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プール授業中止相次いだが…動画見て水泳イメトレ(動画あり)

7面記事

教科・指導

藤本・慶應義塾幼稚舎教諭ら「水難事故防止用教材」を作成

 本年度は新型コロナウイルス感染防止を理由に、全国の多くの小・中学校でプール授業の中止が相次いだ。こうした状況を受け、水泳指導に詳しい藤本秀樹・慶應義塾幼稚舎教諭と鳥海崇・同大学准教授は「水難事故防止用教材」(動画)を協働で作成し、同大学体育研究所のホームページ上に公開した。この動画を通して、子どもたちは水泳授業ができなくてもイメージトレーニングを積むことができる。藤本教諭は「水難事故防止に少しでもつながれば」と期待を寄せている。

命守る「背浮き」など学ぶ

 今夏は水難事故が例年より多かったことから、水の安全について学ぶ重要性が一層高まっている。新型コロナの影響で水泳授業が中止になった学校が多かったため、「映像を見るだけでも水難事故の防止に役立つのでは」と考えたという藤本教諭。(公財)日本オリンピック委員会強化スタッフ・水泳競技フィットネスコーチ(1992~2000年)などを務め、「安全水泳」(着衣泳・救助法)に詳しいことで知られ、鈴木大地・スポーツ庁長官と共に編著者として「だれでもどこでも泳げるようになる! 水泳大全」(東洋館出版社)なども出版している。
 藤本教諭が証明した安全水泳イメージトレーニングにはステップがある。

 (1) 泳法の技術的説明(子どもたちは実際に泳いでいるようなつもりで聞く)
 (2) 泳法ビデオの鑑賞((1)の技術的要素を付け加えながら説明)
 (3) 教員が実際に着衣したままで泳いで見せる

 ―の三つ。今回改めて公開用として作成したのは、泳ぎのイメージを持たせるステップ(2)に当たる動画だ。
 川や海などで生じる水難事故は、服を着たままで起きることが多い。水を含んだ衣服は重くなり、パニック状態のまま、授業で習ったクロールなどで必死に泳ごうとすると沈んでしまう。動画で扱っているのは、「命を守るための指導内容」と語る藤本教諭。呼吸を確保できる「背浮き」や「立ち泳ぎ」などの泳法に加え、命の尊厳を含めて水との関わりをきちんと学べるよう工夫を凝らした。
 1日に30分を使って1ステップを扱う。それを1週間繰り返せば、イメージトレーニングだけで泳げるプロセスをたどれるようになっているという。学年で一斉指導を行うことが多い水泳授業。動画を活用する場合は学年団の教員らで集まり、指導に関わる共通理解を図っておくことも必要だ。また、家で動画を視聴することを課題に出す活用方法も考えられる。動画の長さは約8分30秒。学習者の視点に立ち、集中力を保てる時間内で編集したという。撮影場所の確保に当たっての大学との調整や動画編集は、鳥海准教授が担当した。
 水泳に「縁」を感じ、自らの人生を豊かにしてくれたという藤本教諭。だからこそ、子どもが水難事故で命を落とさないよう、「速さを競う泳法ではなく、『何のために泳ぐのか』という部分に着目して指導してほしい」と語る。本年度から新学習指導要領の全面実施を迎えた小学校。解説「体育編」にある体育科の目標及び内容には、「水泳運動系」に関して「より現実的な安全確保につながる運動の経験として、着衣をしたままでの水泳運動を指導に取り入れることも大切である」という一文もあり、「安全水泳」の取り組みを後押しする。
 来年度も「コロナ禍」が続くことも考えられる。年度内にステップ(1)と(3)の指導者向けの教材(紙媒体や動画など)を作成し、来年度の指導に役立てられるよう出来上がったものから随時ホームページにアップする計画だという。
 問い合わせ(同大学体育研究所)=Tel045・566・1068(鳥海)

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