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社会の中で生きて働く知識を

10面記事

企画特集

新・理科教育特集

 来年度、小学校から順次始まる理科の新学習指導要領では、これからの社会で必要な「生きて働く知識」を育成するため、子どもが主体的に「なぜ?」という疑問を持ち、それに自ら取り組んでいく働きかけをする授業が期待されている。そこで、こうした力が理科教育に求められる背景とともに、子どもの理科への関心・意欲を引きだし、課題解決する力を育む理科機器ツールを紹介する。

探究的な学びに向けて「実験・観察」を重視
 小学校理科の新学習指導要領では、科学的な探究に基づいた課題解決力を養うことがテーマになっていることから、「知識」の習得だけでなく、「器具や機器などを目的に応じて工夫して扱う」、「そこから得られた結果を適切に記録する」といった「技能」を身につけることが重視されている。したがって理科の授業においては、これまで以上に「実験・観察」を積極的に取り入れることが求められており、理科機器を活用する機会が増えていくことが期待されている。
 このような背景には、理科の授業が知識詰め込み型の座学中心になって想像性や面白みを欠くことで、結果的に「理科離れ」を招いてしまったことが教訓にある。
 本来、理科という学問は正解を導くことよりも、正解に至るプロセスを発見することに意義があったはず。子どもたちが試行錯誤する中でつかんだことが本物の知識になるのであり、それが理科という学問が持つ醍醐味になる。そんな自らチャレンジして失敗したり、成功したりしてつかむ理科の楽しさに立ち戻ることが、「理科離れ」を防ぐことになる。つまり、将来のモノづくり日本を支える理科系人材を育成していくためには、もう一度子どもたちに理科への関心・意欲を呼び戻す必要があるのだ。

予測不可能な時代を前に
 とりわけ、今の子どもたちが大人になる頃には人工知能(AI)やロボット技術が飛躍的に進歩し、これまで人が行ってきた仕事が機械に置き換えられるなど予測不可能な時代になることが予測されている。その中では、社会構造がどれだけ変わろうと、新しいアイデアと高い技術力を駆使し、実用へと導くことのできる理工系人材を育成することが不可欠になっている。
 したがって、今後も我が国が豊かさを実感できる社会を実現していくためには、これらの先端技術をあらゆる産業や社会生活に取り入れていくことが大事になる。実際、我が国のこの分野における国際競争力は地盤沈下の一途を辿っており、その根底には若者の理工系離れがあるといわれている。理学、工学、農学部の学生数は1996年をピークに減少を続けており、ついには「絶滅危惧学科」と呼ばれる学科も存在するようになっているほどだ。
 また、起業家活動の国際比較でも日本は最下位に甘んじており、若者の積極性やイノベーションを生む力が足りないことも懸念されている。これについては、今の理工系学生は自然科学や科学技術に関心は持つものの、それが社会の中でどう関連し、どのように活かされているかについて考える意識や機会が少ないことが指摘されている。

イノベーションを起こす人材を
 こうしたことから、文部科学省では理工系プロフェッショナル人材の育成強化に向けた「理工系人材育成戦略」を打ち出し、産学官協働による環境整備を進めて教育研究機能の強化を図っていく方針を掲げている。
 その上で、こうした理工系人材に求められる能力は一気に得られるものではないことから、小学校段階から社会の中で生きて働く知識を獲得することを目的に、創造性・探究心・主体性・チャレンジ精神を育み、次代を担うイノベーション人材・グローバル人材を育成していくことを挙げている。
 それゆえ、新学習指導要領における理科では、「実験・観察」等の充実のため授業時数増、理科教育充実のための理科教育設備整備の予算拡充、小学校における理科専科教員の投入推進などを実施し、主体的・協働的な学び(アクティブ・ラーニング)の促進や、観察・実験の充実などを図り、これらの力を育んでいく意向を示している。

ICTの特長を生かした理科授業
 子どもたちの理科への関心・意欲を取り戻す有効なツールとなるのが、授業での「実験・観察」を効率的・効果的に実現するICT機器の活用だ。ICT活用には「時間的・空間的制約を超える」、「距離に関わりなく、双方向性を有する」、「多様で大量の情報のカスタマイズが容易である」といった特長がある。
 こうしたICTの特長を生かした学習場面の例には、

 (1)「思考の可視化」=教室(場所)や1時間の授業(時間)にとらわれず、子どもの学習のプロセスや結果を見ることができる。
 (2)「瞬時の共有化」=あらゆる授業場面で、一人一人の子どもやグループが考えたことを、瞬時に共有することができる。
 (3)「試行の繰り返し」=よりよい解決策を見つけるために、調べたことや話し合いを基にして試行錯誤することができる。

 の3つが挙げられる。
 問題解決を重視する理科の学習では、「実験・観察」が欠かせない。なぜなら、こうした自然の事物・現象に働きかけていく活動の中で、子どもたちには解決したい問題に対して予想や仮説を立て、それを確かめていく必要があるからだ。そして、その根拠となる「実験・観察」の結果を明確にするために、ICTを活用することが期待されている。

考えを深める時間をつくる効果
 具体的にはデジタル教科書やインターネット上にある資料(動画・静止画含む)を教材として活用することが中心になる。ここでは、電子黒板などを通して皆で共有化することや、何度でも繰り返して見ることができるほか、分子や大地の動きなど実際には見られないものも見られるといった利点がある。また、タブレットを使えば調べることはもちろん、グループで話し合ったり、まとめたり、発表したりするときも便利だ。
 このように限られた授業時間の中で「実験・観察」を多く取り入れるには、単元の内容によってICTを上手く利用し、子どもたちの関心・意欲を高めることが大切になる。しかも、わかりやすい映像と解説で実験する以上の効果を上げることも期待できるほか、学習の振り返りにも応用できたりするなど、子どもたちの学習理解の向上にも結びつくメリットがある。
 加えて、最近のデジタル顕微鏡などの理科機器にはコンピュータと接続できるものも増えているため、実験の状況をリアルタイムに共有化し、クラス全体の学びに活用することもできるようになっている。現在の「教材整備指針」の品目でも、こうしたデジタル化の波が押し寄せており、「実験・観察」の過程での情報の検索、実験データの処理、実験の計測などにおいて、コンピュータや情報通信ネットワークなどを積極的かつ適切に活用することを示すとともに、学校全体で共有可能な教材として、電子黒板、実物投影機、マイクロスコープ、イメージスキャナなどを品目化している。
 教員が授業に実験を取り入れることを躊躇する大きな理由の1つには、実験に時間がとられてしまい、子どもの理解や深い学びまでたどり着かないケースが多々あることが挙げられる。ICT活用には、そうした時間を短縮し、考えを深める時間を確保できる魅力がある。

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