キャリア教育とは? 子どもの将来のために育成すべき力とその取り組み
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社会の変化が加速するなか、「社会で生きる力」の育成が早期から求められています。
学校教育では、子どもたち一人ひとりが将来に向けて自立した力を育む「キャリア教育」が重要視され、さまざまな取り組みが行われています。
本記事では、キャリア教育が求められる背景とその目的、教育段階ごとの実践ポイントについて詳しく紹介します。
キャリア教育とは
「キャリア教育」について、文部科学省は以下のように定義しています。
一人ひとりの社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育
引用元:文部科学省『キャリア教育』
キャリア教育を通して、子ども・若者のキャリア発達を支援し、一人ひとりにふさわしいキャリアを形成していくために必要な能力や態度を育てることを目指しています。
出典:文部科学省『キャリア教育』
キャリア教育が重要視される背景
キャリア教育が重要視されるようになった背景には、少子高齢化やグローバル化、情報化社会の急速な発展などが深く関係しています。
現代では、産業・経済の構造的変化や、雇用の多様化・流動化が進むなかで、子どもたちは将来の理想となる大人像を見つけにくくなっています。
また、社会や環境の変化は、子どもたちの精神的・社会的側面の発達にも影響を与えています。
▽社会・環境の変化が子どもたちの発達に与える影響の例
・人間関係がうまく築けない
・自分で意思決定ができない
・自己肯定感を持てない
・将来に希望が持てない など
こうした時代において、子どもたちが自立して生きる力を育むためには、変化に対応できる力や態度が必要です。キャリア教育は、社会への関心を高め、社会との関わり方を学ぶ機会として重要な役割を担っています。
出典:文部科学省『第1節キャリア教育の必要性と意義』
キャリア教育の目的
キャリア教育の目的は、学校教育を通して社会人として自立した人を育てることです。特に、生きる力を育成するための取り組みが重要視されています。
▽生きる力育成のため学校教育へ求められている取り組み
・学校の学習と社会とを関連付けた教育
・生涯にわたって学び続ける意欲の向上
・社会人としての基礎的資質・能力の育成
・自然体験、社会体験等の充実
・発達に応じた指導の継続性
・家庭・地域と連携した教育 など
これらの取り組みは、子どもたちのキャリア発達を支援し、それぞれにふさわしいキャリアを形成していくための能力や態度を育むことを目指しています。
出典:文部科学省『キャリア教育とは何か』
キャリア教育で育成すべき力
キャリア教育で育成したいのは、4つの能力からなる「基礎的・汎用的能力」です。
▽基礎的・汎用的能力を構成する4つの能力
(1)人間関係形成・社会形成能力:多様な考えや立場を理解し、他者と協力しながら社会に参画・貢献できる力
(2)自己理解・自己管理能力:自分を理解し、感情や行動をコントロールしながら成長し続ける力
(3)課題対応能力:課題を発見・分析し、計画を立てて解決に導く力
(4)キャリアプランニング能力:働く意義を理解し、自らの将来を主体的に設計・判断する力
これらの能力はそれぞれが独立したものではなく、相互に関連・依存した関係です。基礎的・汎用的能力の構成を参考にしつつ、それぞれの課題を踏まえて工夫した教育が望まれます。
出典:文部科学省『キャリア教育とは何か』
各教育段階におけるキャリア教育のポイント
新学習指導要領では、各教育段階のキャリア発達が異なることから、小・中・高等学校それぞれの実践例や教育のポイントについて明示されています。
また、「キャリア・パスポート」の導入・普及も推進しており、学びや生活を見通し、振り返りを通じて意欲を高め、将来の生き方を考える活動を行うための教材提供も行っています。
出典:文部科学省『「キャリア・パスポート」例示資料等について』
小学校におけるキャリア教育
小学校では、低・中・高学年で発達段階が異なるため、それぞれの学年に応じたキャリア教育が求められます。
▽主な取り組みのポイント
・低学年:学校生活への適応、身近な事象への関心、自分の好きなことの発見
・中学年:協力的な人間関係の構築、自分の良さと役割の自覚
・高学年:役割と責任への対応、集団での自己発揮、夢や希望の形成
出典:文部科学省『各学年段階におけるキャリア教育 低学年』『各学年段階におけるキャリア教育 中学年』『各学年段階におけるキャリア教育 高学年』
中学校におけるキャリア教育
子どもの心身が著しく発達する中学校の3年間は、多様な面で成長や変化に合わせたキャリア教育を行うことが重要です。
▽主な取り組みのポイント
・生徒の全人的な成長・発達を支援する視点の重視
・肯定的な自己理解と自己有用感の育成
・興味・関心に基づく勤労観・職業観の形成
・進路計画の立案と暫定的な選択の支援
・生き方や進路に関する現実的探索する機会の提供
出典:文部科学省『中学校におけるキャリア教育』
高等学校におけるキャリア教育
高等学校段階では、生徒が自ら将来のキャリアを主体的に考え、選択する力を育むことが重要です。
▽主な取り組みのポイント
・自己理解の深化と自己受容
・選択基準としての勤労観、職業観の確立
・将来設計の立案と社会的移行の準備
・進路の現実の吟味と試行的参加
出典:文部科学省『高等学校におけるキャリア教育』
キャリア教育における多様な取り組み
キャリア教育は、学校のみならず教育関係者や地域・社会や産業界関係者と連携し、取り組みが進められています。
▽茨城県立水海道第一高等学校の例
・実績のある教育ベンチャー企業5社と協働しプログラムを開発・運営
・生徒自身が教科横断的な5分野の中から1つを選んで学ぶ
・さまざまな分野で活躍する専門家と交流する機会を提供
専門家や企業との交流によって、生徒からは「自分と異なる意見に触れ考えが広がった」「コミュニケーションの重要性について実感した」などの感想が寄せられました。このようなプログラムを通して、生徒が社会とのつながりや将来について主体的に考える機会が生まれています。
出典:文部科学省『取組概要 茨城県立水海道第一高等学校』
キャリア教育は子どもの「生きる力」となる
キャリア教育は、子どもたち一人ひとりの社会的・職業的自立を支える力を育むための教育です。学校現場や地域社会との取り組みを通して、進学や就職だけでなく、「どう生きるか」「どう社会とかかわるか」を考えることが重要なポイントです。
今後も教育現場と社会が協力し、子どもたちのキャリア形成を一貫して支えていくことが求められます。