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英語教育改革、国のビジョンは

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 国際社会で活躍できる若者を育てようと、文科省は昨年、英語教育改革実施計画を打ち出した。同省の掲げる「グローバル人材」育成の道筋をどうつけるのか。政策担当の義本博司審議官と、全国の教育委員会や学校へ授業改善を呼び掛けている太田光春視学官の2人に聞いた。

気付きと系統性のバランスを
教員研修、ICTで支援
義本 博司 文科省審議官

 ―昨年公表した英語教育改革実施計画を見ると、次の学習指導要領では大きく変わりそうですね。
 いまは道徳のみ先行して中央教育審議会で議論していますが、その他の教科等は今秋から審議を始めて2年弱かけて答申にまとめます。英語も同様で、平成28年度の改訂を視野に入れています。ただ、条件整備や指導体制の整備や学校現場で先導的な取り組みをしてもらうことについては、本年度から始めています。

 ―計画では30年度から先行実施としていますが、学校種に分けて行っていくのでしょうか、一斉に実施するのでしょうか。
 そこは中教審で議論していくことになります。教科書ができる前の段階では、国として教材を用意することも考えています。
 現在、外国語活動の教材として「Hi,friends!」を配布していますが、今後、中学年から外国語活動が導入されると、それにふさわしい教材を開発することになると思います。

 ―小学校での教科化をめぐっては有識者会議で教育内容が議論されています。
 高学年の教育内容についても、これまでの外国語活動の実績、成果の延長線上で考えなければいけません。一方で、外国語活動を経験した中学生に聞くと「小学校時代に英語の文章を読むことを習っておけば良かった」とか「6年生になったら外国語活動に物足りなさを感じた」という声が目立ちました。
 また、中学校では、小学校の外国語活動を踏まえないような英語の授業もあります。小・中学校のスムーズな移行のためには、5・6年生の英語では音声を中心としながらも、文字の扱いを取り入れ、学習内容をもっと系統的にすべきだというのが見直しの基調になっていると思います。
 ただ、内容は前倒ししても、子どもたちの気付きや興味を大事にする小学校の文化を大切にし、指導方法はよく議論してから詰める必要があります。

 ―子どもの気付きと教科の系統性とのバランスは取れますか。
 他の教科でも同じことですが、高学年になると抽象的な概念が入ってきます。系統性を高めることと、子どもが気付きや興味・関心を見いだすことは矛盾することはないので、どう整理するかが大きな課題です。
 現在は、その視点がないままに中学校では文法や知識を理解することが中心になっていて、子どもが英語嫌いになってしまうこともあります。英語をコミュニケーションの道具と考え、4技能をバランス良く高めることを目指す上で、小中高一貫した目標や、継続的・系統的な指導・評価へと改善することが有識者会議のテーマになります。

 ―小学校の英語は誰が教えるべきでしょうか。
 英語指導力があり、免許を持った担任が教えるのが理想ですが、現実はそう簡単にはいきません。そうなると専科の教員が軸になりますが、子どもたちの興味・関心をうまく引き出せる担任のサポートも必要です。
 ただ、高学年では、今後、理科や算数など全体的に専科を中心に構成していくことになると思います。
 現在の外国語活動は、教員が相当の英語力を備えていなくても子どもたちと一緒に学んでいくことを基本に考えていますが、教科化すると、そういうわけにはいきません。
 小学校教員で中学校英語の免許を持っている人は4%(約1万5千人)です。彼らを研修して高学年の授業を持ってもらうようにすることも大事ですし、中学校の教員が小学校で教えられるよう特別な研修を行うことも必要になります。
 それと並行して中長期的には、小学校教員の養成段階で英語の指導力を身に付けてもらうとか、専門の免許状を設けるといったことも考えていきます。

 ―中学と高校の指導体制はどう整えますか。
 高校で、授業は英語で行うことを基本とすることを学習指導要領で打ち出したりしたことは、大きなインパクトがありました。取り組んでいる学校では成果を上げていると聞きます。それを中学校にも広げていくことが今後の目標になりますが、鍵は学習到達目標をつくり、それに合わせた活動、指導方法へと変えていくことです。
 一方、実際の問題として入試改革は切り離せません。授業中に生徒が英語でコミュニケーションする活動を多く取り入れている学校がある一方、従来型の日本語で英語を教え、生徒は英語をあまり使わないという学校も依然としてあります。
 生徒の4技能を測ろうとすると筆記テストだけではなく、パフォーマンステストも必要になります。
 有識者会議でも外部試験を入試で活用するための仕組みづくりを議論しています。

 ―4技能を重視すると言っても、試験で測られなければ結局、指導も勉強もしませんね。
 中学・高校にとって入試は無視できない問題ですし、読解や文法が中心の入試が多い現状では、教員が指導方法を改められない理由の一つにもなっています。
 指導方法の問題については、これから英語教育推進リーダーを育てて、この方が講師となって各地域や学校で研修を行ってもらいますが、それはかなり大事な研修になります。
 ただ、それだけでは時間が足りないし、十分ではないと思っているので、教員が自己研さんを積めるような仕掛けも考えていきたいと思います。最近はICT技術も発達しています。タブレット端末などに対応した音声や動画で反復できるような教材の開発・提供も進めていきたいと思います。

4技能を伸ばす授業が必要
「使いたい」意識を育てて
太田 光春 文科省視学官

 ―英語教育を通して育てようとしている「グローバル人材」とは。
 人はそれぞれ考え方も価値観も、生い立ちなど狭義での文化的な背景も異なります。協力して暮らしていくためには、相手を尊重する気持ちが前提になります。この人と人の関わりが、個人レベルから全地球的レベルになると、「グローバル」ということになります。
 グローバル人材とは、人に対する敬意を忘れず、他者と協調して仕事をすることができる人、そして異質なものに理解があるだけでなく、異質なものが存在していることを本気で良かったと思える人のことです。
 英語教育を通して、相手をやり込めたり優越感に浸ったりするためではなく、人と人をつなぐ手段として言葉を使える人を育てたいと考えています。

 ―4技能を重視した現在の学習指導要領の目標は、学校現場でどの程度達成されているのでしょうか。
 新学習指導要領が発表されて以来、教員の意識は大きく変わったと感じています。コミュニケーション能力の育成という外国語科の目標を踏まえた授業が全国各地で展開されるようになりました。相手の言うことが分かる喜びや相手に伝わる喜びなど、コミュニケーションを通してのみ得られる喜びが感じられる授業が急激に増加しました。
 ただ、学校だけでは十分に身に付きません。学校外でも進んで英語を聞いたり読んだり、話したり書いたりする人を育てなければ英語教育は成功とはいえないのです。そのため、学習者としての自信を高める授業、動機付けとなる授業、4技能の伸ばし方を教える授業がこれまで以上に求められています。

 ―改訂当時は批判もありましたね。
 授業を英語で行うことに異を唱える声もありましたが、私は、泳げるようになるには水に入るしかない、英語を身に付けるには英語に触れるしかないと言い続けてきました。プールサイドでクロールを教えても、できるようにならないのです。
 生徒はなぜ話せないか。授業で話させていないからです。なぜ聞けないか。授業で聞かせていないからです。なぜ書けないか。授業で書かせていないからです。
 言語ですから文法や語彙(ごい)の知識は必要です。しかし、それらの知識はコミュニケーションに活用できて初めて意味を持つことを忘れてはなりません。

 ―英語教育改革で、どんな教員を求めていますか。
 教員は生徒のロールモデルであるべきだと思います。教員が一人の学習者として生涯学び続けるその後ろ姿を生徒に見せることが重要です。もちろん、教師にとっても英語は外国語ですから、授業で間違えても構いません。
 生徒のために一生懸命英語を使う、その姿が生徒の共感を呼び、この先生に学べば自分もいつかこの先生のように英語が使えるようになるかもしれないという期待を抱かせることになるのです。この役割は英語母語話者ではできません。日本人の先生が英語を使うことには意義があるのです。

 ―英語教育改革実施計画では、教員に必要な英語力も示していますね。
 先生の英語力は高いにこしたことはありませんが、英語力が高い先生が必ずしも良い先生であるというわけではありません。
 とは言え、英語が使えない人が英語を教えることも不可能です。
 では現在、教師にはどれだけの英語力が期待されているのか。
 例えばケンブリッジ英検では、国際的な英語能力指標の「CEFR」でA2レベルの英語力を判定する評価者は2段階上のB2に相当する英語力を備えていなければならないようです。これに照らして考えると実施計画に掲げられた高校卒業時の目標はB1〜2レベルですから、高校教員にはC1レベル相当以上の英語力が求められることになります。

 ―視学官自身、4技能を使う授業に変えようと、精力的に訴えていますね。
 情報や考え、気持ちを伝え合うことを中心とした授業にすると生徒に面白い変化が生まれます。
 まず、伝えるべき内容をも持つようになり、よく考えるようになります。さらに、聞いたり読んだりするときに、表現を求めるようになります。理解できればいいという意識から、使える表現を見つけようという意識で英語を聞いたり読んだりするようになります。使うことを意識して英語に接するようになると、言語形式への「気付き」が生まれます。これは言語習得に極めて重要です。

 ―授業を変える上で、具体的に何かヒントはありますか。
 第一に、授業を整理することです。(1)教員がいるから効果的にできること(2)他の生徒がいるからする価値のあること(3)英語母語話者がいるからする価値のあること(4)生徒が一人でできること―。この四つの観点から授業を再点検し、授業でしかできないことを授業で扱うようにすることが大切です。
 授業で答え合わせばかりしている学校は、生徒が一人でできることをわざわざ学校の授業でしていることになります。
 グローバル時代の到来を受けて、国や自治体が研修の機会を充実させています。先生方には、これをチャンスと捉え、英語力や英語による指導力、併せて妥当性・信頼性のある評価について専門性を高めていただきたいと思います。
 先生たちと力を合わせて、学習者に優しい、時間と労力の報われる英語教育を実現したいと考えています。

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