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子どもたちが目を輝かす理科授業を

8面記事

企画特集

「観察・実験」で実感を伴った理解を育む
新・理科教育特集

 今年度、小学校を皮切りに新学習指導要領による教育が本格的にスタート。理科では、子どもの興味関心を引き出し、自ら課題解決する力を育むために「観察・実験」授業が重視されている。また、プログラミング教育が必修化した中で、第6学年の「電気の利用」での実践が教科書に例示されるなど、主要教科としての取り組みに期待が集まっている。そこで、このような体験的&協働的な学びの機会が理科教育に求められる背景を整理するとともに、それらの活動を効果的に支援する理科機器・教材を紹介する。

予測困難な時代に生きるために
 グローバル化の進展や人工知能(AI)の飛躍的な進化など絶え間ない技術革新によって、今の子どもたちが社会で活躍する頃には、社会構造や雇用環境が大きく変化することが予想されている。今後の学校教育には、そうした予測が困難な時代の中でも社会の担い手として生き抜いていける、新たな価値や創造を生み出す人材を育成していくことが必要になっている。
 こうしたなか、理科の学習の面白さは、自然の中にある不思議に気づき、それを解明していくことにある。そのことを踏まえ、新学習指導要領では、課題の把握(発見)、課題の探究(追究)、課題の解決という探究の過程を通じた学習活動を行い、それぞれの過程において資質・能力が育成されるよう指導の改善を図ることが必要であるとしている。

「観察・実験」で課題解決する力を
 また、国際調査でも明らかになっている通り、理科好きな子どもが少ない状況を改善する必要があることから、子ども自身が「観察・実験」を中心とした探究の過程を通じて課題を解決したり、新たな課題を発見したりする経験を可能な限り増加させていく必要があることを示唆している。
 だからこそ、「観察・実験」によって実感を伴った理解を導き出すことや、その学習が日常生活や社会の中でどのように生かされているかを考えたり、確かめたりすることが大切になるのだ。
 その上で、理科ならではの「見方・考え方」を働かせ「深い学び」につなげていくため、あるいは子どもの興味・関心を高めていくために、実験器具等の整備の充実やICT環境の整備を図っていくことを求めている。

理科機器の充実に向けた動き
 このような新学習指導要領が掲げる「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)を実現するためには、「観察・実験」等の充実のための授業時数の増加や、小学校における理科専科教員の投入推進などに加えて、理科室に備える設備機器を充実させる必要がある。
 しかし、各自治体の財政状況や考え方により、その整備状況に差が生じていることが課題だった。このため、文部科学省では、新学習指導要領に対応する教育条件整備策の1つとして、昨年度に「教材整備指針」の改訂を実施。今回の改訂では、既存の指針の枠組みを維持しつつも、新学習指導要領や、昨今の技術革新、学校における働き方改革等に対応する教材を新たに位置づけるなどを行っているのが特徴だ。
 その中では、新学習指導要領関連として、プログラミング教育用ソフトウェア・ハードウェア(小学校)や発表板。技術革新等関連として、視線・音声入力装置(特別支援学校)、3Dプリンター(中学校)。学校における働き方改革関連として、拡大プリンター、複合機などを例示している。

今後10年間で8千億円を投入
 また、これを踏まえ、今年度からの計画的な教育環境整備に関する財政措置の見通しとなる「義務教育諸学校における教材整備計画」を策定し、今後10年間で総額8千億円(単年・約800億円)を計上した。
 なお、理科教育設備整備等補助金の指定品目についても、新学習指導要領に合わせて一部改正が行われ、小学校では、電気の利用プログラミング学習セット、デジタル気体チェッカー(酸素センサー含む)、生物顕微鏡、標本が立体的に見える双眼実体顕微鏡、提示用顕微鏡などが新規品目として加えられている。※顕微鏡は生物顕微鏡と双眼実体顕微鏡と分けて表示。
 そのほか、近年になって実験などに使う加熱器具として、小学校の教科書でも推奨されている「理科実験用カセットコンロ」を導入する学校が増えている。火の扱いが不慣れな子どもが多い中で、アルコールランプやガスバーナーよりも安全かつ操作しやすく、火の強さを調整できるため均一な実験結果が得やすいなどの強みがあるからだ。

時間を効率的に使えるICT活用
 一方、理科の授業での「実験・観察」を効率的・効果的に実現するために必要になるのが、ICT機器の活用になる。
 問題解決を重視する理科の学習では、子どもたちが解決したい問題に対して予想や仮説を立て、それを確かめていく活動をなるべく多く取り入れていく必要がある。だが、授業時間が限られる中で、いつも観察や実験を行うことは難しい。そこで、単元によってはインターネットの実験映像を電子黒板に提示するなどICTを上手く活用することで、時間を効率的に使って深い学びにつなげることができるからだ。
 たとえば、ICTを活用すれば、分子や大地の動きなど実際には見られないものも見られる。しかも、タブレットを使えば調べることはもちろん、グループで話し合ったり、まとめたり、発表したりといった活動につなげることも容易になる。あるいは、「観察・実験」の結果を明確にするためにも、ICTを活用することは効果的だ。
 こうした教育のICT化に向けた環境整備に対応する教材は、「教材整備指針」とは別に「2018年度以降の学校におけるICT環境整備の方針」等を踏まえて整備が進められてきたが、現在急ピッチで進められている『GIGAスクール構想』によって1人1台端末や高速大容量ネットワーク環境が整備されることで、理科の授業にも大きな変化をもたらすことが期待されている。すなわち、新学習指導要領が掲げる、より個々の主体的な学びや協働的な学びをもたらすことになる。

「学習者用デジタル教科書」の普及に期待
 ただし、ほとんどの教員は1人1台端末を使って授業するのは初体験になるため、インフラさえ整えば、すぐに誰もがそうした授業が実現できるわけではない。その意味で、多くの教員に1人1台端末を使った授業を可能にさせるためのカギを握っているのが、「学習者用デジタル教科書」の普及といえる。なぜなら、すでにほとんどの教員は「指導者用デジタル教科書」の活用によって、その使い方や指導方法に慣れているからだ。
 現在導入が進められている新学習指導要領に準拠した「学習者用デジタル教科書」は、二次元コードやURLを掲載し、リンクしているデジタル資料や教材を呼び出して活用できるなどの機能も増えており、子どもたちがより主体的にアクティブに学ぶことができるツールに進化している。それは、現在の教員から生徒への情報伝達型の授業方法を、教え合い学び合う双方向型授業へと移行させるツールにもなる。
 文部科学省においても、こうした学習者用デジタル教科書を使った効果的な学習を普及するため、実践事例集をつくって公表している。小学校・第3学年の「電気」の例では、デジタル教科書と連携したデジタル教材(実験手順の動画)によって、児童は実験の手順を確認しながら安全に実験を行うことができる。また、デジタル教科書と連携して実験結果を整理するツールによって、実験結果を視覚的に整理・共有することが容易になり、実験を通した問題解決学習が活性化されるとしている。

デジタル化が進む理科機器と合わせて
 さらに、理科機器のデジタル化によって、コンピュータと連携することも容易になっている。たとえば、デジタル顕微鏡はモニターが付いていることで仲間と一緒に確認できるのはもちろん、タブレット経由で電子黒板に転送して実験の状況をリアルタイムに共有化し、クラス全体の学びに活用することもできるようになっている。
 こうしたデジタル化の波は「教材整備指針」でも顕著だ。「実験・観察」の過程での情報の検索、実験データの処理、実験の計測などにおいて、コンピュータや情報通信ネットワークなどを積極的かつ適切に活用することを示すとともに、学校全体で共有可能な教材として、実物投影機、マイクロスコープ、イメージスキャナなどが品目化されている。

コロナ禍でも「観察・実験」の機会を
 資源の乏しいわが国にとって、将来の産業界を担う理工系人材の育成は重要な問題だ。そのためには小学校段階から、社会の中で生きて働く知識を獲得することを目的に、素養を深めていくことが必要になる。
 なかでも、理科は他教科にはない体験的な「観察・実験」を通じて、我々が生きる上で欠かせない自然との関わりや、社会を動かす技術・科学への興味を生み出す大切な教科になる。コロナ禍によって授業数が減少する中でも、そんな貴重な学びの場をなるべく多くつくってほしい。

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