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エネルギー問題をどう考える?教科間連携で育む主体的・対話的で深い学びの実現【第10回】

7面記事

企画・制作=日本教育新聞社
協力=原子力発電環境整備機構

とやまエネルギー環境教育授業研究会 各教科の狙いを達成するクロスカリキュラム「環境」の開発

 エネルギー・環境問題は未来を生きるための切実なテーマの一つ。子どもたちが、この問題を「自分ごと」として認識し、考える力を伸ばすには、教員側がエネルギー環境教育に関心を持ち、その輪を次世代につなげることがカギとなる。とやまエネルギー環境教育授業研究会(代表=本田智・高岡市立高陵中学校教頭)は、校種や教科を超えた教員が集い、小・中学校でのクロスカリキュラム「環境」を研究する。

教科横断型授業のモデル実践として

 2017年に開催した「富山エネルギー環境教育セミナー」を機に発足したとやまエネルギー環境教育授業研究会は、エネルギーや環境の問題を現代的な課題と捉え、教科横断型のクロスカリキュラム「環境」の開発に力を入れる。
 同会が設立されたのは、現行の学習指導要領の改訂に向けた議論が大詰めを迎えていたころだった。教科等横断的な視点に立ち、児童・生徒の課題解決能力を育むことが方向性として示される中、エネルギー環境教育で実現しようというのが出発点だ。
 「本会の提案するクロスカリキュラムは現行の学習指導要領の学習内容の範囲内で実践できることにこだわっている」と話すのは、前代表の田中広光氏(前・高岡市立牧野中学校校長)だ。一部の関心の高い地域や教員が取り組む実践の集積ではない。「特別な単元や時間を追加することなく、各教科の単元を学習しながら教科間の連携を図ることで、より深くエネルギーや環境について学習できる。各教科の狙いの達成を第一にする、そんなカリキュラムを目指している」と、本田代表は話す。
 現在、小中学校の教員を中心に20人が年3~5回のペースで研究会を開催、勤務校で試みた実践を持ち寄り、意見交換してカリキュラムのブラッシュアップを図る。年に1度の全体会、全国研修会の参加と活動は盛んだ。
 昨年度は中学校をメインに単元開発を進めた。テーマは、中学3年3学期の「持続可能な地球にするために」。全体計画11時間、社会科、理科、保健体育科、技術・家庭科による合科単元だ。「第1次 温暖化から地球を守ろう」「第2次 ゴミ問題から地球を守ろう」「第3次 持続可能な社会をめざして」の3部からなり、異教科の教員によるチーム・ティーチング(TT)の授業や合科授業を提案している。
 「第2次 ゴミ問題から地球を守ろう」で高レベル放射性廃棄物の処分問題を組み込んだ。全4コマで、「ゴミと省エネルギー」(技術・家庭科と保健体育科の合同授業)、「カーボン・ニュートラル」(技術・家庭科と理科)のテーマで学んだのち、後半で「放射性廃棄物」として社会科と理科のTTで授業をする。生徒は新聞記事をもとに高レベル放射性廃棄物の処分問題を知り、原子力発電環境整備機構(NUMO)の出前授業を活用して地層処分事業についての現状と課題を学習する。その後、「もし私たちの校区が処分場に選ばれたら」と仮定して意見をグループワークでまとめた。

本田智代表(左)と、田中広光前代表(右)

現地を取材し教材研究を深める

 今年度は、エネルギー環境教育を小中一貫教育の柱にすべく小学校でのクロスカリキュラム作成に力を入れる。
 9月初旬に高岡市内で開かれた幹事会では異なる学年で連携できそうな教科と単元、中学校での内容との接続を洗い出した。「教科担任制の中学校と違い、小学校では異教科連携といっても担任1人が実践を広げる形になる」「家庭科などの専科教員の活用も考えられる」―など、それぞれの立場から意見を交換した。
 富山高等専門学校の小熊博教授からは、ロシアのウクライナ侵略をきっかけにした現在の世界のエネルギー事情のレポートがあった。エネルギーにまつわる情勢は日々変化していることから、研究会では正しい最新情報の収集に努めている。
 同会を支えるのは会員の授業にかける思いと行動力だ。富山大学教育学部附属中学校の早川晃央教諭は、地層処分の文献調査が始まった北海道の寿都町と神恵内村を訪問して、取材した。メディアの情報だけに頼ることなく、自身の目で情報収集し授業に生かす姿勢を田中前代表は「PDCAではなくDCAPサイクル。授業を原点とする本道だ」と評価する。11月には地層処分問題の視点から北海道地方を多角的・多面的に考察する社会科・地理分野の授業を行う予定だという。

9月3日に高岡市で開かれた幹事会

NUMO 教育支援情報
 NUMOは授業研究会への活動支援や出前授業にも取り組んでいます。
 https://www.numo.or.jp/eess/
 これまでのインタビュー記事も掲載しています。

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