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いのちの授業 “陸養”プロジェクト・子どもたちの葛藤【第1回】

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海について、学び、考える

“陸養”プロジェクトとは

 「陸養」とは、「陸上養殖」の略です。陸上養殖は、陸上で人工的に水槽等を設置し、養殖を行う産業です。
 環境変化に伴う海水温の上昇や海洋ごみ問題、乱獲等により、世界規模で漁獲量は減少しています。日本も例外ではありません。そんな中、自然災害や海水汚染の影響が少なく、海洋上での養殖と比較して低コストといわれる陸上養殖は、新たな水産資源産業として、全国各地で取り組みが進められています。
 2018年、青森県・東京都・富山県・愛媛県・長崎県の1都4県、6小学校で、約200名の小学5年生が校内での陸上養殖にチャレンジする「“陸養”プロジェクト2018」に挑戦しました。
 小学校内にオリジナルの水槽と、海水を循環させる濾過装置を設置。クエなど3種の稚魚を半年間成育する、まるで学校に「海がやってきた」かのような取り組みです。

背景は海洋問題と人々の「海離れ」

 昨年、日本財団が行った『「海と日本人」に関する意識調査』によると、全国の11000人超に調査を行った結果、全体の3分の1が、「この1年海に行っていない」と回答しました。特に10代の4割が海に行った日数は「0日」という結果が出ています。

*出典:日本財団 「海と日本人」に関する意識調査の結果について
 https://www.nippon-foundation.or.jp/app/uploads/2019/07/new_pr_20190708_01.pdf

 海に親しみや興味を感じないことは、水産資源の枯渇、異常気象による夏の猛暑や台風の大型化による大規模災害など、海に関連した諸問題に目を向ける人が少なくなり、問題の放置につながりかねません。そこで、日本財団は、2016年、子どもたちを中心に海への関心や好奇心を喚起し、海の問題解決に向けたアクションの輪を広げることを目的に、オールジャパンで推進するプロジェクト「海と日本プロジェクト」をスタートさせました。
 今回の“陸養”プロジェクトも、この「海と日本プロジェクト」の一環として行われています。
 このプロジェクトでは、子どもたちに陸上養殖を通して、能動的に考え、行動してもらい、子どもたちが住む地域の海の問題なども知ることで、海の恵みや命の大切さを学んでほしいと思っています。

2019年度は全国6地区・7小学校で実施

 “陸養”プロジェクトは魚の「養殖」を行います。金魚やメダカなどのペットとは、意味合いも育て方も大きく異なります。また、プロジェクトの最後に、自分たちで育てた魚の行く末を子どもたち自身で話し合い、結論を実行します。この議論「いのちの授業」と結論の実行が、このプロジェクトでは重要な部分です。

 2018年度、子どもたちは魚の日々の世話に悪戦苦闘しながら、専門家の座学や自主学習等で自分の地域の海の現状や養殖の種類、魚の生態等について学びを深め、養殖の意義について考えを深めていきました。そして、育てた魚をどうするか、議論の結果、「食べる」「水族館に渡して育て続けてもらう」「譲り受けた養殖場に返し大きく育ててもらう」など、各校で様々な結論が出たのです。結論は異なりますが、愛情込めて育てた魚との別れを伴う決断は、全ての子どもたちにとって、辛く厳しいものでした。結論を実行する授業の際には、涙する子どもたちが各校で見られました。

 2019年度の“陸養”プロジェクトは、実施校が拡がり、全国6都県・7校(青森県青森市・千葉県野田市・富山県射水市・東京都台東区・東京都渋谷区・愛媛県伊予市・長崎県長崎市)にて、活動をしています。
 今年度の7校の子どもたちは、半年間育てた魚をどうするか。結論を出すまでの葛藤や結論を実行するときの様子を、次回からお伝えしていきます。

 陸養プロジェクト公式HP https://rikuyou.uminohi.jp/
 陸養プロジェクトは、日本財団 海と日本プロジェクトの一環として行われています。
 カリキュラム企画・水槽考案 NPO日本養殖振興会

いのちの授業 “陸養”プロジェクト・子どもたちの葛藤