孝氏である。われわれ読者にとっては、ぜひとものぞいてみたい世界の「回顧録」であり、著者によれば「もっぱら記憶に頼って記すほかない」由だから、それだけ本音で語られている「回顧録」であろう。興味津々である。
 また、登場する人物は全て実名であり、書かれている事実は重大である。そして、誤りがあってはならないし、二人の専門家が、本書の内容をより正しく理解してもらうべく、解説や補説、資料の確認など入念に当たっている。
 読み終えて、全く知らない世界の苦悩や、仕事の細部を知り、一冊の教科書が検定合格に至る経緯の大変さを思い知らされた。不合格になった理由なども、なるほどとうなずかざるを得ない。肝心な記述内容は、十分に魅力的であり、知りたいことは全て書かれてあると満足した。
 一例を挙げると、家永教科書裁判、新編日本史問題、教科用図書検定調査審議会、いわゆる従軍慰安婦の記述、教科書研究指定校制度、新しい歴史教科書問題、検定意見の通知、朝日新聞の取材、新たな裁判、歴史総合の魅力と懸念、教科書の採択について等々がある。詳細は本書で確認を。
(2420円 吉川弘文館)
(野口 芳宏・植草学園大学名誉教授)

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