日本最大の教育専門全国紙・日本教育新聞がお届けする教育ニュースサイトです。

英語力向上へ活用広がる外部検定試験 TOEFLって何?

9面記事

pick-up

 国が定めたグローバル化に対応した小・中学校、高校段階での英語教育改革を推進していくために、その指導体制の強化が求められている。その一つが外部検定試験を活用して県ごとの教員の英語力の達成状況を定期的に検証しようというものだ。そこでは全ての英語科教員について「英検準1級」「TOEFLiBT80点程度」以上の英語力確保が目標に掲げられた。中・高校の英語教員ばかりでなく、企業での就職時のTOEFL活用、国家公務員試験での平成27年度からの外部英語試験の活用と、英語力向上に向けた機運が国全体で高まっている。知名度は高いが、一般的にはなじみの薄かったTOEFLとは何か。過去には国内での試験運営の経験があり、現在では、TOEFLの理解啓発や広報を担当する国際教育交換協議会(以下、CIEE)日本代表部に解説してもらった。

開発・変遷
安定感ある測定を実現
ネット版 ライティングで自動採点

 「『TOEFL』という言葉がこれほど使われたことは、今までなかった」と、外部英語検定試験への期待とTOEFL活用の各界からの言及に、根本斉・TOEFL事業部部長は、こんな感想を漏らす。
 TOEFLテストそのものは、アメリカの非営利教育機関ETS(Educational Testing Service)が問題の作成、運用をしている。もともとは、さまざまな国・地域からアメリカの高等教育機関へ留学してくる学生の英語力が多様だったことが背景にある。英語を母国語としない学生らを対象に高等教育機関で学べるだけの英語力がどの程度あるかを測定し、しかも何度実施しても正確に測定できる安定的な英語能力測定試験が求められ、それを開発、実現したものだという。今ではTOEFLテストでの点数は、約130カ国、9千を超える大学や短大、教育機関などが活用するようになった。
 ちなみにETSはTOEFL以外にも、TOEICやSAT(全米大学入学共通試験)、GRE(大学院入学共通試験)を含む約200のテストプログラムを開発している。
 TOEFLの開発は1963(昭和38)年。初実施は1964(昭和39)年、日本で全国的に実施されるようになったのは、CIEEがETSの委託を受け、日本事務局になった1981(昭和56)年からである。
 当時は、いわゆる紙ベースでの試験(TOEFLPBT)が実施され、紙を使った試験は2007(平成19)年に終了する。コンピュータを活用した試験、TOEFLCBTが登場するのは、2000(平成12)年のことだ〔TOEFLCBTは2006(平成18)年に終了〕。会場には受験のためのコンピュータの用意などもしなければならず、グローバル企業の一つが国内の試験運営を担当するようになる。
 さらに、インターネット版TOEFLテスト(iBT)が日本に登場するのが、2006(平成18)年。TOEFLiBTのライティングの評価には、ETSが開発した自動採点できる技術が使われていたり、スピーキングの評価には、複数の(ETS認定の)採点者が、録音された音声を聞き評価したりしている。
 「世界的に見ても、英語の重要性はドラスチックに変化した。だが、日本国内を見ると、子どもたちの学習や、大学の講義は大きく変わっていない。30年前に海外に出たころは、日本もアジアも英語力はそこそこで変わらなかった。だが、今は、こちらは英語力が当時と変わっていないのに、アジアの学生は英語力も高いレベルにある」(根本部長)と、日本の置かれた現状を指摘した。

概要・特徴
4技能、バランス良く測る
「話す」「書く」発信型分野の評価基準鮮明

 TOEFLiBTの大きな特徴の一つは「読む」「聞く」「話す」「書く」の4技能を総合的に測定できる点だ。そこで問われるのは、英語をどれだけ「知っている」か、ではなく、より実生活に即して、どれだけ「使える」かに焦点を当てたコミュニケーション能力である。満点は120点。「読む」「聞く」「話す」「書く」の配点割合は等しく、各30点=表参照。
 「アメリカの大学の中には、総合点で何点、スピーキングで何点以上などと、求める学生の能力に応じてスコアを独自に設定するところもある」(根本・TOEFL事業部部長)
 海外では、大学の講義内容をよく理解し、自分でまとめ、自身の考えを英語で発信できる能力があるかを求めるためだ。
 国内で推進する英語教育改革では、高校生の卒業時の目標が「TOEFLiBT57点以上程度」と目標を掲げる。
 「TOEFLは高校生には難しい」という一部の意見に対しては、「曖昧な言い方」と、根本部長は指摘する。
 大学入試センター試験の活用でも、さらに大学側が独自に2次試験で必要な能力を問う点を引き合いに出しながら、TOEFLの活用の仕方について、こう話す。
 「アメリカやカナダの大学では、TOEFLの試験問題の内容を見て、自分の大学で勉強するのに必要なレベルを判断する。スコアのレンジをどう設定するか。利用するユーザーが判断すればよいのでは」
 英語教員の目標に掲げられている「TOEFLiBT80点」は、英語で英語を教える授業が求められる中で、英語を母語としない英語教授法TESOL(Teaching English to Speakers of Other Languages)を海外で学ぶ際に最低限必要な点数、と根本部長は見る。
 TOEFLテスト自体は、「読む」「聞く」「話す」「書く」について、テストセンターで1人1台コンピュータが割り当てられ、全セクションをコンピュータ上で受験する。
 テストに要する時間は4時間から4時間半程度。全セクションでメモを取ることが可能。「話す」セクションでは、マイクに向かって話し、音声が録音される―などの仕組みを取る=表参照。
 また、TOEFLの大きな特徴の一つには、評価の明快さがある。特に、「話す」「書く」などの発信する分野での評価基準ははっきりしている。
 スピーキングは、各設問を0〜4点、ライティングは各設問を0〜5点で採点する。1点の場合に求められる能力、4点の場合に求められる能力と、入れるべき要素など、評価のためのルーブリックが確立・公開されている。
 例えば、スピーキングの4点の評価は、多少のミスはあっても論旨がはっきりしている、聞く側が努力をしなくとも内容が分かる、などが具体的にルーブリックに示されている。
 これは評価者によって、評価がばらばらにならず、安定的でフェアな評価が可能なことを意味する。
 「発信型の内容が求められている日本の英語教育でも、日々の授業の中で、この評価の在り方は有効なものになり得るのではないか」(根本部長)と言う。

TOEFLiBT(R)構成・問題数・時間配分・スコア
TOEFLiBT(R)構成・問題数・時間配分・スコア

Speaking Section(出題例)
Speaking Section(出題例)

受験手続き
英語教員に優遇措置

 TOEFLiBTは年間約40回実施している。CIEEでは、受験者が受験計画をより早く立てられるように、例年11月ごろに翌年の上半期(1〜6月)の試験日を公表している(下半期は5月ごろ公表)。受験の手続きはETSのホームページを活用する。TOEFLiBTの受験要綱に当たるBulletin(TOEFL Information and Registration Bulletin)を入手し、必ず読むことが求められる。それは受験要綱を読むことで、内容を理解し全ての条項に同意した上、申し込みおよび受験していると見なされるためだ。
 事前には、パスポートなどの身分証明書(ID)の準備、公式サイト上に個人のアカウントページ「My Home Page」を作成することは必須。個人のアカウントページ作成時に入力した氏名・生年月日は試験当日持参する身分証明書と内容が異なる場合に受験できなくなるので、注意が必要。個人のアカウントページを通じて、オンラインでのテスト申し込み、スコアの確認、出願先へのスコアレポート送付依頼できるようになる。オンライン以外、電話や郵送での申し込みも可能だが、オンラインも含め、テスト申し込みは3カ月先のものまで。
 受験後、12日間を経過しないと、続けて受験はできないという制約もある。
 試験時間は1日で終了するよう設定しているため、長時間にわたるが、途中でテストを放棄した場合には、スコアは付与されない。
 「海外での受験事情を見ると、受験料は安くないので、いわゆる過去問をしっかりやって、自信が付いたところで本試験に向かうのが一般的。ただし、過去問だけを勉強していても、いいスコアが出る試験内容にはなっていない。日頃の積み重ねが重要」(根本・TOEFL事業部部長)
 英語教員が外部検定試験を受験する場合には、国の働き掛けで優遇措置が、それぞれの試験で配慮されている。例えば、TOEFLiBTの場合、平成29年3月末まで、通常の受験料金(225USドル)ではなく、1万7700円(2014年5月現在)で受験が可能。ただし、受験者の上限は500人。達したところで、優遇措置は終了する(CIEEホームページ参照)。

テストの種類
団体・子ども向けも

 日本国内では、TOEFLiBT以外に、TOEFLテストとしては、目的、年齢層、習熟範囲に合わせて設計され、実施している三つのテストがある。
 「TOEFLITP」「TOEFLJunior」「TOEFLPrimary」がそれだ。
 「TOEFLITP」は、ETSが作成する団体向けテストのこと。ペーパー版TOEFLテストで使用した問題を活用する。日本国内でも、大学、高校、官公庁、企業など500以上の団体が使用しているという。最少人数が10人以上であれば実施が可能。掛かる費用もTOEFLiBTの約6分の1とローコストでもある。
 例えば、名古屋大学では、新入生全員にリスニング、リーディング、文法・構文の3セクションから成る「TOEFLITP」などを受験してもらい、英語の授業のクラス分けに活用していることは広く知られている。
 この他、利用する大学などでは、海外研修や交換留学プログラムなどの留学希望者に対しての選抜試験として課すところも少なくない。
 「TOEFLJunior」は、11歳以上の児童・生徒の英語運用能力を測るテスト。「スタンダードテスト」と「コンプリヘンシブテスト(2014年後半導入予定)」の2種類がある。
 スタンダードテストはペーパーテストによって、「リーディング」「リスニング」「文法・語彙(ごい)」の力を測り、コンプリヘンシブテストは「リーディング」「リスニング」「スピーキング」「ライティング」の4技能を、コンピュータベースのテストを使い、測定するものだ。
 「TOEFLPrimary(2014年後半導入予定)」は、8歳以上の児童・生徒が対象。英語学習の初期段階にある能力をペーパーテストで測る「リーディング・リスニングテスト」(ステップ1)と、ある程度英語によるコミュニケーション能力を習得している者への「「リーディング・リスニングテスト」(ステップ2)を用意した他、さまざまな英語習熟度レベルにある者の能力を測る「スピーキングテスト」から構成している。
 「TOEFLJunior」と「TOEFLPrimary」は、ヨーロッパでの英語学習の習得状況のガイドラインとなっている「ヨーロッパ言語共通参照枠」(CEFR)のレベルと対応し、習熟度を客観的に判断することができる。

pick-up

連載