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授業での効果的なICTの活用とは「端末を使うこと」を目的としない新しい授業スタイルへ(1)

12面記事

ICT教育特集

スプレッドシートの活用ですべての意見を端末で確認できる

埼玉県所沢市立松井小学校

 現在、小・中学校では、GIGAスクール構想により1人1台の端末の整備がほぼ完了し、高等学校においても令和6年度までに全学年で端末が整備される予定となっている。今後、学校現場では、どのようにICTを駆使して個別最適な学びを実現していくかが課題となる。今回は、ICTを活用した「話し合い活動」の授業の様子について、所沢市立松井小学校の齋藤駿教諭に話を聞いた。

話し合いで課題解決力を向上
ICTの活用で作り出す話し合いの新しい形

スプレッドシートを活用して行う新しい「話し合い活動」の形
 所沢市では令和3年度より児童に1人1台のChromebookを配布。松井小学校はICTの授業への導入意欲が高く、PCを積極的に利用している。齋藤駿教諭は昨年度より所沢市特別活動授業実践研究員のメンバーとして、「特別活動」の科目を担当している。昨年度担任した6年3組の学級活動(1)話し合い活動では、事前準備から当日の進行まで紙と黒板は使わず、すべてPCだけで授業を実施した。

意見の集計・話し合いはICTを活用して効率的に
 授業を始める前に行うのが、活動がスムーズに実施できるようにするための事前活動。事前活動は、司会、副司会、記録の役割を担い、会の全体を進行する「司会グループ」(5人で構成)によって行われる。
 司会グループがまず行うのが、授業で行う話し合い活動の議題決め。Googleフォームを利用して、クラス全員から議題についての意見を募った結果、卒業の時期が近いということから「6年3組の絆が深まる会を開こう」に決定した。
 次に行うのは、決定した議題を提案した児童への提案理由の聞き取り。その理由をもとに「話し合いのめあて」「柱」を齋藤教諭と話し合う。今回の「話し合いのめあて」は、「卒業に向けてみんなの思い出に残る絆が深まる会にしよう」。「柱」は3つ、

 (1)「なにをするか」
 (2)「めあてに近づける工夫」
 (3)「役割分担」

 ―となった。ここまでに決まったことを「話し合い活動カード(スプレッドシート)」にまとめて、Google Classroomにてクラス全員に配信する。齋藤教諭は、「司会グループでの事前活動を紙で行うと誰か一人がまとめることになり時間がかかるが、スプレッドシートを使えば、情報を一斉に編集でき、みんなで意見を練り上げられる。以前よりずっと効率的だ」と話す。
 次にスプレッドシートで共有した柱に対する意見をGoogleフォームで集める。例えば、柱(1)「なにをするか」では、ドッジボールや陣取り、鬼ごっこなど絆を深めるためになにを実施したいか意見を収集する。その後、集計結果を司会グループが「話し合い活動カード」でクラス全員に配信し、最後に不明点など聞き取って、事前活動は終了だ。

ICTを通して、活発な話し合いが可能に
 いよいよ授業に入る。話し合い活動は、「出し合う→比べる→まとめる」の順で行う。「出し合う」のプロセスは既に事前活動で完結しているため、「比べる」から始める。「比べる」では、事前に集めた意見の反対・賛成意見を述べ合う。「私は陣取りに賛成です。理由はチームで協力し合い、信頼が深まるからです」など挙手で意見を発表し、司会グループの記録の児童が発表された意見について、賛成、反対の投票をする。
 また賛成、反対の理由の記録もスプレッドシート上に記入する。「板書では司会グループの黒板記録の児童が意見に対する理由を一つ一つ箇条書きにしかできなかったが、スプレッドシートならすべての意見を見渡すことができる。さかのぼって意見の根拠まで見ることができるので、熟考し、自分の意見を洗練できるのが大きなメリット」と齋藤教諭。
 意見の中から一番納得できるものを決定する「まとめる」では、この日はすぐに手が挙がらなかったが、齋藤教諭からの「隣と少し話し合ってもいいですよ」とのアドバイスで、どの意見がめあてに合っているか、理由も添えた発言がでて、柱(1)、柱(2)が決定。次の役割分担を決める際もスプレッドシートを活用し、自分のやりたい役割の欄に名前を入力していく。役割ごとに決められた人数より多く入力されると、「多い」と自動的に表示されるため、児童同士、相談し合いながら、効率的に役割分担を行えた。最後に、決まったことを発表。ボリュームのある話し合いだったが、この日の反省をGoogleフォームで提出するところまで無事完了した。

回数を重ね、より深い話し合いに
 「回を重ねるごとに挙手が増え、流れやルールを守れるようになった。さらに、最初のうちは『楽しいから、面白そうだから』など単純な理由があがっていたが、多くの意見に触れることで、話し合いのめあてに沿った自分の意見を言えるようになった」と齋藤教諭は話す。さらに、最初の数回は従来通りに紙を使用していたが、4回目以降はすべてChromebookを使用した方法に方向転換した。その結果「自分が知りたい情報を知りたいときに見ることができ、意見に生かすことができる」と児童からの意見が多くあったと言う。
 ICTの活用が難しいといわれている「話し合い活動」。一斉編集が可能なツールを工夫し生かせば、効率的で活発な話し合い活動が実現できそうだ。


電子黒板とPCだけを活用している

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