徳育奨励賞に常総学院中学 自分見つめ直す機会に
8面記事
各賞受賞者の記念写真
第16回懸賞作文「小さな助け合いの物語賞」(主催=全国信用組合中央協会、後援=文部科学省、金融庁、金融経済教育推進機構)の受賞者が10月17日発表され、「徳育奨励賞」に常総学院中学校(茨城県土浦市、坂田英一校長、生徒数287人)が輝いた。
日常で感じる思いやりや支え合いを文章に
同賞は団体応募の中で、最も応募数が多い学校を表彰する賞。今回、常総学院中学校の2、3年生の計132人が応募し受賞した。
「小さな助け合いの物語賞」は、「誰かに助けてもらった感謝の気持ち」や「人を助けることで感じた幸せ」などについて、体験した助け合いをテーマにしている。ただ、家族や知人、同僚など身近な関係での助け合いは対象外となる。
生徒の思いが一つに
常総学院中学校の坂田校長と、国語科担当で、今回の懸賞作文の取りまとめをした坂入裕一教頭に受賞の喜びや応募の経緯、作文指導にあたっての工夫などを聞いた。
応募は、地元の茨城県信用組合からの紹介だったという。坂田校長は「生徒の一人一人が日常で感じた、思いやりや支え合いといったものを、あらためて文章にまとめることで、社会における自分自身を見つめ直す貴重な契機となりました」と振り返った。
その上で坂田校長は「今回の受賞は、自己の見つめ直しの作業に取り組んだ、生徒たちの思いが一つの形となった証しではないかと喜びをかみしめています」と語った。
道徳的な体験を
応募に当たって、これまでの「小さな助け合いの物語賞」の作品を読んだ坂入教頭は「授業で行う道徳の教材のようでした。作文の中には、生徒たちと同じ世代の子どもたちの声もあり、数々の作品は道徳的な価値が高いと感じました」と評価した。
さらに、道徳の授業で教える際、教科書だけではなく、「実生活の場面で道徳的な体験をしてほしいという願いがありました」という。
文武両道を目指す常総学院中学校は、茨城県内だけではなく他県からの通学生も多い。下校時には、最寄り駅までスクールバスや、電車で帰宅する生徒もいることから、坂入教頭は「地域における”放課後コミュニティー”というものの形成がなかなか容易ではない」という現状を説明する。
そこで懸賞作文に応募すれば、「小さな助け合い」という題材だけに、「生徒たちが作文を考える際に、人と人とのつながりや、自分の振る舞いなどをあらためて内省するきっかけになり、国語力育成を図りながら道徳的判断力の育成にもつなげることができる」と、夏休みの課題の一つとして、学校全体でチャレンジしようと思い至ったという。

全国信用組合中央協会 柳沢会長(左)と表彰状を授与される常総学院中学校 坂田校長(右)
五感で感じる大切さ
茨城県信用組合から紹介を受けた懸賞作文「小さな助け合いの物語賞」の応募要項をみると、「800~1200字の文字量で、本校の生徒のエッセイ指導に適切であり、多すぎず少なすぎず取り組みやすいと感じた」(坂入教頭)ことも後押しした。
さらに、常総学院中学校は1学期にエッセイの書き方などの授業を展開しており、懸賞作文への応募が夏休みの課題としては、「望ましい活用場面であった」(同)。
エッセイ、作文の授業では生徒が経験したことと、その経験から自分が考えたことの二つの内容については、しっかり文章に入れ込むことを指導している。
特に自分が経験した部分については、①自分が見たこと②自分が聞こえたこと③自分が感じたこと④自分が味わったこと⑤自分が匂ったこと―など主観的に五感で感じたことを書くように伝えているという。
“形容詞”に逃げない
生徒たちには、「客観的な事実ではなく、自分が感じた真実を書くということを伝えてきました」とした上で「表現にあたっては物や人の性質、特徴、状態などを表す”形容詞”に逃げないで、自分の五感をフルに活用してほしい」などと、文章指導の一端を披露した。
たとえば、ある体験を表現する際に「楽しい」という形容詞に頼るのではなく、自分の五感に基づいて、「楽しい」とは違う言葉を探し当ててほしいというアドバイスだ。
このような指導法により、エッセイを書くテクニックが分かると、「『小さな助け合い』という身近な題材とあって、生徒たちは比較的すいすいと書いていました。その成果が今回の応募数132編につながったようです」と笑いながら語った。
今回の生徒たちの応募作品については、自宅近所の高齢者の方とのふれあいや、通学中の電車での出来事をまとめたものなど、テーマは多岐にわたったという。
頑張りのプロセス評価
常総学院は教育目標として、中学、高校一貫の6年間で、「社会に貢献するリーダーの育成」を掲げる。リーダーとして核となるスキルを「JOSO Core Skill 」と位置づけ、三つの具体的な力を提示している。「学力」「タフネス」に加え、「自分の価値を認識し、自分の置かれた状況を前向きに受け止めることができる、自己肯定力」だ。
今回の懸賞作文の応募について坂田校長は「『小さな助け合い』というテーマで文章を書くことで、自分の価値をあらためて認識できたと思います。一人一人の生徒がその作業を通じ、他者への思いやりや、支え合いを考え直し、結果として行動につながっていくことが、自己肯定力を育むのではないでしょうか」と意義を強調した。
さらに坂田校長は、「頑張れば結果につながるということが、なかなか実感できにくい現代社会だと思います。そんな世の中だからこそ、今回、徳育奨励賞をいただけたことは、生徒たちの頑張ったプロセスを評価してもらえたと受け止めており、うれしい限りです」と締めくくった。
・徳育奨励賞
助け合いや相互扶助について考える作文を通して、児童・生徒の豊かな心を育む「道徳教育」(徳育)の奨励を目的に、団体応募の中で最も応募数が多い学校を表彰するため設けた賞。

