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主体性引き出す授業と評価を発表 第8回 夏の教育セミナー(9月18~26日)報告

10面記事

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日本教育新聞社・(株)ナガセ主催

 9月18日から26日までオンラインで開かれた夏の教育セミナー(日本教育新聞社・ナガセ主催)の第2弾は、来年度から高校で、学年進行で始まる新学習指導要領下の授業づくりと学習評価がテーマ。生徒の主体性を引き出す授業の在り方などが発表された。

基調講演
学習評価ますます重要に
石田 有記 文科省初等中等教育局教育課程課教育課程企画室長

「リポートや定期考査の結果を返却するだけでなく、何が課題だったか、その課題を解決するためにはどうしたらいいのかを伝えることが大切ではないでしょうか」
 来年度から始まる新学習指導要領に絡んで、文科省の石田有記・教育課程企画室長は学習評価の意義をそう強調した。身に付けるべき「資質・能力」に焦点化した今回の学習指導要領では、これまで以上に学習評価の重要性が高まった。観点別学習状況評価の導入もその一環だ。
 石田室長は、観点別評価は「これまでも行われてきたが、地域や学校によって取り組みに差があった」として、文科省が指導要録の参考様式を見直し、評定・単位数とともに記入欄を新設したことを説明した。これにより来年度以降、全国の高校で導入される。
 観点別評価を巡っては、評定への反映や、「主体的に学習に取り組む態度」と学習指導要領の目標・内容にある「学びに向かう力、人間性等」との関係整理が高校現場の課題となりそうだ。石田室長は「学びに向かう力、人間性等」を構成する「主体的に学習に取り組む態度」は、粘り強く学習に取り組んでいるかを評価するもので、「感性や思いやり」などは、観点別の評価や評定になじまないとして、個人内評価をするものであることなどを話した。
 受講者からの質問でも、評価の観点の重み付けに関する内容が寄せられた。石田室長は「学校の中で信頼性や妥当性を高める取り組みを工夫してほしい」と話し、組織として統一を図ることを求めた。

国語
話しやすいテーマで対話練習
河口 竜行 渋谷教育学園渋谷中学高校(東京・渋谷区)教諭

 国語では河口竜行・渋谷教育学園渋谷中学高校教諭が、生徒の主体性を伸ばす授業づくりについて話した。
 主体的に学ぶようになるために必要なことを、国語を勉強する意味や授業と自分の力とのつながりを感じられる体験と、教室での信頼感・安心感だと強調した。
 そのために取り組んでいることの一つが「対話の練習」だという。話しやすいテーマを設定し、相手の言うことを評価も否定もしない。うなずき、あいづちを使ってよく聴いていることを伝える―。こうした練習で身に付けた「対話」の力が、そのまま国語の力へとつながる。「仲が良いかどうか、男女グループかは関係なく、すぐに話し合いには入れるようになります」
 後半は授業例を紹介した。3年生の「入試問題演習」では、入試の出題問題の解答を生徒たちに考えさせる授業だが、予備校などが出している解答例を比較・吟味し、自分たちの解答例を作らせる。また学期終わりなどにまとめる振り返りシートには、学んだ内容などとともに「今後、具体的にどう学んでいくか」などを記入させ、そこでの記述が学習意欲の評価に使えると話した。

数学
指導と「目標」の目線そろえて
堀内 陽介 広尾学園中学校・高校(東京・港区)教諭

 授業づくりで学校現場に求められてきた「指導と『評価』の一体化」。堀内陽介・広尾学園中学校・高校教諭は「目標に向かった指導があって初めて評価を考えることができる」として、この言葉を言い換えた「指導と『目標』の一体化」をテーマに講演した。
ことを証明する問題を例に「背理法で証明する」ことが知識として伝わっている可能性があると指摘。生徒が「考える」授業の重要性を強調した。考えることに重点を置いた授業として、同高本科コースの1、2年生を対象に行った集中講義を紹介した。国公立大学の入試問題を題材に、生徒たちに「無知の知」や安易に信じ込むことが考えることを阻害すると実感してもらったという。
 所属する医進・サイエンスコースの授業では本年度、解答を複数考える「別解ワーク」、グラフ作成ソフトを活用する「実験ワーク」、解答に制限時間を設けた「タイムトライアルワーク」などに取り組んでいる。ウェブ検索や参考書の参照を認め、生徒同士が考えを共有し合う活動だ。
 堀内教諭は「まずは3観点を育成するような授業をする。評価は試験や教員の見取りで行える」と話した。

英語
身に付ける能力、生徒が理解
山本 崇雄 新渡戸文化小中学校・高校(東京・中野区)教諭

 「個人と社会の幸福のために行動する人材の育成」。これはOECD(経済協力開発機構)が掲げる教育目標だ。英語を担当した新渡戸文化小中学校・高校の山本崇雄教諭は、新指導要領の三つの新たな観点がこの教育目標の基礎を担うものであると明言し、コンピテンシー・ベースの学びと授業への変換を訴えた。
 そのために必要なのは「身に付ける資質・能力を生徒自ら理解する」。そして「評価しやすい仕組みを作る」ことだと山本教諭は強調する。例えば、学期の初めには、学ぶ目的や、なりたい自分を明確にし、具体的な行動につなげるための「エンゲージメント週間」を設定し、自律的な学習者としての土台を作る。単元テストで知識の定着を図りつつ、中間テストに当たる「実力テスト」で「主体的に取り組む態度」を評価する。その際、テストの点数はあえて成績に加味しないことが肝心だという。
 また、生徒の自律的な学習状況を把握するため、学習した日数や総時間が学習ログとして残るタブレット教材「Qubena」の活用も挙げた。実践例を示しつつ、生徒が自らの目標に向かって自律的に学ぶシステム作りの重要性について話した。

英語
知識伝達から活用中心へ
安河内 哲也 東進ハイスクール・東進衛星予備校講師

 安河内哲也・東進ハイスクール講師はこれからの英語指導法について解説した。新学習指導要領やその解説を踏まえ、「知識伝達から活用中心の授業になる」と指摘。説明が続くところでは、身振りに加え、画面越しから「それはなぜ?」と問い掛けるなど、視聴者の興味・関心を引き付ける工夫が随所に見られた。麹町学園女子中学校・高校で英語科特別顧問を務める安河内氏。同校で成功を収めた英語教育改革についても紹介した。
 「文法などの細かい部分は使いながら学ぶことが大切」とし、身に付けるべき点は「英文を日本語に訳さず、左から右へと理解する『直読直解力』」と語った安河内氏。「私たち教師の学び方が生徒の学び方になる」とも述べた。さらに、言語活動で5領域を有機的に組み合わせ、インプットとアウトプットの活動を何度も組み合わせることの大切さを説明。オンライン授業のポイントを解説する場面もあった。
 何かを達成するために大切なこと、その一つは「始めること」で、もう一つは「継続すること」だという。最後に視聴者に向けて「Enjoy teaching!」とエールを送った。

情報
数学科と関連付けた指導も
中野 由章 工学院大学附属中学校・高校(東京・八王子市)校長

 情報を担当した中野由章・工学院大学附属中学校・高校校長は、来年度から始まる新学習指導要領で必履修科目となる「情報Ⅰ」を中心に詳しく解説した。また、観点別学習状況評価について「主体的に学習に取り組む態度」など3観点も説明した。
 中野校長は、新学習指導要領のポイントをつかんでもらうために▽情報デザイン▽プログラミング▽データの活用―が新たに加わる単元であることを、情報科の変遷をたどりながら確認し、教科目標の「情報の科学的な理解」が、「数学科」の「データの活用」に関連付けて指導しやすいことを強調した。
 視聴者が授業を実践しやすいように、導入教材を使って実演もした。プログラミングコードの入力されたブロックを並べ、イラストを動かす「ピクトグラミング」などを紹介し、失敗しながらもプログラムに楽しげに取り組む様子を見せた。
 3観点の評価となる観点別評価については、「教科」や「単元」ごとの評価規準を提示しながら話を進め、毎時間で評価する必要はないことを指摘。その上で、生徒・教員にとって評価を意味のあるものにしていくことの重要性を強調した。

探究
「なぜ行うか」を出発点に
酒井 淳平 立命館宇治中学校・高校(京都・宇治市)教諭

 「『どのように』行うかではなく、『なぜ』行うのか。この問いを全ての出発点にしてほしい」。探究を担当した立命館宇治中学校・高校の酒井淳平教諭は、冒頭でまずこう語り掛けた。酒井教諭の現在の結論は「生徒を『お客様』から『生産者』に育てること」だという。従順だが受け身の生徒を、自ら考え行動する生徒に育てるという意味だ。そのために同校では、高校3年間で6サイクルの探究活動を行っている。
 中でも高2で行う「チョコプロ」は、生徒の取り組みをブラッシュアップする好例だ。「チョコプロ」とは「ちょこっとマイプロジェクト」の略。やりたいこと・できること・必要なことの三つが重なり、かつ「1週間で完結できる身近なテーマ」という意味が込められている。それは「多くの生徒が立派なプロジェクトを計画できるものの行動できない」という反省から生まれた。「とにかく実行し、PDCAサイクルを回すことが重要」と話した。
 酒井教諭は授業見学等いつでも受け付けているとした上でメールアドレスを公開し、「皆さんと共により良い取り組みを創っていきたい」と呼び掛けた。

各大学が入試情報発信
数学必須の早大政経、女子の入学が増加
青学の志願者、前年の7割

 早稲田大学は政治経済学部の一般選抜で大学入学共通テストを課し、数学の点数を合否に反映させて話題を集めた。日本語と英語の長文読解などで構成する「総合問題」を出したことも大きな変更点だった。入学者のうち、女性が占める割合は23・0%から31・8%へと増えたという。
 上智大学の一般選抜はこれまで、大学入試センター試験を利用してこなかったが、今春の入試では、大学入学共通テストの結果を交えた入試方式を導入した。前年度の入試と比べると、志願者数は114人増え、2万6270人となった。
 青山学院大学の一般選抜は昨年度から、共通テストと独自試験の結果と合わせて合否を判定する枠を中軸に据えることとした。志願者数が前年の7割ほどにまで落ち込んだ。この結果について、入試制度の変更について調べる余裕が乏しかったのではないか、コロナ禍により都市部の大学を回避したのではないかといった見方を示した。
 一般入試は一部を除き同一学部を最大で5回まで受けられるよう昨年度から改めた立教大学。独自の英語試験は撤廃し、大学入学共通テストか外部試験を合否判定に使うこととした。志願者数は7%増となった。
 東京大学は昨年度、学校推薦型選抜を改めた。高校が推薦できる人数を1校当たり2人から男女各3人以内の最大4人までに変更した。合否判定は出願書類、面接結果、共通テストの成績の三つを総合的に評価している。共通テストでは約8割以上の得点を求めているという。
 京都大学は、新学習指導要領に基づいて実施する令和7年度入試について説明。来年12月には、共通テストで利用する教科・科目、個別学力検査で実施する教科・科目などについて結論を出したい意向を示した。

参加大学(50音順)
 青山学院、大阪、関西、関西学院、京都、慶應義塾、神戸、上智、中央、東京、同志社、名古屋、一橋、広島、法政、北海道、明治、立教、立命館、早稲田

「学習評価等の参考資料」、校内で共有
受講者の声

【基調講演】 終盤の「学習評価等の参考となる資料」は自分では見つけにくいので、提示していただいてありがたい。ダウンロードできるものは校内で共有したいと思う。
(北海道・男性)
【英語】既存の流れを継続することに甘んじていたように思う。多様な社会で生きていく力を持てる工夫を講演から感じた。 (福島県・男性)
【国語】自分自身がまさに「変われていない」考え方の典型をしていると改めて思った。要約の字数を変えてグループごとに考えさせることをやってみたい。(茨城県・女性)

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