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学校の防災力を高める機能と先進技術

10面記事

企画特集

要配慮者用に普通教室や特別教室も活用することを検討する

防災庁設置により、学校防災機能の抜本的な見直しと整備が加速

 近い将来、高い確率で発生するとされる南海トラフ巨大地震をはじめ、首都直下地震、さらには近年激甚化・頻発化する台風や豪雨など、日本列島は常に大規模災害のリスクと隣り合わせにある。こうした中、地域住民の命を守る「避難所」としての役割を担う学校施設には、従来以上に高度で持続可能な防災・減災機能が求められている。そこで、「防災庁設置」を契機に大きな転換期を迎える学校防災の現状と課題を整理し、施設・設備、先進技術、運用体制の観点から、今後求められる学校防災のあり方を考察した。

防災庁設置が示す「学校防災」の新たな位置づけ

 政府が2026年度中の発足を目指す防災庁は、学校施設における防災機能整備を国策として位置づけ、整備を加速する計画だ。とりわけ注目されるのが、「スフィア基準(避難所の満たすべき国際基準)」を踏まえ、避難者の健康と尊厳を守る環境づくりを重視している点である。
 防災庁設置の背景には、災害対応の司令塔機能を強化し、平時から復旧・復興までを一貫して担う体制を構築するねらいがある。その中で学校施設は、地域防災計画の中核を成す存在として、これまで以上に明確な役割を与えられつつある。
 従来、学校は「とりあえず避難できる場所」として指定されることが多かった。しかし今後は、発災直後の一時避難から、避難生活の長期化を見据えた拠点機能までを担うことが前提となる。これは、学校防災が教育行政だけで完結する課題ではなく、自治体全体の防災・福祉・医療政策と密接に連動する分野へと進化していることを意味する。
 したがって、教育委員会にとっては、施設整備計画や長寿命化計画の中に防災視点を組み込み、国の動向を踏まえた中長期的な投資判断が求められることになる。

スフィア基準による避難所環境の整備~「健康と尊厳を守る生活空間」への転換~

 防災庁が整備指針の柱に据えるスフィア基準は、災害時であっても人間としての尊厳が守られるべきであるという国際的な理念に基づく。具体的には、避難者一人当たりの最低居住面積、十分な換気や採光、清潔なトイレ環境、安全な飲料水の確保、ジェンダーや障害に配慮した空間設計などが示されている。
 学校施設にこれを適用する場合、体育館への一極集中型避難からの転換が不可欠となる。特に要配慮者や乳幼児、妊産婦には、普通教室や特別教室を活用して専用スペースを確保。可動間仕切りや簡易ベッドなどで一定のプライバシーを確保する工夫が求められる。
 これらの整備は災害時専用ではなく、平時の授業や地域活動にも活用できる「フェーズフリー」の発想で進めることが、学校施設の価値を高めるカギとなる。

災害時であっても人間としての尊厳が守られる環境整備が求められている

建築・設備面から見た学校防災機能の高度化~耐震・非構造部材対策の深化~

 耐震化率は一定水準まで向上したものの、天井材や照明、空調機器、書架などの非構造部材の対策は依然として課題が残る。特に避難所として使用される体育館では、過去の災害時に天井材が落下し、避難所として機能できなくなる事象が起きていることから、確実な補強が不可欠である。また、多くの体育館は老朽化が進んでいるため、それ以外の外壁・内材についても定期的な点検・補修が必要になっている。
 これらの対策は、児童生徒の安全確保のみならず、災害後に学校を速やかに避難所として開設できるかどうかを左右する重要な要素である。
 文科省が昨年12月に公表した「公立学校施設の耐震改修状況フォローアップ調査」の結果によれば、公立小中学校で吊り天井等の落下防止対策が未実施の屋内運動場は、前年度から26棟減少し、85棟となっている。しかし、吊り天井等以外の非構造部材の耐震対策実施率は約7割にとどまっており、引き続き早期の対策完了を要請しているところだ。

断熱改修と併せた空調整備を促進

 いまだ約2割にとどまる体育館の断熱改修と空調整備は、避難者の健康を守る基盤となるため、なるべく早期に整備率を高めていく必要がある。災害はいつどんな季節でも起こるかも知れず、夏季の猛暑下では熱中症リスクが高まり、冬季には低体温症や感染症拡大の恐れがあるからだ。
 こうしたことから、文科省は2024年に「空調設備整備臨時特例交付金」を創設。避難所に指定されている公立小中学校の体育館などに空調を新設する際、整備費用の2分の1を補助する交付金を2033年度までの10年間にわたって設けている。
 ただし、補助を受けるには、断熱性の確保を併せて実施することが要件になっている。なぜなら、文科省の試算によれば、断熱性を高めた体育館は年間で約50%の光熱費削減効果が期待できるからだ。
 したがって、体育館に空調を整備する際は、高効率空調を導入するとともに、高性能な断熱材などによって屋根や壁の断熱性能を高め、窓を複層ガラスなどに改修することで、室内の温度変動を抑え、冷暖房効率を高めることが必要になる。
 こうした断熱性確保工事とセットにした空調整備の実施は、避難所環境の改善に直結するだけでなく、平時の学習環境向上や光熱費削減にも寄与することが可能になる。それは、環境負荷の低減に向けて学校施設のZEB化を推進する観点からも大きな意味を持つ。
 なお、2025年度からは体育館空調にかかる光熱費への交付税措置(国からの財政支援)も開始。自治体のランニングコスト負担を軽減することで、整備の加速を図っている。

断熱材の種類と特徴

 体育館の中で最も熱損失が大きいのが屋根・天井である。このため、改修において多く採用されているのが、グラスウールやロックウールといった繊維系断熱材だ。これらは不燃性に優れ、比較的軽量で、天井裏への敷き込みや吹き込み施工が可能である点が特徴。既存建物においても構造体への負荷が小さく、改修向きの材料といえる。
近年は、硬質ウレタンフォームやフェノールフォームといった発泡プラスチック系断熱材の採用も増えている。これらは薄くても高い断熱性能を確保できるため、天井懐が限られている体育館でも有効となる。
 外壁については、外断熱と内断熱のいずれか、または併用が検討される。外断熱は躯体全体を断熱材で包み込むため熱橋が生じにくく、結露抑制にも有効であるが、足場設置や外装改修を伴うためコストが高くなる傾向がある。一方、内断熱は体育館内部から施工でき、工期を短縮しやすい利点がある。
 また、体育館の冷えは床から伝わる冷気による影響も大きいことから、床下に断熱材を敷設する方法や、既存床の上に断熱層を設けた二重床構造とする方法もある。

窓・開口部改修による断熱性能向上

開口部の大きい体育館の窓を複層ガラスに改修する

 体育館は大きな窓を有することが多く、開口部対策は断熱改修に不可欠な要素だ。従来の単板ガラスをそのまま使用している場合、熱の出入りが大きく、断熱改修の効果が十分に発揮されない。
 代表的な手法が複層ガラスへの更新だ。空気層を挟んだペアガラスは、単板ガラスに比べて熱貫流率を大幅に低減できる。さらに、空気層にアルゴンガスを封入した高性能複層ガラスや、Loe―E(金属膜)複層ガラスを採用することで、断熱性と日射制御性能を高いレベルで両立できる。
 既存サッシを活用する場合は、内窓を新設する方法が有効である。内窓設置は工期が短く、体育館の利用を止める期間を最小限に抑えられる利点がある。また、窓面積が大きい体育館では、断熱性能を持つ透明パネルや可動式断熱スクリーンを併用する事例も見られる。
 ある自治体では、老朽化した体育館に対し、屋根断熱の強化、内壁断熱パネルの設置、Loe―E複層ガラスへの窓改修を一体的に実施した。その結果、冬季の室温低下が緩和され、暖房稼働時間が短縮されるとともに、光熱費の削減効果が確認されている。避難所として使用した際にも「底冷えしにくく、長時間滞在が可能になった」との評価が寄せられている。
 別の事例では、断熱改修と同時に天井放射パネルや床近傍の暖房設備を導入し、断熱と設備を一体で設計した。断熱性能を高めたことで、空調能力を過度に上げる必要がなくなり、初期費用とランニングコストのバランスに優れた改修となっている。
 このように体育館の断熱改修の材料選定にあたっては、不燃性・耐久性・維持管理のしやすさを重視し、地域の気候条件や利用形態を踏まえた計画が重要となる。断熱性を確保することで初めて、空調設備の効果が最大限に発揮される。学校体育館の断熱改修は、将来を見据えた教育環境整備と防災投資の要であるといえる。

学校防災の高度化は、未来を守るための重要な投資
複数の代替手段でライフラインを維持する

停電時の対策として自立型電源の導入を進める

 災害時に学校が機能を維持するためには、電気・水・通信といったライフラインの確保が不可欠である。停電や断水、通信遮断が長期化すれば、避難所としての学校は十分な役割を果たすことができない。そのため、近年は太陽光発電と蓄電池を組み合わせた自立型電源の導入が進み、停電時でも照明や通信機器、医療機器など最低限必要な電力を確保できる体制が整いつつある。再生可能エネルギーを活用したこれらの仕組みは、平時の環境負荷低減や電力コスト削減にも寄与する点で評価が高い。
 一方で、災害の規模や天候条件によっては、太陽光発電だけでは十分な電力を賄えないケースも想定される。そこで近年、災害時のバックアップ電源として注目されているのが、LPガスの備蓄とGHP(ガスヒートポンプエアコン)を組み合わせたエネルギー供給である。LPガスは都市ガスと比べて供給網が分散しており、被災後の復旧が比較的早いという特長を持つ。学校敷地内に一定量のLPガスを備蓄しておくことで、停電時でも発電機やガス空調を稼働させ、照明や通信機器への電力供給、空調運転を継続することが可能となる。

停電時に露呈する水洗トイレの課題~健康被害や感染症リスクが高まる~

 水の確保においては、断水に備えた受水槽の耐震化や非常用給水設備の整備、井戸の活用が、長期避難を支える重要な要素となる。飲料水や生活用水の確保は、衛生環境の維持や感染症予防に直結するため、電力やエネルギー対策と一体的に計画することが求められる。
 とりわけ、災害時に大きな問題となるのがトイレだ。学校のトイレの多くは水洗式であり、電力や上下水道が停止すると使用不能となる。過去の大規模災害では、トイレ不足が避難生活の質を著しく低下させ、健康被害や感染症リスクを高めた事例が数多く報告されている。児童生徒だけでなく、高齢者や要配慮者が集まる避難所において、トイレ環境の確保は最優先課題の一つである。
 この課題への対応として、多くの自治体で仮設トイレの備蓄・配備が進められている。組立式や簡易水洗式、バイオトイレなど種類は多様であり、臭気対策や衛生管理の観点から、複数タイプを組み合わせた備えが有効である。
 加えて注目されているのがマンホールトイレである。下水道管に直結するマンホールの上に便座と簡易個室を設置する仕組みで、プール水や雨水貯留槽から水を供給することで断水時でも衛生的な環境で使用できる。
 近年は、トイレ機能を備えた「トイレカー」を自治体が導入する動きも広がっている。水洗式で清潔性が高く、バリアフリー対応や多目的トイレを備えた車両もある。災害発生後、避難所となる学校へ迅速に派遣できるため、初動対応力の強化につながる。複数自治体が広域連携により共同運用する事例も見られ、学校を受け入れ拠点とした活用が期待されている。

非常時の連絡手段をどう確保するか

公衆Wi-Fiを整備し、安否確認や情報収集を可能に

 災害時には、停電や通信障害により、電話やインターネットが使えなくなる可能性が高い。学校が避難所として機能するためには、外部との連絡手段を確保し、正確な情報を継続的に受発信できる体制が不可欠である。
 従来の防災無線や衛星電話、非常用Wi―Fiの整備に加え、近年注目されているのがスターリンクに代表される低軌道衛星通信だ。地上インフラに依存せず、比較的簡易な設備で高速通信を確保できる点が特徴で、災害時の臨時通信手段として自治体や学校への導入が進みつつある。避難所運営に必要な情報共有や、教育委員会との連絡手段として有効である。
 情報収集の手段としては、ドローンの活用も重要性を増している。校舎や周辺地域の被害状況を上空から迅速に把握できるため、人的被害や二次災害のリスクを早期に判断できる。通学路の安全確認や、孤立地域の把握にも活用でき、学校防災と地域防災をつなぐツールとして期待されている。
 また、近年では避難所運営の効率化と高度化を目的に、ICT活用が急速に進んでいる。避難者情報のデジタル管理や混雑状況の可視化は、教職員や自治体職員の負担軽減につながる。さらに、建物の被災状況をセンサーで把握する技術や、AIによる避難誘導支援は、初動対応の精度を高める可能性を秘めている。
 学校施設整備においては、断熱・空調・電源といった基盤整備に加え、トイレや通信、情報収集までを含めた「止まらない学校」を構想する視点が求められている。災害時にも教育と生活を支え続ける学校づくりは、地域全体のレジリエンスを高める重要な投資である。

地域全体のレジリエンスを向上する

 学校は学びの場であると同時に、地域社会を支える公共資源だ。防災庁設置という大きな政策転換を追い風に、学校防災は新たな段階へと進もうとしている。
 教育現場、自治体、企業が連携し、平時にも価値を生む防災機能を備えた学校づくりを進めることが、地域全体のレジリエンス向上につながる。学校防災の高度化は、未来を守るための重要な投資であり、その成果は次世代へと確実に引き継がれていくのである。

備蓄の在庫管理・更新も計画的に

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