多様なニーズに対応 次期学習指導要領で 学校裁量の拡大生かせるか
NEWS
中央教育審議会の教育課程企画特別部会は19日、次期学習指導要領の枠組みについてまとめた論点整理を了承した。児童・生徒の多様な実態に応じた教育活動を可能にするために、授業時数の運用や科目の設定などで学校裁量を拡大することが柱。各学校には、これまで以上に計画的な教育課程編成が問われることになる。月内から各教科等の改訂について作業部会で議論を始める。
論点整理は改訂の基本的な考え方として、
(1)現行の学習指導要領で目指していた「主体的・対話的で深い学び」の実装
(2)多様性の包摂
(3)実現可能性の確保
―の三つの方向性を据えた。その実現のため、学習指導要領の構造化や教育課程編成の柔軟化を進めることを掲げた。
知識・技能と思考力などを一体的に育てる授業づくりを促す。教科等の「中核的な概念」を基に学習指導要領の構造化を図り、毎回の授業単位ではなく、単元などのまとまりを通じた資質能力の育成を目指す。
学習指導要領の読みやすさや使いやすさを高めるため、積極的に表形式を取り入れ、デジタル化にも対応するという。
教育課程の柔軟化は、義務教育では特例校制度の下で認めてきた教育課程編成の柔軟な運用を「調整授業時数制度」として全国展開する。具体的には、全体の標準授業時数は維持しつつ、教科間で時数調整できるようにする。
特定の教科に時数を上乗せしたり、学校の「裁量的な時間」として学習支援や教員の組織的な研修に充てたりすることを可能にする。特例校では時数調整の上限を1割としているが、その拡大の可否や、運用方法を今後の作業部会などで詰める。
高校では、小・中学校以上に裁量を大幅に広げる方針を示した。
必履修を含めた教科・科目の柔軟な組み替えを認め、新科目を開設したり、選択科目の中で必履修科目の一部を教えたりできるようにする。
こうした科目編成を後押しするため、卒業単位に含める学校設定科目を現在の20単位より増やすことを検討する他、科目の履修学年も柔軟にする。
特定の科目で学習内容を修得できていると判断できる生徒には、必履修科目を免除する仕組みも設ける。民間試験で英語力が証明された生徒には「英語コミュニケーションⅠ」の履修を免除することなどを想定している。
免除した場合、上位科目の「英語コミュニケーションⅢ」や学校設定科目の履修を認めたり、大学の講義を単位認定したりする。詳しい制度設計や大学入試対策などの不適切な運用の防止策を今後の専門部会で話し合う。
各学校の柔軟な教育課程編成のために単位数の計算を細分化する方針も示した。通年で計算している単位を半期に分割し、卒業に必要な単位数を現在の74から148に増やす。高校が学期ごとに単位を認定したり、細かく単位の増減をしたりできるようにする。
全国高等学校長協会の宮本久也・事務局長は「履修学年などが決められている現行の学習指導要領は教育課程編成が窮屈だった。改訂の方向性ではゆとりができるため、高校現場にとってメリットは大きい。学校全体のマネジメントや教師の指導力が問われることになる」と指摘する。
デジタル社会に対応した情報活用能力の向上も図る。小学校では総合的な学習の時間に「情報の領域」(仮称)を追加し、情報端末を使った探究的な学びを進める。
中学校では、技術・家庭科を再編し、「情報・技術科」(仮称)を新設。生成AIやプログラミングによる問題解決を学ぶ他、材料加工など技術の3領域でも情報技術を扱う。
改訂に向けた議論にあたっては、教職員団体などから、児童・生徒と教員の双方の負担が重いとして標準授業時数の削減を求める意見が上がっていた。ただ「教員の負担軽減のために授業時数を減らすというのは筋が通らない」(文科省幹部)などとして中教審では授業時数の削減には触れなかった。
標準授業時数の柔軟な運用を可能にすることで、学校現場の「余白」を生み出すこととした。


