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高校の授業改善を後押し

8面記事

高校

アクティブ・ラーニングの視点で
都道府県教委教育センター

 次期学習指導要領では、高校での授業改善のためにアクティブ・ラーニングの手法が注目されている。以前から取り組んでいた教師個人での実践にあらためてスポットライトが当たっている他、「アクティブ・ラーニング」が求められる機運が高まるより前から授業改善の方向として学校全体で着手しているところなどが、けん引役を担ってきた。アクティブ・ラーニングの導入自体が政策課題になってきたことから、都道府県教委や教育センターも事業や研修などで後押しする動きが目立ち始めた。

「主体的・対話的で深い学び」実現へ
「協調学習」「ICEモデル」など取り入れ
各県が独自にアプローチ

 これからの学習・指導の改善・充実では、アクティブ・ラーニングの視点として「主体的・対話的で深い学び」をいかに実現させるかが問われる。
 そのためには、例えば、言語活動、体験活動、問題解決的な学習、見通し・振り返りなどの関係を整理していくことが必要と、中央教育審議会の検討過程では指摘されているところだ。
 高校段階でのこうした授業改善は、各県段階でも、さまざまに展開されている。

タブレット端末活用
 例えば、埼玉県教委では、6年前から生徒同士の学び合いを取り入れた「協調学習」に取り組み、全県的に推進してきた。既に高校教員の2割に当たる約1600人が「協調学習」による継続的な授業改善に取り組んでいるという。
 具体的には、東京大学が設立した大学発教育支援コンソーシアム推進機構との連携の下に進めてきたもので、その中心は「ジグソー学習」といわれる活動。例えば、一つのテーマをグループごとに学習を深めて、他の生徒に説明する準備を「エキスパート活動」として取り組み、それぞれ異なるテーマを学んだ生徒が別のグループを作り、教え合うものだ。
 本年度からは「協調学習」をICT活用の面から支える「近未来学校教育創造プロジェクト」を実施し、「学びの改革」を発展させ、推進中。
 県立高校10校に各40台のタブレット端末を整備し、協調学習に活用するとともに生徒一人一人の進度に応じた学習による知識の定着を図りやすくすることを狙う。
 同時に、優れた教材を共有・蓄積した情報交換サイトなどを活用して、学校、教科の壁を越えて教材開発などに活用してもらい、教員の指導力や教材の質の向上を目指す。

指導・評価法開発へ
 全県的な取り組みとしては、広島県教委が策定した平成26年度から10年計画で「広島版『学びの変革』アクション・プラン」を進行させている。
 これまでの知識習得重視の受動的な学びから、コンピテンシー(能力)の育成を目指した主体的な学びを視野に入れた。「課題発見・解決学習」を推進し、授業改善していくための手法の一つに「ICEモデル」を位置付ける。カナダのスー・F・ヤング博士らによって開発されたもので、アクティブ・ラーニングを加速させるモデルともいわれ、「I」は「考え・基礎知識」(Ideas)、「C」は「つながり」(Connections)、「E」は「応用・ひろがり」(Extensions)。
 既にこの考え方は、県内では一般化したという。
 高校段階での「課題発見・解決学習推進プロジェクト」では、「学びの変革」パイロットハイスクールに、「総合的な学習の時間」を核とした授業研究や、横断的・総合的な学びを促進する「探究コアスクール」、各教科の授業研究、体験的な学びなどを促進する「活用コアスクール」を指定し、カリキュラム、指導・評価方法の研究開発に取り組むなど、生徒の主体的な学びを促進する。

効果的学び直し研究
 また、群馬県教委は27年度から全県立高校を対象に「群馬県高校生ステップアップサポート事業」に取り組んでいる。
 各校が校内研修推進委員会の設置とステップアップサポート・コーディネーターを指名し、共通テーマ「知識・技能を活用した言語活動の充実」「協働的な学習(学び合い学習)」と、四つの選択テーマ「学力定着に課題のある生徒に対する支援」「学び直し学習の効果的な進め方」「ICTを活用した効果的な指導」「知的好奇心を喚起する教材の開発」のうちの一つを研究テーマに、全教員が参加する校内研修や研究授業、生徒による授業アンケートなどを取り入れているのが特徴だ。
 民間・大学の共同調査「高等学校におけるアクティブラーニングの視点に立った参加型授業に関する実態調査」では、参加型授業に関する校内研修実施率(77・1%)が全国で最も高かった。
 本年度は、地区内のAL型授業の普及・拡大を担う「ステップアップサポート推進研究員」を教科、地区ごとに延べ60人を指名。推進研究員の先進的な授業実践や昨年度1年間の各校の取り組みを地区ごとに共有し合う体制づくりを進めている。

海外の学校と連携
 福井県教委は、昨年度から県立高校3校、福井大学教職大学院、県教育研究所が参画する「福井クラスター」としてOECD日本イノベーション教育ネットワークに参加する。
 地域のエネルギー・環境問題の解決に向けたプロジェクト学習を進めながら、2030年を見据え、これからの社会に暮らす「私たち」に必要なスキル・知識・人格をも探究する。シンガポールの学校と連携し、スカイプなどを通じて互いの研究成果を発表し合ったり、共同研究に取り組んだりする予定だ。
 大阪府教委が実施する「学校経営推進費」支援校事業。生徒の学力の充実策として、アクティブ・ラーニングを事業の柱として計画する高校がある。
 例えば、「総合的な学習の時間」(2年次)にアクティブ・ラーニングが実施できる教室の整備、図書室を生徒が自主的に学べるスペース「学習支援型図書室ラーニング・コモンズ」として再生、プロジェクターを活用したアクティブ・ラーニング型授業を多様な教科で実施などの構想がある。3年後の数値目標を掲げ、国公立大学合格者や難関私立大への現役合格者増、授業満足度の向上などを具体的数値で示す学校がある。
 この他、鳥取県教委は、23年度に「新時代を拓く学びの創造プロジェクト高等学校学力向上推進委員会」が「教え込み学習の限界」を提言したことを受け、翌24年度から県立高校全校で「協調学習」(アクティブ・ラーニングの手法の一つ)を導入して授業改善に取り組む。
 高知県教委は「教師力アップ事業」として「アクティブ・ラーニングを活用した指導方法の改善」を掲げ、言語活動充実のためのNIE、有権者として求められる力を育む実践的研究などを進めたい考えだ。

研修機会提供から指導法の研究まで
教員の意識改革に

 授業改善には、教員の意識改革が欠かせない。そのための研修機会の提供、研究も目立ち始めている。
 教務主任、進路指導主事など、特別支援学校は研修主任を対象に、平成28年度から3年計画で研修を実施するのが静岡県総合教育センター。校長推薦者を対象に校内研修の中核を担う人材を育成する狙いがある。
 既にアクティブ・ラーニング型授業推進のための啓発リーフレットを作成して、授業改善の視点や授業例なども示した。そのリーフレットの使い方などの説明動画も提供する。
 兵庫県教委は本年度から、「ひょうご学力向上サポート事業」の研究テーマに「アクティブ・ラーニングの手法を導入した学習・指導法」を新たに追加した。
 県立宝塚東高校、県立北条高校など5校を指定し、アクティブ・ラーニングの視点からの授業改善に取り組む一方、「ひょうご学力向上サポート事業」の一環として、「アクティブ・ラーニング全県研修会の実施」を本年度の新規事業に掲げている。
 宮城県総合教育センターは、鉄は熱いうちに打てと、2年目の高校初任者研修学習指導研修の講義・演習に「生徒参加型授業について」を設けて、授業力向上を目指す。
 滋賀県教委は教科指導力に優れた教員を「コアティーチャー」として選出し、公開授業と授業研究会を通して教員の指導力向上を図ろうとしている。
 大分県教委はアクティブ・ラーニング型授業における効果的なICTの活用を研究するなど、全県的な研究に着手した。保護者を対象にしたフォーラムなども開催する。
 佐賀県県教委は、昨年度から教員対象の研修を年1回(8月)に実施する。講師を招いて、指導・演習を行う他、教員で5教科の「教科指導力向上研修」として研究チームを組織し、アクティブ・ラーニングの視点を取り入れた授業力改善策を研究している。

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