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災害時に学びを止めない支援体制を 文科省「D-EST(ディーエスト)」を推進

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初めて大規模集団避難を実施

 令和6年能登半島地震では、校舎の損壊や教職員の被災、避難所としての学校活用など、教育活動の継続が大きく揺らいだ。このため、文科省では高校受験を目前にした3年生を含め、中学生の学習の場の確保のための大規模集団避難を初めて実施。併せて、5県の学校支援チームが被災地に入り、学びの継続や学校の早期再開を後押しした。
 このような状況があったことから、文科省では災害時における学びの継続を支援する新たな枠組み「D-EST」の構築を推進している。「D-EST」は、災害発生時に被災地の教育活動を支援するため、教職員やスクールカウンセラー等を被災地外から派遣する体制である。その目的は、被災地の子どもたちの学びの保障と学校の早期再開を支えることであり、教育のレジリエンス(回復力)を高めることにある。

過去の知見を全国規模で活用する

 この枠組みは、次の三つの柱で構成されている。第一に、文科省から被災地への職員派遣である。これは、学校施設の危険度判定や教育環境の調査など、専門的な支援を迅速に行うためのものである。第二に、被災地外の地方公共団体から学校支援チームを派遣することである。これらのチームは、学習指導、生活支援、心のケアなど多岐にわたる支援を担う。第三に、文科省の調整による応援教職員およびスクールカウンセラーの派遣である。これにより、被災地の教職員の負担軽減と教育活動の安定化が図られる。
 「D-EST」の構築は、既存の支援体制を基盤にしており、兵庫県の「EARTH」や熊本県の学校支援チームなど、過去の震災を契機に設立された地域の支援チームがモデルとなっている。これらのチームは、災害時に迅速かつ的確な支援を行ってきた実績があり、「D-EST」はそれらの知見を全国規模で活用することを目指している。
 また、「D-EST」は単なる人的派遣にとどまらず、支援の質と持続性を重視している。被災地のニーズを的確に把握し、支援内容を柔軟に調整することで、現場に即した支援が可能となる。
 さらに、支援チームの活動を通じて得られた知見を国の政策に反映させることで、教育行政全体の災害対応力の向上にも寄与する。

教育のレジリエンスを高めるために

 教職員にとって、災害時の対応は通常業務とは異なる負担を伴う。避難所運営、施設復旧、児童生徒の心のケアなど、多岐にわたる業務を限られた人員で担うことは、心身の疲弊を招きかねない。「D-EST」は、こうした現場の負担を軽減し、教職員が本来の教育活動に専念できる環境を整えるための仕組みでもある。
今後、「D-EST」のさらなる実効性を高めるためには、支援チームの認知度向上と受け入れ体制の整備が不可欠である。 被災自治体が「D-EST」の存在と活動内容を十分に理解し、迅速に受け入れを行えるよう、文科省は情報発信と連携強化を進めている。
 教育は、子どもたちの未来を支える社会の根幹である。災害時においても、その営みを止めることなく継続するために、「D-EST」は重要な役割を果たす。教職員一人一人がこの枠組みの意義を理解し、平時から備えることで、教育現場のレジリエンスがさらに高まることを期待したい。

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