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高校生の1割が選択する時代へ~不登校支援から専門教育まで広がる新たな選択肢~

10面記事

企画特集

通信制高校が今の若い世代に選ばれるのはなぜか?

生徒の実態に応じた最適な学びの場を提供する

 かつて通信制高校は、全日制や定時制に通えない生徒や社会人・勤労青年のための「例外的な進路」として位置づけられてきた。しかし近年、その位置づけは大きく変化している。文科省の統計によれば、今や通信制高校に在籍する生徒は30万人を超え、全高校生の約1割を占めるまでとなっており、その数は年々増加している。ここでは、通信制高校がなぜ選ばれるのか。その動向と魅力を教育現場の視点から整理した。

不登校・発達特性への適合という現実的選択
 
 通信制高校を選択する生徒が増えている背景には、子どもの多様化と学校に求められる役割の変化がある。中でも、最も多く挙げられるのが不登校経験である。小・中学校段階で不登校を経験した生徒が、その延長線上で「毎日登校すること」を前提としない学びの場を求め、通信制を選ぶケースは少なくない。
 また、発達特性を持つ生徒にとっても、通信制高校の柔軟な学習形態は大きな意味を持つ。一斉授業や時間割に強いストレスを感じる生徒でも、自分のペースで学習を進められる環境は、学習へのハードルを下げる。画一的な集団適応を求められにくい点は、生徒の自己肯定感を守る上でも重要である。
 通信制高校は、決して「逃げの選択肢」ではない。むしろ、これまでの学校環境では力を発揮しづらかった生徒が、自分に合った形で学び直すための「再スタートの場」になっているのだ。それは、文科省が推進する「誰一人取り残さない学びの実現」にも貢献するものであり、多様な教育ニーズに応える新しい学びの場として注目を集めている。

個別メンター制度が支える学習と生活

 このような生徒の多様な背景や特性に応じるため、多くの通信制高校が導入しているのが、担任とは別に生徒一人ひとりを支える「個別メンター制度」である。学習の進捗管理だけでなく、生活リズムや進路の悩みまで含めて継続的に関わる存在として、メンターは重要な役割を果たしている。通信制高校では、生徒が孤立しやすいという課題が指摘されてきた。しかし、定期的な面談やオンラインでの相談体制を整えることで、「見守られている」「自分のことを理解してくれる大人がいる」という安心感を生徒に提供している。また、通学とオンラインを組み合わせた柔軟な学習スタイルを提供している学校も多い。
 この仕組みは、教員の役割にも変化をもたらしている。教科指導だけでなく、生徒の心理的ケアや進路支援までを含めた伴走型の関わりが重視される点に、通信制高校ならではの教育観が表れている。

興味やキャリアと直結する多様なカリキュラム

 通信制高校のもう一つの大きな特徴が、カリキュラムの多様性だ。基礎学力の定着を重視するコースに加え、IT(プログラミングなど)、デザイン、eスポーツ、芸能、スポーツ、探究学習など、生徒の興味や将来像に直結する学びを用意する学校が増えている。その中で、近年ではトップアスリートやタレントの卒業生も輩出しており、通信制高校が「夢を追う場」として認知されつつある。
 また、将来の職種としてイメージしにくいeスポーツは、すでに世界の競技人口は1億人以上、視聴者を含めると5億人を超える巨大な市場が形成されており、関連産業の需要が高まっている。したがって、プロゲーマー以外にも、アナリスト、コーチ、実況解説者、イベント企画運営、ゲーム開発やマーケティングなど多彩な仕事が存在する。学びの内容も、ゲーム技術だけでなく、プログラミング、映像制作、ビジネス戦略、スポンサーシップ管理などを学ぶカリキュラムが整備されつつある。
 これらの学びは、単なる「付加価値」ではない。学ぶ意味を見失いがちだった生徒が、「これなら学びたい」「キャリアにつながる」と実感できることが、学習継続の原動力となっている。しかも、そうした刺激を生徒に植え付けるために、多様な職歴や社会の第一線で活躍する講師を招請し、直接指導することを掲げる通信制高校も多くなっている。
 また、大学進学を目指す生徒に対しては、個別最適化された受験対策や推薦入試への対応を強化するなど、進路支援もきめ細かい。通信制でありながら、高い進学実績を上げる学校が増えている点も注目すべき動向である。

「eスポーツ」は競技人口と市場の拡大に伴い、将来の仕事につながる可能性は高まっている

ICT活用が広げる学びの可能性

 通信制高校の拡大を支えている要因として、ICTの進展も欠かせない。オンライン授業、学習管理システム、チャットやビデオ通話による相談体制など、デジタル技術が学びの基盤として定着している。
 特にコロナ禍を経て、オンライン学習への社会的理解が進んだことは大きい。通信制高校で培われてきたノウハウは、今や全日制高校にとっても参考となる実践知となっている。
 一方で、ICTはあくまで手段であり、目的ではない。通信制高校が評価されている理由は、技術そのものではなく、それを生徒一人ひとりに合わせて活用している点にあるといえる。

教員にとっての通信制高校とは何か

 通信制高校の拡大は、一般の教員に対しても問いを投げかけている。「学校とは何か」「学びとは何か」という根源的な問いである。毎日登校することが前提ではない学び、同じペースで進まない授業、社会に出て即戦力となる実践的なカリキュラム、評価の在り方の多様化など。通信制高校は、従来の学校観を相対化し、教育の可能性を広げている。
 すなわち、全日制・定時制・通信制のいずれが優れているという2項対立ではなく、生徒の実態に応じた最適な学びの場をどう保障するか。その視点こそが、今後の高校教育に求められている。

多様な進路を支える教育インフラとして

 高校生の1割が通信制を選択する時代となった今、通信制高校は「特別な場所」ではなく、教育システムの重要な一翼を担う存在になった。こうした背景には、①不登校の受け皿としての柔軟性、②発達特性に配慮した個別最適化、③専門性や職業スキルを早期に獲得できるカリキュラムという3つの魅力が、多様化する今の若者に直接的な価値を提供しているからにほかならない。
 また、現在、進められている高校教育改革において、民間企業との連携が重視される背景には、産業構造の変化、AI時代に必要な能力の育成、多様な学習ニーズへの対応といった、学校教育だけでは補えない領域が拡大していることが挙げられる。
 従来の学校教育は、知識の習得に比重が置かれてきたため、リアルな社会課題に触れる機会が限られていた。したがって、IT企業によるプログラミング講座、金融機関による金融リテラシー教育、メディア企業による情報発信・メディアリテラシー授業など、専門性の高い領域を、現場で活躍する人材から直接学ぶ機会が、その解決策として求められているのである。
 そうして点からも、通信制高校の動向を知ることは、特定の学校種を理解することにとどまらない。多様な学びをどう社会として支えていくのか、その答えを探る手がかりとなるはずである。

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