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ICT教育を成功させるコツ 子どもの「生きる力」を育み、先生の校務負担を減らすには? 有識者に聞く

2面記事

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左から山田氏、平井氏、葉一氏

 いま、学校教育が進化しようとしている。「GIGAスクール構想」で1人1台端末が整備され、 ICT 教育や校務改革の下地ができた。しかし、急激な変化に対応できていないケースも多い。
 変わる教育環境と子どもたちへの向き合い方を探るべく、有識者を招いたセミナー「学びの“カタチ”を見つめなおす」をITmedia ビジネスオンライン編集部が主催した。そこから、ICT 教育の在り方やツール活用のノウハウを紹介する。

文科省×専門家対談 ICT 活用の鍵は「小さな成功体験」

 「1人1台端末の整備が進み、かつてない良い環境ができました。ICT 活用を進めて、子どもたちの学びに役立ててほしい」―こう話すのは文部科学省の山田哲也氏(初等中等教育局修学支援・教材課長)だ。


文部科学省の山田哲也氏

 学習指導要領の「生きる力」を育む探究的な学習を進める上で、 ICT に期待が集まっている。しかし現場での活用はそう簡単ではない。ICT 端末を毎日活用する割合は、授業で使っている小中学校は全体の約50%、「自分で調べる場面」での利用は全体の約20%に減り、「考えをまとめて発表する場面」ではさらに減少する(文部科学省「令和4年度全国学力・学習状況調査」より)。
 この状況を「英検」に例えるのは、学校 DX を支援する平井聡一郎氏(情報通信総合研究所)だ。調べる場面は4級、考えをまとめる場面は3級に相当し、ここまでは基礎編だ。2級―作った資料をクラウドに保存して、子ども同士でコメントし合うといった使い方が新しい学び方になる。本物の英検同様、3級と2級の間に大きな壁があるという。


情報通信総合研究所の平井聡一郎氏

 では ICT 教育をどう進めていけばいいのか。大切なのは普段使いを浸透させることだ。 「いつでも使う。どこでも使う。自由に使う。ハードルが低い利用法で便利さを実感してもらえば次につながります」と平井氏。
 具体的には、先生と子どもたちのコミュニケーションを Microsoft の教育プラットフォーム「Teams for Education(以下Teams)」に置き換える、資料をクラウド上で共同編集するなどだ。小さな成功体験が ICT 教育を大きく進める第一歩になると両氏は話す。

教育 YouTuber「学びのヒントは子どもが持っている」

 ICT 教育をいざ進めようにも、慣れない機器やツールを使って子どもたちを導く難しさがある。実は「学びのヒントは子どもたちが持っている」と話すのは教育 YouTuber の葉一氏だ。


教育 YouTuber の葉一氏

 小学生~高校生向けの授業動画を投稿すると、復習や予習、練習問題の解き方などを子どもたち自身が考えて勉強しているという。新しいツールやコンテンツを活用する力を子どもたちは持っている。そこで教える側として葉一氏が重視するのは、達成感や成長実感を覚える仕組み作りだ。約10分の動画で何を学べるのか最初に伝えて成功のイメージを持ってもらうことが大切だと話す。これは YouTube に限らず、授業やツールで得られるメリットを自信を持って伝えることが、新しい学びを定着させるコツだという。

ICTを日常的な文房具に 校務負担も軽減

 ここからは、具体的な ICT ツールから新しい教育のカタチを考える。教育分野で25年の経験を持つ Sky は、ICT を日常的な文房具として使う姿を目指している。
 同社が学校向けに展開するクラウド型 Web システム「SKYMENU Cloud」は、双方向型授業からプレゼンやグループワークまで幅広く活用可能だ。先生の視点では、添削や再提出がオンライン上で完結するため、作業時間の短縮につながる。
 また子どもたちの学習を見守れる機能も備えており、各端末の画面を一覧表示して困っている子どもをサポートしたり、思考の過程を可視化したりする機能もある。学習を一元的に管理し、先生にも子どもにも便利な ICT 活用を支援する。

クラウド型の学校向け Web システム「SKYMENU Cloud」
 https://www.skymenu.net

社会人が使うツールを学校で Office 活用で働き方改革も

 日本マイクロソフトは、一般企業や社会人が使っている「Office アプリケーション」やセキュリティ機能などを教育現場向けにパッケージ化した「Microsoft 365 Education」を用意している。
 企業などで使う通常版を基にしたツールなので、子どもの ICT 教育や ICT リテラシーの育成につながる。先生の働き方改革としても活用でき、業務の中で使い方を学んで授業に応用することで ICT 教育を成功に導ける。
 さらに Teams の「Education Insights」という機能で学習ログをグラフ化して、授業へ参加率や課題の提出状況、学習テストの結果などを一目で確認できる。データを可視化して、これまで経験に頼っていた授業や教育施策の改善に役立てられる。

マイクロソフトの提供するGIGAスクールパッケージ(microsoft.com)
 https://www.microsoft.com/ja-jp/biz/education/default.aspx

ICTの教育 地道な一歩が未来につながる

 いま学校で教えるのは教科書の内容だけではない。子どもたちの生きる力を育てる必要があり、そのためには ICT の活用が欠かせない。まだ先生も子どもたちも手探り状態かもしれないが、成功事例のノウハウやサポートツールを使って一歩ずつ地道に進んでいくことが大切だ。

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